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気候変動に直面するブルゴーニュ 課題への対応と展望(3)

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日照の当たり具合を考慮したキャノピー・マネージメント


日本ソムリエ協会2021年3月刊「Sommelier」179号掲載


 また、コート・ド・ニュイのブドウ樹の多くは、ラ・ロマネやクロ・ド・タールのように南北に畝が走っている例外的な区画を除けば、東西の畝になるように仕立てられている。フィロキセラで植え替えた時点でそうなったのであり、今さら変更するのは難しい。


 近年、指摘されているのは、畝の向きを意識した精密なキャノピー・マネージメントだ。柔らかい朝日を受ける東向きのブドウはいいが、午後の強い日差しを受ける西向きや南向きのブドウは日焼けしたり、干からびたりする。


 カリフォルニアやオーストラリアなど新世界の生産者には当たり前の話だが、ブルゴーニュでも日当たりを考慮した細かなな手入れが必要になっている。


 一歩進んだ仕立てをする造り手も登場している。ブルゴーニュの専門家スティーン・オマーンのサイト「Winehog」によると、ジュブレシャンベルタンのドメーヌ・トラペは、エシャラ(echalas)仕立てを実験的にトライしている。


 北部ローヌのシラーやスペインのプリオラートなどで採用されているこの仕立ては、針金を使わず、1本の樹を1本の杭に添える。あらゆる方向に向いていて、風通しがよく、ブドウを強い日差しから守れる。


乾燥に適さない台木161-49C


 畝の向きと同様に解決が難しいのが台木だ。ブルゴーニュでは161-49Cが石灰質土壌に適した台木として接ぎ木するのが理想的と見なされてきた。古木では問題ないのだが、乾燥に伴って、若木が早くに生命力を失う問題が生じている。


 代わる台木として3309Cが候補になっている。「ピュリニー・モンラッシェ・プルミエクリュのルフェールは20年で樹勢が弱くなった。気候変動の深刻な問題だ」とバルニエは明かした。


カギを握るのは土壌の保水能力


 ジェーン・エアはハイスマと同じく、オーストラリアからやってきて、「La Revue du vin de France」(ラ・ルヴュ・デュ・ヴァン・ド・フランス」の最優秀ネゴシアン2021に選ばれた売出し中の女性ワインメーカーだ。


 「ブルゴーニュは旧世界なのに、新世界の気候に直面している。灌漑できないのは馬鹿げている」と発言している。


 土壌の水分を保つのは重要な課題だ。畑の耕起をこれまでより減らそうと考える生産者も出ている。表土に空気を送るのはいいが、乾燥させてしまうからだ。


 逆に、湿度を保つカバークロップやコンポストは広がっている。オーガニックやビオディナミは、樹の根が地中深くに伸びて水を探すから、これまで以上に重要性が高まっている。


 ブルゴーニュが直面している問題は、ほかの産地も一足先に経験している。ボルドーも2015年以降は、ブルゴーニュ以上に、雹害、干ばつ、高温など気候変動の影響を受けている。とりわけ、右岸は早熟で、糖度の上がりやすいメルロが主体だから、適切な対応が求められる。


 ナパヴァレーでドミナスも造るジャン・ピエール・ムエックス社長のクリスチャン・ムエックスは2016年、夏の強い日照と干ばつで樹のストレスが高まったため、夏季剪定を控えて、昼間の耕起作業を止めた。


 「鉱山で炭鉱夫が使うようなライトを買って夜間に畑の作業を行った」と話していた。既成の概念では対応できない状況が生まれているのだ。


アペラシオン評価の見直し
冷涼な産地に高まる関心


 気候変動によって、一般的なテロワールのとらえ方も変わっている。


 見過ごされてきたアペラシオンが見直されている。2019年に成功した産地として、英国のワイン商たちはオート・コート、サンロマン、サントネイなどを挙げている。冷涼な産地の熟度が高まったのだ。


 また、フィサンやマルサネ、ラドワ、ペルナン・ヴェルジュレスなどの保水能力の高い粘土土壌の広がる畑のワインも評価が高まっている。


 斜面の中腹が優れ、表土の厚い下部はフィネスに欠けるという”公式”も見直しが必要かもしれない。ルイ・ジャドのクロ・ヴージョは中腹から国道74号に近い下部にかけて広がる。雨上がりの日には、最下部にいつも水たまりができている。表土は1mと厚いが、2019年には活気とおおらかさがあった。


