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大英帝国代表「デカンター」誌 パーカーに敗北!?

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ヴィノテーク2012年10月号掲載

 ワイン評論の世界では、イギリスとアメリカの戦いが続いてきた。
 イギリス人には、ワインを世界に広め、ワイン評論の基礎を築いたとの自負がある。貿易立国の寒い島国では、ワインを生産できない。勢い、ワイン通を対象に評論文化が発展した。その終着点に、トレードを基盤にするマスター・オブ・ワイン(MW)が生まれた。クラブに象徴されるイギリスの、ギルド的な専門家の集まりだ。
 対するアメリカの歴史は浅い。カリフォルニアでワイン生産が発展したのは1970年代に入ってから。ワイン消費が拡大したのも、1970年代以降の話にすぎない。本格的な評論は、1978年のワイン・アドヴォケイト創刊まで待たなければならなかった。翌年には、マーヴィン・シャンケンがワイン・スペクテイターを買収し、ワインを軸にしたライフスタイル誌が誕生する。
 ワイン・アドヴォケイトが成功したのは、ラルフ・ネーダーの消費者運動に影響を受けた弁護士ロバート・パーカーが、広告をとらない公平で独立した姿勢をとっていたからだ。パーカーは批評精神に乏しいイギリスの評論家の解説書が信用できなかった。消費者にわかりやすい100点満点による評価を取り入れたのも大きい。マイケル・ブロードベントの5つ星評価はあいまいとしている。カリフォルニア大デイヴィス校やヨーロッパでは、20点満点方式が採用されていた。アメリカや日本の学校で採用されている100点法は一目でわかる。世界中のワインショップから、インポーター、ワイン生産者本人までもが、パーカーポイントを引用している。
 それでも、イギリスは20点法にこだわってきた。大勢のMWが寄稿する大英帝国代表のワイン専門誌デカンターも、例外ではなかった。そのデカンターが8月号で方針を変えた。20点方式と併記する形で100点方式の点数を掲載するようになったのだ。中心となるのは、売り物である3人のテイスターによるパネル・テイスティング。デカンター誌の説明によると、18・5~20点は「傑出した」で、95~100点に相当する。17~18・5点は「非常にお薦め」で90~94点、15~16・75点が「お薦め」で83~89点に相当するとしている。これに伴って、5つ星方式の評価は止めた。
 歴史的な転換だ。イギリスのワイン評論がアメリカに敗北した。そう解釈していいだろう。デカンター誌は、100点法導入について、読者の半分以上がイギリス国外在住者のため、慣れ親しんだ100点評価を掲載し、「ユーザー・フレンドリー」を狙ったという。20点法による評価のわかりにくさを自ら認めたのだ。私がよく参考にするボルドー・プリムールの主要な評価をまとめたウェブサイト。そこでは、パーカー・ポイント、ワイン・スペクテイターを辞めて有料ブログを運営するジェームス・サックリング、ワイン・スペクテイターなどが100点評価で、ジャンシス・ロビンソンMW、フランスのラ・レヴュ・ド・ヴァン・ド・フランス、デカンターが20点評価を採用している。両者が入り乱れていると、やはり100点法の方がわかりやすい。
 1975年に創刊されたデカンター誌は、アジアに焦点を絞っている。中国市場の成長をにらんで、中国語版の出版に加えて、中国語と英語のバイリガンガル・サイトも立ち上げる計画がある。アジア・ワイン・アワードの実施も発表している。最新のトレンドの評論や分析に重点を置いたオピニオン誌的な編集姿勢が、デカンターの持ち味だが、後発のワイン発展途上国にとって重要なのは、ワインの点数だ。100点法の導入は、アジアを含むBRICS市場をにらんでのマーケティング判断だろう。
 一つの産業がグローバル化すれば、客観的な判断基準が必要になる。美食にはミシュランガイドがあり、IT機器にはユーザーの書き込みがある。デカンターはワイン産業のグローバル化に対応しただけだが、グローバル化の最大の推進力は、皮肉なことに、宿敵ロバート・パーカーなのだ。デカンターはことあるごとに、パーカーの揚げ足をとるニュースを報じてきた。業界の仲間内サークルに入ることもなく、商業主義と距離を置くパーカーは目の上のたんこぶであり続けている。その基盤をなす100点法を導入しなければ、市場を動かす力を持てない。苦渋の決断だったに違いない。
 ワインの100点評価は、日本のワイン雑誌にも広がり、飲みごろ予想をしている例まである。同じ生産者のワインを少なくとも20年以上飲んでいなければ、現行ヴィンテージの飲みごろを示すのはできるはずもないが……。ワイン評価はパネル・テイスティングのような合議制とも相容れない。個人がその得点から生じる影響すべてを、受け止める覚悟を持って行うべきものだ。そもそも絶対基準のない世界だから、明白な醸造上の欠陥は別として、どこまでいっても個人の主観、好みの表現でしかない。
 美術品に点数をつけられるのか?
 ワインの点数評価で、しばしば持ち出される議論だが、今となっては不毛だ。パーカーポイントが一人歩きして、取り引き価格まで左右している。後戻りはできない。ポイントをプロモーションに使おうとする生産者や流通業者が存在し、90点以上のワインを欲しがる消費者の欲望にふたをできない限り、点数評価はなくならない。責められるべきは愛好家の煩悩かもしれない。

肩書は当時のまま。

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