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ルイ・ジャドの2019試飲とインタビュー
日本ソムリエ協会2021年3月刊「Sommelier」179号掲載
気候変動のワイン産業へのインパクトを記事にしたり、生産者との会話で話題にするようになって、10年から15年はたっている。
将来の漠然とした不安要因ととらえていた時期もあるが、2010年代後半になってから、眼の前の問題として真剣に考えざるを得ない状況に置かれている。冷涼な気候の下でワインを造ってきたブルゴーニュはとりわけ、想定できなかった変化に直面している。
ブルゴーニュで前年のヴィンテージを試飲するのは、毎年秋のお決まりだが、2020年はコロナ禍でかなわなかった。ルイ・ジャドから送られてきた2019年のサンプルを試飲し、最高醸造責任者のフデレリック・バルニエをZoomでインタビューした。
ほかの生産者ともメールでやりとりし、生産者が投稿するSNS、現地取材した評論家のレポートも参考に、全体像をつかむと同時に、気候変動がもたらす将来の課題も浮き彫りになった。
2018年から明確になった乾燥と暑さ
ブルゴーニュの気候変動を明確に感じるようになったのは2018年からだ。夏が乾燥して、暑かった。8月は気温が40度に達する日もあった。降雨量は過去30年平均の55%しかなかったが、冬の間に降った雨が地中に蓄積されていたため、深刻な干ばつはしのげた。
フレデリック・バルニエは「ディジョンの平均気温はニースより高く、太陽に恵まれた」と語った。
8月23日に雨が降って、糖度が急速に上昇し、フェノリックスも熟して、酸が落ち始めた。多くのドメーヌが8月末から9月最初の週にかけて収穫を始めた。開花期の気候が安定して、ブドウの成熟が均一だったため、一斉に収穫する必要があった。小さなドメーヌは収穫人の確保に奔走させられた。
2019年も夏の乾燥と高い気温は2018年と似ている。だが、冬の雨量が少なかったのと、開花期に雨や風が多く、冷涼だった点が異なる。花ぶるいや結実不良(ミルランダージュ)が多発した。結実不良は品質にプラスになりうるが、収量は確実に下がる。
開花は一斉に始まって、短期間で終わるのが理想的で、長引くと品質にばらつきがでる。DRCは2週間にわたってゆっくりと開花した。ルイ・ジャドのジュブレ・シャベルタン・プルミエクリュ・クロ・サンジャックは、バルニエが初めて見るほど、結実不良が多かったという。
そこに、年中行事のように起きる霜害が重なった。冬が温暖で発芽が早まると、4月の霜が打撃を与える可能性が高い。コート・ド・ボーヌ地区は4月5日と15日に霜が降りた。サン・トーバンやシャサーニュ・モンラッシェの被害は大きかった。
ルイ・ジャドの白の収量は平年の半分の30-35hl/haまで落ちた。標高が高く、冷涼なオート・コート・ド・ニュイのダヴィド・デュバンは、ヘクタールあたり収量が30%減少した。
2019年は7月と8月にボルドーを訪れて、夕方6時でも40度を超す高温に驚かされた。シャトーの中庭で、ディナー前に白ワインを飲みながら歓談していても、逃れようのない高温に干上がりそうになったのを憶えている。
大勢の高齢者が亡くなった2003年の猛暑を思い出した。あの年はシャブリのホテルに泊まったのだが、冷房装置がなくて、窓を開けてもよく眠れなかった。
昼夜の温度差でフレッシュ感保った2019年
2019年のブルゴーニュも、7月は42度まで上がる熱波の日が4-6日あったが、夜間の気温は下がった。35度の日が2週間近く続いた2003年と違って、8月の平均気温は20.8度と平年をわずかに上回る程度だった。8月の日照時間は272時間で、平年と大きく変わらなかったが、10日前後に雨が降ってからは乾燥した気候が続いた。
昼夜の寒暖差がブドウの酸とアロマの豊かさをもたらした。「夜間は気温が下がったので、酸も凝縮し、ブドウのフレッシュ感が保たれた」と、バルニエは強調する。
9月に入ると乾いた北風が吹き始めた。この北風は、雨がちで冷涼な夏の多い昔のブルゴーニュでは、水分を飛ばして、ブドウを凝縮させる救いの神だったが、近年はヘアドライヤーのように熱風が吹き付けるリスクをはらんでいる。
バルニエによると、これまでのブルゴーニュは1週間で潜在アルコール度が1度上がるとされてきたが、2019年は3日間で1度上がったという。ルイ・ジャドのコート・ド・ボーヌの収穫は9月10日に始まり、コート・ド・ニュイは17日に始まった。マコネ北部は7日にスタートし、シャブリは15日に始めた。
全体的に、白ワイン用ブドウの収穫は、9月の3日から9日前後まで、赤ワイン用ブドウの収穫は16日から19日までに始まった。ヴォーヌ・ロマネのニコル・ラマルシュは7日と早め。モレ・サン・ドニのドメーヌ・デ・ランブレイは12日から16日の間に摘んだ。サン・トーバンのジョゼフ・コランは5日にシャルドネを摘み始め、ジュブレ・シャンベルタンのグランクリュ主体のオリヴィエ・バーンスタインは15日に始めた。
ピンポイントの収穫日決定
求められた周到なロジスティックス
収穫日には正確な判断が求められた。ウィンドウが狭い中でピンポイントで収穫するには、周到に準備されたロジスティックスが求められる。習熟度の高い収穫人を手配し、正確なタイミングで投入しなければならない。
ジュブレ・シャンベルタンのドメーヌ・デュガ・ピィは、樹齢の高い畑を買い足した結果、フィサンからシャサーニュ・モンラッシェまでコート・ドールの各地に畑が広がっている。通常は30人の収穫人を倍増し、きめ細かな摘み取りを行った。
収穫の基準はこれまで糖度とフェノリックスの成熟が重要視されてきた。ラボの検査だけなく、こまめに畑でブドウを試食してバランスを判断する必要があった。
現在は、フレッシュ感を保つため、酸度もより重要な指標となっている。油断すると、糖度がカリフォルニアのように上昇して、軽く14%を超す過熟なワインになってしまうからだ。
将来はカリフォルニアなど新世界と同様に、夜間収穫を導入する必要に迫られるかもしれない。労働者の法的には問題ないようだが、コストは上がる。デュガ・ピィのように産地が点在する生産者は、摘んだブドウを冷たく保つため、冷蔵トラックの導入が当たり前になっている。
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