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アルザスでシラー!?気候変動に対応する生産者

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 地球温暖化は白ワイン産地のアルザスにも影響を及ぼしている。北の産地ではあるが、夏の気温は高い。優れた畑は標高200-350m以上に広がり、日照にも恵まれている。複雑な土壌が広がるのはよく知られている。近年はシラーに取り組む造り手も出てきた。
 テュルクハイム村のグランクリュであるブランド。250-380mに広がる畑の面積は57.95ha。南から南西向きの急斜面は日照に恵まれている。白マイカと黒マイカを含む花崗岩土壌が主体だ。
 ドメーヌ・アルマン・ハーストのクリストフ・エーラルトは「来年からシラーを植えようと計画している。花崗岩はローヌ北部に広がっている。苗木はヴォークリューズから手に入れた。温暖化で気温が上がっているから可能性はあると思う。ガメイも面白いよね」と語った。
 クロ・サン・ランドランのピノ・ノワールで知られるルネ・ミューレは2015年から、実験的にシラーを植えて瓶詰めしている。もちろん、ヴァン・ド・フランスである。冷涼気候のシラーが世界各地から登場する中にあって、アルザスのシラーも成功する可能性がないとは言えない。ミューレはピノ・ノワールをグランクリュの品種に加える運動もしている。温暖化によって、適正な品種が変わることはよく指摘されているが、アルザスの赤ワインが注目される日が来るかもしれない。
 一方、アルザスの白ワインも温暖化の影響を受けている。糖度の上昇と酸のヴァランスをとる必要性が増している。アルザスワインは全体的に残糖の多さが指摘されてきた。トリンバック、ヒューゲル、ヴァインバックのように辛口にこだわる生産者もいるが、多数派ではない。ツィント・フンブレヒトのように、辛口から甘口までの程度を5段階で示す「エクスプレッション・インダイス」をラベルに表示する生産者も出てきた。
 グラクリュの多くは南向きで、冷涼だった時代と違って、リースリングの収穫時の潜在アルコール度が14%に達する例もある。エントリーレベルのリースリングならこの問題は出ないが、グランクリュではバランスをとるのが難しくなってきた。
 ピノ・グリとゲヴェルツトラミネールはさらに難しい。ピノ・グリは糖度の上昇が急激で、1日違いで糖度が上がりすぎるという。ゲヴェルツトラミネールは、リースリングのアルコール度が11%しかならない畑でも14%に達する。ここで問題なのは、ゲヴェルツトラミネールを低い糖度で収穫すると、果皮が熟していないため、苦味の強いワインになってしまうことだ。
 エギスハイムとヴェットルスハイム村にまたがるグランクリュのプェルシックベルグの主要な生産者の古いゲヴェルツトラミネールを試飲する機会があった。2015、2010、2005を試飲したが、2005はほとんどの生産者がバランスを失っていた。酸や果実が不足していたり、苦味が強すぎたりした。
 唯一、きれいに熟成していたのが、「ポール・ジャングランジェ ゲヴェルツトラミネール グランクリュ プェルシックベルグ 2005」(Paul Ginglinger Gewurztraminer Grand Cru Pfersigberg 2005)だった。濃い黄金色、アンズのジャム、パイナップル、アニス、粘性は強く、凝縮している。カウンター・バランスをとる酸があり、甘みとフレッシュ感の均整がとれている。91
点。
 オーナー兼醸造家のミッシェル・ジャングランジェは「ゲヴェルツトラミネールを残糖10グラム以下で造ると、ヴェジタルになり、タンニンが強すぎる。2005年のアルコール度は14.5%。残糖は47g/L。リッチだが、熟成するには必要で、ミネラル感とのハーモニーがとれている。酸と糖のバランスは収穫時にブドウを食べて判断する。リースリングはグランクリュでもフレッシュ感が必要となる。そこがアルザスの難しいところだ」
 歴史の長い産地だが、気候変動、栽培条件など、様々な要因によって、適正化を迫られる。それがワイン造りの面白いところでもあり、難しいところでもある。短期的には、ワイン作りの幅が広がるのはいいことだ。フランスのもう一つの冷涼産地シャンパーニュでも、ヴィンテージを生産できる年が増えている。ただ、長期的に見ると不安が残るのも確かだ。
ミッシェル・ジャングランジェ。ゲヴェルツトラミネール2005を手に
黄色の石灰岩の上に粘土、砂岩などが重なる複雑なプェルシックベルグ
シラーに挑むドメーヌ・アルマン・ハーストのクリストフ・エーラルト
ブランドの花崗岩土壌
南から南東向きのブランドの斜面

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