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鉄人の森本正治シェフがナパヴァレーで営む人気レストラン「Morimoto Napa」で食事した際、給仕の若者のサービスに関心させられた。
 ドン・ペリニヨン2004をハマチタコスと合わせたのだが、温度管理が絶妙だった。瓶を漬けたバケツの氷の量を調整しながら、10分おきにテーブルに来て、最適な温度で注ぎ足してくれた。冷たすぎず、ぬるすぎず。キンキンに冷えている日本のレストランからは考えられない。
 若者はベトナムからの移民。ソムリエではなかった。カタログ的な知識はなくても、シャンパーニュをおいしく飲むツボは抑えていた。型や理屈にひきずられがちな日本のプロたちも見習ってほしい。客はチップを払わなくても、サービス料を払っているのだから。
 日本人の愛好家はワインスクールや教本から学ぶことにとらわれて、ワインを難しい飲み物にしている。それがワイン人口が増えない原因の1つになっている。大切なのは日々の暮らしの中でワインを楽しむ術やコツを体感的に身につけることではないだろうか。ワインを楽しむとは上手に食事のお供にすることだ。
 大橋健一MWとテイスター/ソムリエの大越基裕さんがタッグを組んだ麻布台ヒルズのワインショップ「インタートワイン・ケーエム ヤマジン」(intertWine K×M)で、「コンポーネントペアリング」を体験しながら、そんなことを考えた。
 コンポーネントペアリングは、ワインと料理のペアリングの達人である大越さんが、風味や香り、テクスチャー(質感)を分析して積み上げた理論に基づいて、最適な組み合わせを提供する。小難しそうに響くが、納得できるポイントがあったら自宅で真似すればいい。それがワインとの距離を縮めることにつながる。
 日本酒、スパークリング、赤ワインにトライした。
 
ケース1 宝酒造の「然土 2023」と釜揚げしらす×湯葉×うすくち醤油×柚子皮×柚子果汁 1400円
 酒の柔らかい甘みと丸みが醤油の強さと引き立て合う。しらすの塩気、柚子のフレッシュ感、ほろにがみが酒のうまみと相乗して広がる。食材の風味と酒の個性が調和し、口の中で軽やかなハーモニーが生まれた。
ケース2 ハンブルドンのイングリッシュ・スパークリング「クラシック・キュヴェ・ブリュット」と隅田屋の揚げおかき×レモン皮 1300円
 揚げおかきはトースティで塩気がある。食感は柔らかく口の中でホロホロととける。冷涼な気候から生まれるハンブルドンは鋭い酸がありサクサクした口当たり。食感のコントラストがある一方で、柑橘の風味とレモン皮のアロマがさわやかに同調した。
ケース3 ボルドー・フロンサックのシャトー・グラン・ヴィラージュ2020と和牛ローストビーフ×粉山椒 1000円
カベルネ・フランのスパイシーなタッチが香り高い粉山椒の清涼感と調和する。ローストビーフの噛み応えと、しなやかなワインの噛めるような口当たりは、テクスチャーの王道の組み合わせだった。
 ワインも単体で楽しめる銘柄ばかり。毎月、20種のワインや酒を入れ替えてペアリングを組んでいる。レストラン並みに大変な作業かもしれない。
 何よりもペアリングの面白さが実感できる。感じにくければスタッフにとことん質問すればいい。恥ずかしがることはない。自宅で応用すれば新たな発見があるだろう。ワインを自然に飲みたくなる。酒にトライする生真面目なインバウンドの客も多いという。酒の普及にもつながっている。
 ペアリング名人を自称するソムリエは多いが、私の知る限り、その多くは感覚的なもので、説得力は弱い。定番のプレゼンはされても面白みがない。大越さんほどペアリングのロジックを万人に伝えられるプロはいない。
 習うより慣れろ。ワインと料理の合わせを楽しみながら、ワインの風味や味わいを覚えて、好きな食べ物とワインの組み合わせを知る。それで自分の得手や公式を作る。地酒で土地の産物を飲むのに似ている。そうしてワインの世界に自然に入っていくのもいい。
 2人の頭文字をとった「インタートワイン ケーエム  ヤマジン」(intertWine K×M YAMAJIN)はこちhttps://intertwine-km.jp/
 電話は03-6277-8203。
 
 
 
 
 
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