世界の最新ワインニュースと試飲レポート

MENU

  1. トップ
  2. 記事一覧
  3. カリフォルニア最前線 クッチとドメーヌ・ド・ラ・コート

カリフォルニア最前線 クッチとドメーヌ・ド・ラ・コート

  • FREE
ヴィノテーク2014年11月号掲載

 カリフォルニアで今、最も面白いのはピノ・ノワールだ。高い凝縮度とアルコール度のビッグワインを否定して、緊張感と抑制美を重視する生産者が増えている。バランスのとれたブルゴーニュ品種造りを目指す生産者やジャーナリストで作る「IPOB=In Pursuit of Balance」(イン・パースート・オブ・バランス)に加盟する2つのワイナリーを、収穫真っ盛りの9月初旬に訪ねた。
 ブルゴーニュ品種の新カリフォルニアワインが生まれている産地の代表は、ソノマ・コーストとサンタ・リタ・ヒルズだ。ポイントは涼しさ。ハーシュ・ヴィンヤーズやフラワーズが本拠を置くトゥルー・ソノマ・コーストは本当に寒い、かつて7月に訪れた際は、朝晩の気温が15度まで下がった。太平洋の沖合いを流れる寒流の影響で、午前中は深い霧に包まれる。
 クッチ・ワインズのジェイミー・クッチは、ソノマ・コーストを主体に、現代のブルゴーニュよりはるかに伝統的なワイン造りに取り組んでいる。1トンと5トンの小型ステンレス発酵槽と並んで、見覚えのある開放式の木桶があった。グレニェ社製フードル。「2008年にDRCを訪ねた時に見かけた。英語でメールしても、返事がなかったので、グーグル翻訳にかけて注文した」。元トレーダー。ITには長けている。
 2012年から100%全房発酵に切り替えた。ほとんどがアルコール度13%以下。フラッグシップのマクドゥガル・ランチは、目が詰まっていて、抑制されたスタイルだが、構造はしっかりしている。全房発酵に根差すオレンジの皮、スターアニスのエキゾチックな香り。280メートル以上の標高と海から5・6キロの距離がもたらす酸と冷涼感がある。伝統的なブルゴーニュを連想させる硬質なタッチが好ましい。
 「海は巨大な冷蔵庫の役割を果たす。畑はフォグラインより上にあるので、日中はフェノールがよく熟す。酸は車のフレームのようなもので最も大切。ピノ・ノワールは14%を超すとバランスが崩れる。ロバート・パーカーやワイン・スペクテイターの評論家の味覚は退化している」
 驚かされたのはソノマ・コーストのサンスフレ。酸化防止剤無添加のピノ・ノワールを2013に初めて造った。表ラベルに堂々とうたっている。ピュアな果実とスムーズなのどごし。「自然派」によくある酸化のニュアンスはない。アルコール度12・1%。80年代の自然なブルゴーニュを目指したという。「酸化防止剤含有をラベルに表示する義務があるので、小売り店に出すと問題になる。レストランや個人顧客にひそかに売る」と話していた。10年前のブルゴーニュの熱いビオ生産者を思い出した。型にとらわれず、挑戦している。
 ソノマから車で南下すると7時間。ロサンゼルスから北上すれば3時間。セントラル・コーストのサンタ・リタ・ヒルズもまた注目の産地だ。拠点となるロンポックの街外れにワイン・ゲットーがある。ギャビン・シャナン、ブリュワー・クリフトン、タイラーらが集まって、倉庫のような場所でワインを仕込んでいる。ハンバーガー屋とモーテルのほかに何もない田舎街だが、畑に近いので、造り手が集中している。その一角は、カリフォルニアのホットスポットだ。IPOBリーダーのラジャ・パーとサシ・ムーアマンがタッグを組むサンディとドメーヌ・ド・ラ・コートの拠点も、そのゲットーにある。サンディは契約農家のブドウから造り、シャルドネ主体。ドメーヌはピノ・ノワールに特化している。
 収穫時期でも、サンタ・リタ・ヒルズの畑は暑さを感じない。海からの風が絶えず吹き付ける。日差しは強いのに涼しいという不思議な感覚。海までは10キロと離れているが、山脈が東西に走っているため、風と霧がさえぎられずに侵入してくる。地殻変動を受けて、南北に山脈が走るカリフォルニアで、ここだけが独自の地形だ。
 丘沿いに曲がりくねった道を走ると、土壌の多様性が一目でわかる。崖の断面の色が10メートルおきに、白、茶、赤と変わるのだ。海底が隆起した土壌は、砂、片岩、粘土、藻の化石の堆積岩が形成する珪藻土などが入り混じる。コート・ロティのような急傾斜を昇ると、その土壌の組成が微妙に変わる。ドメーヌは畑別に仕込んで、その違いを表現している。
 ブルームス・フィールド畑のピノ・ノワール2012は衝撃だった。プラム、ブルーベリーの香り。ピュアな果実味と塩っぽいミネラル感。テクスチャーは柔らかく、深みと奥行きがある。カリフォルニアから想像できないにエレガンスと緊張感。全房発酵100%。ドメーヌ・ルロワを連想したといったらほめすぎだろうか。
 ドメーヌの司令塔はラジャ・パー。人気レストラングループ「マイケル・ミーナ」のワインディレクターを辞めて、ワイン造りに専念している。「ソムリエのメンターはラリー・ストーン、ワイン造りのメンターはジム・クレンデネン。ラヴノーのシャブリ・レ・クロ1996からこの道に入ったから、ヨーロッパのパレットなんだ。最高のワインを造るにはどうしたらいいか、常に考えている」と語る42歳。確固たる信念とリーダーの器を備えている。
 ラジャのライフプロジェクトであるIPOBのメンバーは2015年4月、来日する。カリフォルニアの変革が実感できるだろう。

肩書は当時のまま

購読申込のご案内はこちら

会員登録(有料)されると会員様だけの記事が購読ができます。
世界の旬なワイン情報が集まっているので情報収集の時間も短縮できます!

Enjoy Wine Report!! 詳しくはこちら

TOP