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シャスラの未来のためにクローン保存
シャスラのイメージは高くないが、スイスで見逃してはならない白ワインの主要品種だ。シャスラの可能性を見出し、クローンのリサーチに取り組むバイオダイナミックス生産者「ドメーヌ・ラ・コロンブ」の動きに焦点を当てる。
シャスラの起源はレマン湖周辺。スイスで1000年以上前から栽培されている。栽培面積は白ブドウの約60%を占める約3700ha。ヴォー州を中心にフランス語圏で主に栽培されている。歴史が長く、国内だけでも300以上のクローンが存在する。フィロキセラ後、大半の樹が安定的な収量が見込めるクローン「シャスラ・フォンダン・ルー」に植え替えられた。
大量生産タイプのシャスラは品種のイメージを落とし、ここ25年間で栽培面積は40%減少し、ピノ・ノワールに抜かれてしまった。その状況を変えようと立ち上がったのがドメーヌ・ラ・コロンブ(Domaine La Colombe)。若き当主ローラ・パコ(29)がクローン研究に取り組んでいる。
ドメーヌはヴォー州のレマン湖沿いに畑が広がるFechy(フェシー)にある。シャスラとピノ・ノワールを中心に生産し、1999年からバイオダイナミックスを取り入れたスイスの先駆者だ。2018年まで当主を務めていたレイモンド・パコは、卓越した成果を出してきた生産者をたたえるゴー・エ・ミヨー・ガイドの「スイスワインのアイコン」に今年、殿堂入りした。殿堂にはマリー・テレーズ・シャパやガンテンバインがいて、これで計12人となった。
娘のローラが2年前に畑を買い上げてドメーヌを引き継いだ。レイモンドも現役で娘を助けている。
スイスの農業法は、ナポレオン民法により相続者の間で畑が細分化されてしまうフランスとは異なり、農地の分散を防ぐ仕組みになっている。
家族の所有する農地を引き継ぐ時は、市場より低い価格で購入できる。ローラも市場価格の5割以下で買い上げた。所有農地全体を1人が引き継がなければならない。若い世代もドメーヌを継承し、規模を保ちながら安定して家族経営を続けられる。
ローラは2017年、シャスラのクローン研究プロジェクトに参加した。世界遺産のブドウ畑であるラヴォー地区リヴァの畑に2008年に設立された研究プロジェクト「コンサヴァトワール・モンディアル・デュ・シャスラ」の畑に、ドメーヌの所有区画を充てている。
プロジェクトの目的は、クローンの保存とリサーチ。17のクローンを植樹し、病気への耐性、収量、糖度や酸などのデータを収集。個性や気候変動へ適応性を政府の農業局と共に研究している。
ローラはドメーヌのモン・シュール・ロールの区画0.3haをコンサヴァトワールの畑に充てた。古樹の畑から異なるクローンを選び、植え替えていき、5種のクローンを中心に計19種がバイオダイナミックスで栽培されている。
ミネラル感があり低いアルコール 市場のトレンドに合う
今年初めて収穫し、別々に醸造した。収量は低く、成熟も完璧、健全なブドウを摘んだという。ブレンドしてワインを造る計画もある。コンサヴァトワールによって、温暖化に対応できるクローンを見つけ、シャスラの多様性や品質を未来に残すことを期待している。
「シャスラはミネラル感があり、アルコールの低い品種。現在の市場で求められているワインのスタイルに通じます。ニューヨークで行った試飲会でも手応えを感じました。私たちの産地のアイデンティティであるこの品種を未来につないでいきたい」
0.2haを新たに加え、異なるクローンを植え替えている。「プロジェクトはまだ始まったばかり」と将来に向けて目を輝かせる彼女から、ワインを造る喜びと強い信念を感じた。
ワインの試飲コメントは以下の通り。
「Petit Clos Grand Cru Mont-sur-Rolle AOC La Cote 2019」
100%シャスラ。粘土質土壌の傾斜の強い畑。標高510m。樹齢35-50年。コンサヴァトワールもこの畑にある。手摘みし、過去10年間醸造時にドメーヌで採取し、冷凍保存している酵母から選別して発酵させる。タンクと樽で熟成。フルマロ。レモン色。ドライで高い酸、豊かなアロマから柑橘類、菩提樹の花、パイナップル、アカシアハニーが感じられるミディアムボディの味わい。快活なフィニッシュまで余韻長く続く。 アルコール12%。
「De Facto(ドゥ・ファクト) AOC La Cote 2019」
100%シャスラのペティアン・ナチュレル。亜硫酸無添加。細やかな泡沫。淡いレモン色。ドライで快活な高い酸、ミネラルを感じさせる石、ピーチ、柑橘類、青リンゴのアロマでスッキリとしたライトボディ。アルコール10.6% 若い世代に気軽に飲んで欲しいと3年前から取り組み、今年初めて発売した。
輸入元は株式会社岸本
text&photo by 長縄三世
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