世界の最新ワインニュースと試飲レポート

MENU

  1. トップ
  2. 記事一覧
  3. 気候変動に直面するブルゴーニュ 課題への対応と展望(2)

気候変動に直面するブルゴーニュ 課題への対応と展望(2)

  • FREE

穏やかな抽出と全房発酵の導入


日本ソムリエ協会2021年3月刊「Sommelier」179号掲載


 気候変動は栽培だけでなく、醸造にも変化をもたらしている。2019年は水不足と結実不良で、ブドウは小粒になり、果汁の比率が低い。パンチング・ダウンやポンピング・オーヴァーの回数を減らして、煎じるように穏やかな抽出に努める生産者が多かった。


 ヴォーヌ・ロマネのグロ・フレール・エー・スールのヴァンサン・グロは、両方とも行わなかった。アラン・ユドロ・ノエラのシャルル・ヴァン・カネが興したミクロネゴスは、パンチング・ダウンを行わず、ポンピング・オーヴァーだけにとどめた。補酸した造り手も少なくない。


 フレッシュ感を与えるために、全房発酵の比率を高める造り手も目立った。果梗のタンニンは青さを与えがちだが、熟度の高い2019年は茎まで熟した。全房発酵は複雑なテクスチャーとアロマ、熟成してからのハーモニーを生むとされている。


 ルイ・ジャドはバルニエの前任のジャック・ラルディエールの時代から除梗するのが基本だったが、2020年はボーヌ・レ・クラとサントネイ・マラディエールの2区画で、実験的に全房発酵にトライした。


 フレデリック・バルニエは「これまでは、茎のタンニンはいらなかった。必要なのは果実。果梗はヴェジタルでアグレッシブになると。マセラシオン中にpHが上昇し、揮発酸が生じるリスクがあるから、ルイ・ジャドは除梗してきた。ただ、2020年はフレッシュ感が生まれて興味深かった。どこまで使うかはバランスの問題だが」と語った。


白は部分的にマロをブロック


 ブルゴーニュの白ワインは、基本的にマロラクティック発酵を行ってきたが、そこも変化の兆しがある。ルイ・ジャドの白ワインのアルコール度は14%近くに達した。2019年は部分的にマロをブロックした。とりわけ、シャブリとブーズロンのワインで行ったという。フレッシュ感を保つために必要だったのだ。


 熟成容器はプレモックス(熟成前酸化)の問題もあって、以前から変化している。新樽比率は全体に減少している。バンジャマン・ルルーら若いヴィニュロンは、228リットルのピエスだけではなく、オーストリア製ストッキンジャーなどの大樽を使用している。


 シャサーニュ・モンラッシェのピエール・イヴ・コランは350リットル、ピエール・イヴの弟ジョゼフ・コランは500リットルの中古樽でグランクリュもプルミエクリュも熟成して、フレッシュ感を保っている。


フレッシュな白とエネルギーの詰まった赤
過去のヴィンテージと似ていない独自な2019


 ルイ・ジャドの白ワインを7種、赤ワインを8種試飲した。白は豊かな果実味にミネラル感とフレッシュ感を秘めてアプローチャブル。赤は凝縮したストラクチャーと果実味の中にエネルギーが詰まっている。


 夏は乾燥して、晴天が続いたから、病害のプレッシャーはなかった。バルニエは「ブドウは美しく、収量は限られたが、完ぺきなバランスを備えていた。選別の必要はほとんどなかった」と語る。


 「白ブドウのアルコール度は14%と高めだが、pHは平年並み。赤ワインは13.5%から14%。2018よりフレッシュ感がある。熟度が高いのは2009と同じだが、2019は酸があり、バランスがとれている。ほかのヴィンテージとは比べようのない独自性がある」と。


 最終的に、2019年は優良なヴィンテージという評価が広がっている。オリヴィエ・バーンスタインは「過去最高」と発言している。ドメーヌ・デ・ランブレイのジャック・ディヴォージュは「2018に比べて、フレッシュ感やクラシックな性格があり、目をみはる」とコメント。


 ブシャール・ペール・エ・フィスのフレデリック・ウェーバーは「2015と2017の中間に位置する将来性の巨大なヴィンテージ」と熟成の可能性を語っている。


キャノピー・マネージメントの変化
日陰を作って日焼けを防ぐ


 冷涼で高い湿度に悩まされる気候から、温暖で乾燥した気候へ。気候変動は短期的に、ブルゴーニュに良い変化をもたらしているが、長い目で見ると、栽培には新たな課題が浮上している。


 代表例の一つがキャノピー・マネージメント(樹冠管理)の重要性だ。キャノピー・マネージメントは、収量、樹勢、病気などを管理して、ワインの品質を向上させる手法。剪定、仕立て、台木、畝間のスペースのとり方など様々な要素が含まれる。1980年代から1990年代にかけて、新世界でポピュラーな概念になった。


 ブルゴーニュでは、開かれたキャノピーでブドウに日照をあてて熟度を上げて、病気にならないように除葉して風通しをよくするなどの手入れが求められてきた。だが、近年の夏の高温と強い日差しを受けて、従来とは異なる管理が必要となっている。


 2020年のブルゴーニュは歴史的な早摘みとなった。マイクロ・ネゴシアンのマーク・ハイスマは8月21日に、最も早い畑の収穫を始めた。


 「生育期間中はブドウの房を覆うすべての葉を残して、直接の日照を避けた。我々は将来のブドウ栽培で創造的でなければならない。高いキャノピーにして、ブドウの房に日陰を造ることによって、日照があたり続けて、ブドウの実が焼けるのを防げる。早めに摘んで、フレッシュな果実と酸を保ったから、ジャミーな赤や熟し過ぎの白にはならなかった」


 オーストラリア・ヤラヴァレーのヤラ・イエリングで、ワインメーカーを務めたハイスマは、強い日照や高温への対応に慣れている。

2020年のグラン・エシェゾーで北向きの健全なブドウ(左)と南向きの干からびたブドウ Facebook@Robin Kick MW
夏季剪定せず、仕立てが高いルロワのミュジニー畑
マーク・ハイスマの2020年のGevrey Chambertin Billardsからの健全なブドウ Twitter@MarkHaisma
ジョゼフ・コランが熟成に使う500リットルのドゥミ・ミュイ

購読申込のご案内はこちら

会員登録(有料)されると会員様だけの記事が購読ができます。
世界の旬なワイン情報が集まっているので情報収集の時間も短縮できます!

Enjoy Wine Report!! 詳しくはこちら

TOP