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日本ワインが国際ワインコンペティションで入賞したり、海外の有名レストランにオンリストされる例が増えてきた。ワイナリーはどのように"海外進出"にこぎつけているのか。そこからどのような成果を得られるのか。国内外の専門家にきいた。
各国MWから世界標準学ぶ…シャトー・メルシャン
シャトー・メルシャンは大橋健一MWをブランド・アンバサダーに迎えて、世界を意識したワイン造りやマーケティングに力を入れてきた。その土台には、日本ワインの父と呼ばれた麻井宇介さんの精神が息づいている。
「メルシャンだけが目立っていても意味がない。日本そのものがワイン産地として世界に認められなければダメだ」
メルシャン・エグゼクティブ・ワインメーカーの安蔵光弘さんは、麻井さんの思いを引き継いでいる。大橋MWの人脈をいかして、海外のテイスターにテイスティングしてもらってきた。サム・ハロップMW、ピーター・マッコンビーMW、英国のジャーナリスト、ジェイミー・グッドらが何度もシャトー・メルシャンを訪問している。その際には、大橋MWを交えて夕食を共にして、ワインについてのディスカッションも行ってきた。コメントから醸造やワインのスタイルを考えることも多いという。
「海外の新しいトレンドは5年から10年たって日本に入ってくる。先取りしておくことが大切」と安蔵さん。
安蔵さんの原体験は、故ポール・ポンタリエ氏(シャトー・マルゴー支配人)との出会いだ。初来日した1998年に、自信のあった「桔梗ヶ原メルロー 1992」をテイスティングに供した。
「未熟で青くさい」
ポンタリエ氏から、青っぽい匂い、過剰なタンニンの抽出や強すぎる新樽の香りなどを指摘されてショックを受けた。ボルドーでメトキシピラジンの匂いが注目されるようになったばかりで、日本ではほとんど語られることがなかった時期だ。安蔵さんはポンタリエ氏から様々な教えを受けた。
「当時は、甲州で10度前後の低温発酵をすることで、エステルの香りが強いワインを造っていた。それもポンタリエ氏から、『酵母が造るエステルではなく、ブドウが持つ香りを前面に出すべき』と指摘され、以後減らしていった」
コンクール入賞は国際レベルの証し
世界に通用するワインを造るには、先端のトレンドを知る必要がある。日本酒も日本ではフルーティな大吟醸が人気だが、ヨーロッパに行くと生酛のような通好みの酒が好きだという声をよく聞いた。
ワイン新興国の日本ワインにとって海外の輸入業者探しは容易ではないが、国際コンペティションの審査員は流通業界者やバイヤーも多い。出品し続けることは存在感のアピールにもつながる。
メルシャンは輸出を増やす方向ではあるが、ブランドの価値を海外で試すことも重視している。関税、輸送費、流通マージンを含めると、日本ワインの価格はヨーロッパでは2倍近くに上がることもある。3000円程度のワインが、レストランでは軽く100ユーロを超えてしまうことも多い。円安で状況は改善したとはいえ、輸出は簡単ではない。
「海外のコンペティションで賞をとったり、海外のレストランにオンリストされるのは、日本の消費者向けに国際レベルのワインだと伝えることも大きな目的です」と、安蔵さんは狙いを語る。
一方、中央葡萄酒は、10年以上前から世界のコンペティションで上位に入ってきたが、近年は出品していない。次のフェーズに入った。海外でマスタークラスなどのイベントを行い、販路開拓に注力している。生産量の2-3%が輸出のメルシャンに対して、中央葡萄酒は約40%が輸出ワインだという。
マンズワインは、1970年代から社員のフランス留学のみならず、新世界のワイン造りを知るためにアメリカやオーストラリアにも人材を派遣して、世界基準のワインを追求し続けている。
マンズワイン小諸の西畑徹平・醸造長は2013年からブルゴーニュとボルドーに留学、研修をした。
「文化的な学びが多かった。それぞれの産地の造り手は、自分たちのワインを誇りに思い、ワイン造りのプロとしての自負がある。ブドウやワインを大事にして、1キロのブドウも無駄にしない姿勢を学んだ」
「ソラリスラ・クロワ 2021」をテイスティングしたジャンシス・ロビンソンはブドウの完熟度に感嘆したという。ブドウの垣根をビニールで覆って雨を防ぐ「マンズ・レインカット栽培法」は開かれた技術だ。
「雨が多いとブドウに病害が出て、早めに収穫せざるを得ない。ブドウを完熟させられない。当初は技術として確立させたかったので特許をとったが、特許は切れたので、どんどん使ってください」と、産地全体の発展を見据えている。
学生時代に「ソラリス」を飲んで感動したのがきっかけで、小諸のマンズワインに入社して20年になる。
小諸のワインのアイデンティティを模索…マンズワイン
「小諸のワイン」とはどういうワインなのか?という問いに対する答えは今も模索中だという。
「小諸でカベルネ・ソーヴィニヨンやメルロを造ってきた。2010年代になってジオヒルズやテールドシエルができて、ワイン産地の小諸のアイデンティティが見えてきた。ここからが大切。これが小諸の特徴だというものを見い出さないといけない。ブドウ樹の樹齢の問題もある。そして醸造技術も必要です」
南アフリカのエルギンを開拓したリチャード・カーショウMWにも、海外進出の意義を聞いた。果樹栽培の土台があり、そこからブドウ栽培に移ってきた流れが日本と似ている。
カーショウは自らをヴァーチャル・ワインメーカーと呼ぶ。畑や醸造所を所有しない。土地にあった品種かどうかを見極めるには長い年月がかかる。合わないとわかったら植え替えする必要がある。そうしたリスクを回避するためだ。
エルギンのワイン産地としての始まりは、冷涼気候に合わせたソーヴィニヨン・ブランだったが、シャルドネ、ピノ・ノワール、そしてシラーへと、栽培品種がシフトして来た。
リンゴは栽培ブドウより2.7倍高い利益が得られる。2011年には8.5倍もの差があった。高値がつけられるシャルドネやピノにシフトしてからは前よりも利益が得られるようになり、ブドウ栽培の農家が増えた。
「モンラッシェのシャルドネとディディエ・ダグノーのソーヴィニヨン・ブランの値段の差だよ」
カーショウはシャルドネやピノ・ノワールの産地として認知度を上げて、エルギンのブランディングをすべきだと言う。
「シャルドネとピノ・ノワールは兄弟姉妹だから一緒にやるべきなのだ」
産地を代表する独自品種で世界と勝負
産地を代表する品種を確立し、それが市場に認知されれば、消費者はワインが選びやすくなる。ワインが売れて産地が潤い、持続可能な産業になる。スタイルが世界に認知されている例として、マーガレット・リヴァーを挙げる。
メルシャンの安蔵さんも「甲州かマスカット・ベリーAといった、海外にはない日本固有の品種が海外では興味をもたれる」と経験を明かす。
国際品種は世界中で栽培されている。競争相手も多い。日本ワインが戦っていくのはたやすいことではない。国際品種で勝負する場合、その土地ならではのニュアンス、テイストを確立するテロワールの表現が必須となる。余市のピノ・ノワールはドメーヌ・タカヒコを先頭に、「出汁感、旨味」という日本独自の味わいが世界で評価され始めている。
若者のアルコール離れは世界で進んでいる。日本国内のワイン消費も頭打ちだ。その一方で、和食は世界に広まり、和の食材を使うレストランが増え続けている。和食材とのペアリングは強みになる。
マーケットは広い方が良い。産地全体、日本全体で前に進むことができれば、日本ワインの世界進出の道が開けると言えよう。






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