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ジャン・ラフェ、懐かしき味と人情にふれる

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 ワインの造り手は農民だ。 それを実感した瞬間があった。

 モレ・サン・ドニに寄って、少し時間が余った。ジャン・ラフェのところにあいさつしていこうという話になった。

 モレ・サン・ドニは回りやすい村だ。ロータリーのある大きな駐車場に車をとめると、どこでも歩いて行ける。ポンソは坂を登って、距離があるが、リニエ・ミシュロ、アルロー、ルイ・レミーなどは数分。ちょっと動いて、教会前にとめると、グラン・クリュ街道沿いのクロ・ド・タールは目の前。隣がロベール・グロフィエ。デュジャックは道を少し下ったところだ。

 ジャン・ラフェは、ロータリーからすぐ。よく知る方とベルを鳴らしたら、カーヴで何やら、瓶の音がした。働いているのだ。

 「よく来たな。まあ、一杯飲んでいけ」

 事務所、というか作業所に移る。箱からボトルを出してきた。

 2001のクロ・ヴージョ。ジャンの最後のヴィンテージだ。

 「よくなってきた。まだ保つが」

 ほっとした。

 余計な手をかけていない。人為的な介入を排するとはこのこと。何十軒も回っていると、その貴重さがわかる。時流とは違うかもしれないが。

 田舎の旅館で、手造りの漬物、味噌汁、ご飯の朝食を食べたような安堵感に満たされた。

 すぐにおいとましようとしたら、

 「まあもう1本開けるから」

 今度はシャルム・シャンベルタン1990。貴重だ。引退して、人も訪ねてこないからうれしくなったのだろうか。

 これは熟成が始まり、懐かしい香りと味。このころのジャン・ラフェはこうだった。85や90のグランクリュを、5年、10年前にたくさん飲んだことを思い出した。安かった。

 部屋には雑誌の切り抜きや、米国のワイン商向けに詰めたノース・バークレー・キュヴェも残っていた。新樽をきかせたあのキュヴェはやり過ぎだったと、今さらながら思う。

 結構なお年になっても働き、たまに古いワインを飲む。地道にワインを造ってきた人生なのだろう。これこそ、ブルゴーニュの農民だと思った。

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