 「クロ・ヴージョはアーシーで、厳格な性格を帯びやすいが、2019年にはそれがない。保水性の高い粘土が力強さの中にまろやかさをもたらした」とバルニエは語った。確かに、ルイ・ジャドのクロ・ヴージョには厳格な印象が強かったのが変わった。


 それでは、中腹が最も優位性があるという”公式”も崩れる可能性があるのだろうか?


 「それを言うのは時期尚早だ。地下に水分が蓄積されていれば、樹は水を求めて根を深く伸ばそうとする。2019年は冬の雨が少なく、保水量が少なかった。ブドウ樹は柔軟に気候に対応するものだ。気候変動の問題は暑さではなく、カギを握るのは土壌の保水能力だ」


ブルゴーニュでシラーが成功?


 ボルドーでは今年に入って、INAOが気候変動に対応できる新たな6品種の使用を正式に認可した。白ブドウのアルヴァリーニョ、リリオリラ、黒ブドウのアリナルノア、カステ、マルセラン、トウリガ・ナショナルが、補助品種として作付け面積は5%以下、ブレンド時の比率は10%以内に限定される形で植え付けが始まる。


 ブルゴーニュでも品種の柔軟性は高まるだろう。シャルドネとピノ・ノワールが品種の王様だが、アリゴテが再評価されている。冷涼な年は熟度を得られないため、酸の強さが目立つワインが多かったが、近年はそうした問題がなくなった。


 マコン・クリュニーのドメーヌ・ド・タリー(Domaine de Thalie)は、シラーとガメイをブレンドした「IGP Saone et Loire」を生産している。シャブリには、シュナン・ブランを実験的に植えている生産者がいる。


 気候変動によって、英国は21世紀末までに主要なワイン産地になると予想する研究結果は的を得ているようだが、ブルゴーニュでシラーが栽培されるという予想も現実のものとなっている。花崗岩質土壌ではない石灰岩土壌のコート・ドールで、成功するかどうかは未知数だが。


 ディジョンのブルゴーニュ大学の研究者トマ・ラベの研究によると、1354年から1987年までの間のブルゴーニュの平均収穫日は9月28日だったが、1988年から2018年までの31年間にわたる平均収穫日は13日早まって、9月15日になった。わずか31年間で13日早まったのだ。


造り手に求められるグローバルな視野
海外での知見と知恵で解決策


 急速な変化に、どう対応するのか。現時点で明確な解決策は出ていないが、ワイン造りにも押し寄せているグローバル化の波がカギとなるだろう。グローバル化は時にネガティブにとらえられるが、国境を超えて社会・経済の結びつきが深まる利点は大きい。技術や人々の移動が盛んになることで、よその産地の経験や技術が時差なく伝播する。


 例えば、ボルドーでは、シャトー・ローザン・セグラのニコラ・オードベールのように、シャンパーニュのクリュッグやアルゼンチンのシュヴァル・デ・アンデスなど、フランスと南半球のワイナリーを行き来しながら経験を積んだ醸造家が、活躍している。


 先に挙げた右岸のクリスチャン・ムエックスや、シャトー・ラトゥールとナパヴァレーのアイズリー・ヴィンヤーズで新旧世界を行き来するフレデリック・アンジェラのような造り手も成功を収めている。


 ブルゴーニュでも、オレゴンに多くのヴィニュロンが進出し、フェヴレはソノマのウィリアムズ・セリエムを買収してカリフォルニアに進出する。若い世代の造り手たちは、研修でカリフォルニア、ニュージーランド、南アフリカなどでワイン造りを経験している。そうした体験から得られる知恵や知見が、問題への解決につながると信じたい。

 

トラペが実験的に試みるエシャラ仕立て (C)Winehog
畝が南北に走るラ・ロマネの畑(手前)と東西に走るロマネ・コンティの畑
国道に近いルイ・ジャドのクロ・ヴージヨの畑
新旧世界を知るローザン・セグラのニコラ・オードベール

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