バランスのとれた長熟タイプ、ポル・ロジェのヴィンテージ2008

　シャンパーニュのメゾン、ポル・ロジェのローラン・ダルクール社長が、新発売の「ヴィンテージ　2008　ブリュット」と「ブラン・ド・ブラン　2009」を引っ下げて来日した。最も重要な市場の英国で2月に発売したのに続いて日本でお披露目した。2008年は1988年を思い出させる酸と十分な熟度の均衡がとれた長期熟成型だ。

　2008年の8月は冷涼で、雨が多く、病害が発生したが、9月は日照と晴天に恵まれた。熟成が可能な高めの酸と補糖が少なくてすむ熟度を得られたとされている。ポル・ロジェは9月15日から、理想的な気候の下、健全なブドウを収穫したという。

　「ヴィンテージ　2008　ブリュット」は、黄桃、小さな赤いベリー、トースト、ほのかにハチミツ、十分な熟度を感じさせる香りだが、きれのよい酸があり、フレッシュでエレガント。きわめて正確で、細く、長い余韻が続く垂直的なワイン。後味にヨードのタッチ。熟しているのに酸もあるという好ましいスタイル。熟成の可能性を感じさせる。94点。1万2000円。

　「2008は収穫時にはそれほどいいと思わなかったが、醸造してからバランスのとれた素晴らしいヴィンテージとわかってきた。生育期間を通して気候が良かった。1988年や1985年と似ている。よく熟成する」とローラン。

　シャルドネの優れたヴィンテージで、サロンのディディエ・デュポン社長は「21世紀で最良のヴィンテージの一つ」として2008をマグナム瓶のみで詰めする。ピエール・ジモネの当主ディディエ・ジモネが「2008は人生で最高のヴィンテージ」と語っていたのを思い出した。

　「ブラン・ド・ブラン　2009」は2008と対照的におおらかなスタイル。レモンキャンディ、ヘーゼルナッツ、ペイストリー、柔らかさがあり、まろやかなテクスチャー、酸は2008より穏やかで、早くから楽しめる。貝殻の香りがある控えめなミネラル感。ヴィンテージ2008は寝かせて、こちらから飲んだ方がいい。92点。1万3000円。

　ルイ・ロデレールはクリスタルの2009年を、フレッシュな2008年より先に発売したが、ポル・ロジェはフラッグシップのキュヴェ・サー・ウィンストン・チャーチルはヴィンテージ通りに発売する。現行の2004年の後は、2006、2008、2009年と続く予定。チャーチルの2004と2002も試飲した。

　「キュヴェ・サー・ウィンストン・チャーチル　2004」はアプリコット、カリンのジャム、焼きたてのブリオッシュ、横に広がるヴォリューム感がありる。十分なミッドパレットから、終盤にかけてすそ広がりになる。継ぎ目がなく、若々しい。デゴルジュマンは2016年初め。94点。3万円。

　「キュヴェ・サー・ウィンストン・チャーチル　2002」は発売時は硬かったが、いい熟成をしてハーモニーが出てきた。濃い目の色調、焼きリンゴ、茶色のキノコ、ブラウンバター、潮汁的なミネラル感を秘めているが、豊かにふくらむスケールの大きなワイン。ミッドパレットから二段ロケットに点火するようにエネルギーが増し、最後は正確に焦点が合う。デゴルジュマンは2013年。典型的なメイヤール反応が出ている。96点。

　ローランによれば、チャーチルは閉じたり、開いたりを繰り返して進化していく。2002と2008がどのように発展していくか興味深い。チャーチルの2002にはクリュッグのような熟成からくる重厚なタッチがある。

 

　ローランは「シェフ・ド・カーヴのドミニク・プティはクリュッグ出身だから（笑）。いや、それは熟成によるもの。ポル・ロジェは、ピュピトル（動瓶板）以外、木は使わない」と冗談めかした。

　ポル・ロジェのヴィンテージは6か月ごとにデゴルジュマン（オリ抜き）を行う。キュヴェ・サー・ウィンストン・チャーチル2002は、2013年が最後のデゴルジュマン。ここでは「デゴルジュマンは心臓手術と同じ。年寄りほど休養期間が必要」として、デゴルジュマン後に、メゾンでゆっくり休める。NVは3か月、ヴィンテージは6か月、チャーチルは12か月。日本ではこれに輸送期間を含めた3か月間が加わり、市場に出る。

　シャンパーニュのブドウの価格は上昇傾向にある。栽培農家との契約期間は5年間が普通。ローランによると、最も高いブドウはキロ当たり7－8ユーロになるが、平均的な価格は6ユーロ。1本のシャンパーニュを造るには1.2キロが必要なため、ブドウだけで約900円の原価がかかる。これに醸造、パッケージ、人件費、流通などのコストがかかるため、シャンパーニュはどうしても高価になる。

　輸入元はジェロボーム。ヴィンテージ2008とブラン・ド・ブラン2009は6月に発売予定。