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トレパイユのテロワールを表現、知らないではすまされないダヴィッド・レクラパール

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 日本では、ヴィニュロン(グローワー)のシャンパーニュが好まれている。シャンパーニュに力を入れるバーの多くが、多くのグローワーをそろえている。2017年に327社のもレコルタン・マニピュランが輸入された。英国の186社、米国の322社を上回っている。ベルギー(363)、イタリア(434)、スイス(362)などヨーロッパ圏にはかなわないが、世界でも多くのレコルタンを手に入れやすい国なのは間違いない。
 
 にもかかわらず、英米で高い評価を得ているのに、知名度の低いグローワーが少なからずいる。トレパイユのダヴィッド・レクラパールがその代表格だ。理由の一つはトレパイユというわかりにくい村にいるからだろう。モンターニュ・ド・ランス地区南東のグランド・モンターニュにありながら、ここはシャルドネに優れる。ルイナールやゴッセなど大手メゾンブレンドに使われるイメージがある村で、レクラパールはトレパイユのテロワールを映すブラン・ド・ブランを世に出している。

 地勢がユニークだ。グランド・モンターニュ北部のヴェルジィやヴェルズネイは、北向き斜面からエレガントなピノ・ノワールを生む。北部から森に囲まれた道を南に下ると、トレパイユの畑は南東を向いている。トレパイユからさらに隣のアンボネイやブジーに下ると、今度は南向き斜面のピノ・ノワールが力を発揮する。

 シャンパーニュでは、日照時間の長い南向き斜面はピノ・ノーワル向きで、朝日の当たる東向き斜面はシャルドネ向きと言われる。コート・デ・ブランの優れた畑の多くは東向きだ。トレパイユは両者の中間で、土壌は表土の薄いチョークが広がり、シャルドネに適している。標高もアンボネイやブジーより高くて涼しい。森に囲まれているため湿度が上がりやすい。
 
 レクラパール家は4世代にわたってブドウを栽培してきた。ダヴィッドは父の死後、1998年から自分のラベルで瓶詰めを始めた。98年はINAOの検査で拒否されたが、99年に3つのキュヴェを生産した。22区画からなる2.9haの畑を所有する。2000年にエコセールとデメターからビオディナミの認証を得た。

 単一年のキュヴェしか生産せず、一部はドメーヌ・ルフレーヴの中古樽で醸造される。亜硫酸は最小限におさえ、定温安定化処理は行わない。フルマロでノンドゼ。妥協のない自然派的な造りで、若いうちは飲みにくい面があるが、日本の輸入元は大半のワインを輸入後に1年半から2年半以上は熟成している。こなれたキュヴェを試飲できた。

 「ダヴィッド・レクラパール ブラン・ド・ブラン ラマトゥール L.V14」(David Leclapart Blanc de Blancs L'Amateur L.V14)はトレパイユの6区画をブレンドしたブラン・ド・ブラン。白い花、白桃、レモンビスケット、カモミーユ、リニアで、ブドウをそのままほうばっているような直接的な感覚。やや軽いが、チョーキーなミネラル感に長く支配されている。ピュアでキレがいい。エナメル加工したスティールタンクで醸造。2014年のブドウから。90点。

 レクラパールのシャンパーニュはすべて、単一年から造られる。熟成期間が短いこともあるため、ヴィンテージ表記はないが、バックラベルに手がかりがある。「L.V」の後にある2つの数字が収穫年だ。ラマトゥールの「L.V14」は2014年産を意味する。

 「ダヴィッド・レクラパール ブラン・ド・ブラン ラルティスト L.V10」(David Leclapart Blanc de Blancs L'Artiste L.V10)は、樹齢30-50年のキュヴェを樽とエナメルスティールで醸造。フリンティで、砕いた岩、ライムの皮、オレンジの花、染み入るようにチョーキー、クリーミィな泡、熟成した醤油のようにうまみあふれるパレット。精細度が高く、焦点がきっちりと合っている。フィニッシュにレモンタルトのタッチ。アプローチャブル。15000円。91点。

 「ダヴィッド・レクラパール ブラン・ド・ブラン ラ・ポートル L.V10」(David Leclapart Blanc de Blancs L'Apotre L.V10)は、ダヴィッドの祖父が1946年に植えたリューディ「ラ・ピエール・サンマルタン」(La Pierre St-Martin)からの単一畑。樽醸造。フラッグシップ。グリップがあり、濃密で、凝縮している。まろやかなテクスチャー、チョーキーな酸、レモンオイル、ビスケット、フレッシュなハーブ。タイトだが、ブルゴーニュ用グラスを使うことによって、スケールの大きさと多層的な構造があらわになる。生き生きしたエネルギーが詰まっていて、抜栓から1週間で全容を明らかにした。15000円。94点。

 「ダヴィッド・レクラパール ラフロディシアク L.V12」(David Leclapart L'Aphrodisiaque L.V12)はシャルドネ80%とピノ・ノワール20%をブレンドする新キュヴェ。柑橘、アプリコットの皮、オレンジムース、少量のピノ・ノワールが豊かさと膨らみを与え、ミネラル感に富むシャルドネときれいに統合されている。フェノリックスが空気に触れることでほろ苦さが広がる。スモーキーなフィニッシュ。粘土の強い土壌のピノ・ノワールをうまく生かしている。25000円。93点。

 「ダヴィッド・レクラパール ブラン・ド・ノワール ラストル L.V11」(David Leclapart L'Astre L.V11)は腐敗の多かった2010年、ロゼ「ラルシミスト」の代わりに造り始めた。粘土の多い土壌のピノ・ノワールから。還元気味で、タイト、タンニンは閉じこもっている。クラッシュしたストロベリー、ドライトマト、アニス、鉄さび、熟しているが、チョーキーなテクスチャーに縁取られている。フレッシュだが、やや厳格な味わい、トレパイユのピノ・ノワールの硬質感を思い知らされるが、開くとポマールのようなアーシーな滋味が味わえる。最初からブルゴーニュの赤のつもりで、大ぶりのグラスで飲むことによって開放感が得られる。全開になると赤ワインのようだ。そこまで、ストッパーをして1週間を要した。17500円。92点。

 5月に訪問しようと、電話やメールで何度もダヴィッドに連絡したのだが返事はなし。直前に「仕事が忙しい」と断りのメールがあった。まともなレスポンスは全く期待できないと、後から関係者に聞いた。そんなところもカルトな生産者のイメージを増幅している。

 ジョルジュ・ラヴァルやユーグ・ゴドメのような、一口目から伝わるわかりやすさはないが、時間をかければ、モンターニュで優れたシャルドネを生むトレパイユの個性が明らかになる。インポーターが日本で熟成していたので、現地で飲むより落ち着いている。シャンパーニュではなく、ワインと考えて、グラスや温度を調整したら魅力を発見しやすい。シャンパーニュは開けた瞬間から美味しいのが普通だが、ワインとして美しいこんな造り手があってもいい。マニア心をそそる造り手だ。

 輸入元はヴォルテックス。

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