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白亜の帝王セロスは健在、熟成したロゼとラ・コート・ファロンから哲学を探る

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 ジャック・セロスの、ポスト・デゴルジュマンの期間が長いシャンパーニュ2銘柄を続けて試した。「ロゼ」と「ラ・コート・ファロン」。ロゼは2010年5月、コート・ファロンは2011年3月にデゴルジュしたもの。特定の狙いはなく、お客さんが来たので、開けただけだが、興味深い発見が色々とあった。
 ロゼのシャンパーニュが熟成するかどうかは、赤ワインの品質にかかっている。ロゼの有名なメゾンは、恵まれたグランクリュから優れたピノ・ノワールを産する。ドン・ペリニヨンはブジーとアイ、クリスタルはアイのピノをブレンドする。アンセルム・セロスは盟友エグリ・ウーリエの赤ワインを購入している。
 近年、ロゼの人気が出たのは温暖化で、ピノ・ノワールの糖度と生理的な成熟度が上がったから。かつては骨組みが弱く、果実が短期間で失われた。そこを補うためドザージュが多めだった。それゆえ、「女子供の飲み物」と軽視された。今はまず、生き生きしていて、フルーティ。同時にタンニンから来るストラクチャーも存在する。両者は熟成という面からは相反する要素となる。フルーティだと早くから楽しめるが、アロマの発展カーブも早い。一方で、タンニンには抗酸化作用があるから、ゆっくりと熟成する。両者のバランスをとるのがシャルドネだ。シャルドネの酸とミネラルがピノ・ノワールの二面性と調和することによって、ワインのバランスがとれる。いいピノ・ノワールがとれなければ、話は始まらないが、シャルドネもよくなければ完成したワインができない。いいロゼ・シャンパーニュは、まずワインとして優れているのだ。
 だから、いいロゼ・シャンパーニュを造る能力は、一般的にメゾンがまさっている。ピノ・ノワールに優れるグランクリュのグローワー(レコルタン・マニピュラン)は、グランクリュのシャルドネにアクセスしにくい。メゾンが抑えているからだ。ブラン・ド・ブランの頂点に立つアンセルムは逆。フランシス・エグリの赤ワインを樽で買う”反則技”で成功している。実はこの方がはるかに難しい。優れたピノ・ノワールは希少品だから。ロゼ・シャンパーニュが高価な理由もそこにある。高価なコトー・シャンプノワを出せるエグリ・ウーリエから赤ワインを買えるのは、友情があるから。2人は性格もワインのスタイルも異なるが親友だ。私が2軒を別々の日に訪問したら、2人が連絡を取り合ったらしく、約束の時間まで知っていた。
 「ジャック・セロス シャンパーニュ ブリュット ロゼ」(Jacques Selosse Champagne Brut Rose)は樽が溶け込んで、フェノールは存在するが、果実と統合され、ビビッドな酸に支えられている。オレンジの皮、砕いたバラの花びら、甘いスパイス、きわめて正確で、ハーモニーがある。エッジにレンガを帯びた色調だが、生き生きしていて、チョーキーなミネラル感に包まれている。ドザージュが1、2グラムなのに、熟成したブルゴーニュのように甘く感じるのは、フェノールが熟しているから。なめし革や腐葉土のニュアンスは出ていない。きわめてワイン的。ベース・ヴィンテージは2003前後だろう。クリスタルのロゼもそうだが、卓越したロゼ・シャンパーニュは15年を経た程度では、ビビッドでリニアなたたずまいを崩さない。酸化的なスタイルなのに、フレッシュ感と果実の複雑性を保っている点は、還元的な造りのドン・ペリニヨン・ロゼと似ている。アプローチは違えど、目指すロゼの本質は共通しているようだ。デゴルジュマンは2010年5月。ポスト・デゴルジュマンはわずか7年間。さらに発展しそうなエネルギーを秘めていた。生産量は6000本。95点。
 ロゼと別の機会に飲んだのは、ブラン・ド・ノワールの「ジャック・セロス シャンパーニュ ラ・コート・ファロン」(Jacques Selosse Champagne La Cote Faron)。「コントラスト」の発展形だ。ブルーベリー、砕けた石、ドライハーブなど複雑な層を成す香り、クリーミィなテクスチャー、ピュアな果実がはちきれんばかりで、ほろ苦さと透明なミネラル感がきれいにフュージョンしている。口中で躍るようなスイング感があり、フィニッシュに羽毛がフワリと舞うような浮遊感がある。熟していて、豊満なのに、ミネラリーで、抑制感もある。セロスから「その対称性が興味深かったからコントラストと名付けた」と聞いた。納得である。デゴルジュマンは2011年3月。ドザージュはおそらく1、2グラム。ベースワインはおそらく2004。わずか0.17ヘクタールの畑から2000本前後の生産。97点。
 ラ・コート・ファロンは1994年に購入したアイの南向き斜面の中腹から造る。当然リッチだ。かつては「コントラスト」と呼ばれていたが、2003からコート・ファロンに切り替えた。セロスが造る6つのリューディの中で最も完成度が高い。リューディに切り替えた2003年の時点で、既にリザーヴワインの蓄積があった。このワインは1994までさかのぼるリザーヴによるミニソレラ方式で仕込まれている。ラ・コート・ファロンのミニソレラ方式が、その後のリューディの手本となった。
 アンンセルムは栽培と醸造を学んだボーヌでテロワールを表現する重要さに目覚めた。そのビジョンを具体化したのがコントラストだった。ヴィンテージを消し去ったところにテロワールが現れる。その哲学は1986ヴィンテージからソレラシステムを始めた「シュブスタンス」で先鞭をつけていた。メゾンのスタイルが注目されがちなシャンパーニュに、ブルゴーニュの思想を持ちこんだのがアンセルムの画期性だ。ただ、シャンパーニュは泡に包まれてゆっくり熟成するから、ワインに封じ込められたテロワールがあらわになるには、時間が必要となる。アンセルムが「泡は飾りにすぎない」と言う言葉の裏には、そういう意味もある。セロスは発売してすぐに飲んでもおいしいが、真価を発揮するのは熟成してからだ。ロマネ・コンティが最低でも、20年間は寝かせる必要があるように。
 熟成させたロゼとブラン・ド・ノワール。いずれも、ピノ・ノワールの高品質がポイントで、近年のシャンパーニュを考える上で重要なヒントが隠されている。酸とミネラルに着目しているだけでは、現在のシャンパーニュは読み解けない。アンセルムのシャンパーニュには、飲み手の知的好奇心を刺激する深さと奥行きがある。5ー10年前に購入したボトルを寝かせているが、本領を発揮するのはこれからだろう。待つのも楽しい。息子ギョームの世代に以降しつつあるものの、シャンパーニュという産地に転換点を刻んだ白亜の帝王は健在だ。

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