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日本ワインの格付けへ、第一弾は栃木のワイナリー

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 日本ワインはもはやブームとは言えない。愛好家の暮らしに根を下ろしている。ガイドブックや雑誌の特集記事が増え、日本ワインに力を入れるレストランも増えてきた。熱心な愛好家が探し求める入手困難な銘柄も登場している。ただ、消費者にとって、購入の手がかりになる評価本は存在しない。
 ワインレポートでは、バイヤーズガイドの出版を目指して、定期的に日本ワインの試飲を行っていく。2020年の東京五輪に向けて、インバウンドがさらに増加するのは間違いない。訪日外国人観光客の最大の楽しみの一つが、寿司に代表される和食と日本酒である。日本ワインもそこには含まれ、ワイナリーの観光ツーリズムの拡大も可能性がある。
 そこで重要になるのが、日本ワインを客観的に評価する格付け本の存在だ。ワイン先進国のフランスやドイツには、複数のテイスターが試飲してワイナリーを評価するガイドが存在し、一定の基準となっている。テイスターは世界のワインを飲んできた経験があり、世界標準の尺度で評価できるパレットの持ち主であることが求められる。ワインレポートは、時間をかけて全国のワインをカバーし、主要なワインの試飲を通して、バイヤーズガイドを作成する。

日本ワインの表示ルールは来年から施行

 国税庁は2015年10月、「日本ワイン」とは何かを定義する表示ルールを発表した。「果実酒等の製法品質表示基準」の国税庁長官告示では、国産ブドウのみを原料とし、日本国内で製造された果実酒を「日本ワイン」と定義づけた。輸入した濃縮果汁を原料とした商品とは区別され、輸入原料を使用した場合はラベルに明示することが義務づけられた。新ルールでは、1つの地域で育てたブドウを85%以上使い、同じ地域で醸造された場合に限り、産地名、ブドウ品種、収穫年をラベルに表示できる。この規定は2018年10月30日から発効する。
 これまで、日本国内では、輸入濃縮果汁や輸入ワインを原料としたものなど様々な「国産ワイン」が流通し、消費者には「日本ワイン」との違いがわかりにくかった。ブドウの産地表示についても、業界の自主ルールは75%以上だったが、EU基準に合わせて85%以上となった。日本ワインの表示ルールが定められた背景には、消費者の関心の高まりと、クールジャパンの輸出振興策もある。

日本ワインは21世紀に大きく発展

 21世紀に入って、日本のワインは急速に発展してきた。サントリーやメルシャンなど大手ワイナリーが開発した技術が共有され、全体の底上げにつながっている。小規模な生産者が本州だけでなく、北海道や九州でも、国際品種と国産品種の両方で、土地の個性の探求に力を入れている。東京と大阪でアーバンワイナリーを展開するフジマル醸造所は、販売と流通に新たな手法を持ち込んだ。ワイン輸入商社の設立や提携で成功したシャトー酒折ワイナリーやドメーヌ・オヤマダのように、新たなマーケティング例も出ている。
 また、ワイン造りを始める起業家の受け皿造りも進んでいる。長野県内には、千曲川ワインアカデミーや塩尻ワイン大学が立ち上がり、栽培・醸造を学んで次世代のワイン生産者を育成している。栽培農家の高齢化が進む中で、将来に期待が持てる動きだ。
 一方、海外進出の動きも出ている。土着品種の甲州については、2009年に甲州を世界に輸出するプロジェクト「Koshu of Japan(KOJ)」が立ち上がった。山梨県内の生産者、甲府商工会議所、山梨県ワイン酒造組合などが設立したもので、ロンドンを中心としたヨーロッパ市場に売り込みを図っている。中央葡萄酒グレイスワインのように、海外のコンクールで入賞するワインも出てきた。ただ、ワイン用ブドウ栽培の歴史の短さ、ワイン用ブドウの不足、人件費を含む生産コストの高さなどの課題も抱えている。

平均点が85点以上のワインのみ掲載

 日本ワイン格付けに向けた第一弾は、大橋健一MWの地元である栃木県のワイナリー。今回、試飲したのは、足利市の「ココ・ファーム・ワイナリー」と「cfaバックヤード・ワイナリー」、那須の「ナスワイン」(Nasu Wine)の3つ。1月と2月の2回に分けて、ワイナリーから代表的なワインを送ってもらい、山本昭彦、大橋健一MW、大越基裕の3人で、オープンで試飲した。3ワイナリーの計31本を試飲し、ココ・ファーム・ワイナリーのデザートワイン「ロバの足音」が90.66点で傑出となり、ココ・ファーム・ワイナリーとナスワインの計10本が優良に選ばれた。平均点が85点以上のワインのみ掲載する。詳しいコメントはこちhttps://www.winereport.jp/archive/739/

【ココ・ファーム・ワイナリー】 
障害者支援施設「こころみ学園」が運営している。約6ヘクタールの自社畑のほか、北海道、山形、長野、山梨など他県の契約農家からもブドウを購入している。1989年に来日し2009年に独立したブルース・ガットラヴが基礎を築いた。自社畑のマスカット・ベーリーAで造る「第一楽章」、マスカット・ベーリーAをレチョート方式で仕上げた「マタヤローネ」、オレンジワイン「甲州F.O.S.」など自由な発想のワインも多い。

【cfaバックヤード・ワイナリー】
足利市で60年続くラムネなどの清涼飲料水製造メーカー「マルキョー」の工場内に建てられた小さな小さな醸造所。ワインコンサルタントとしても活躍してきた増子敬公と春香さん親娘が醸造家。山梨県産の甲州やマスカット・ベーリーAを使ったワインを仕込んでいる。

【ナスワイン】(Nasu Wine)
那須野が原の開墾時代の1884年(明治17年)に誕生。その後、名前を渡邊葡萄園醸造に変更した。初代当主の渡邊謙次氏がデザインしたクラシックラベルシリーズは、旧字で「渡邊葡萄園醸造」と表示し、長くマスカット・ベーリーAやナイアガラで使われてきた。現在の醸造責任者、渡邊嘉也氏はボルドーで修業し、2002年からメルロやカベルネ・ソーヴィニヨンを植え始め、モダンラベルシリーズで発売している。

山本昭彦
「日本ワインはいま変革期にある。海外で修業した経験もある若い世代が苦闘しながら、風土に根差したワイン造りに取り組んでいる。大量の情報があふれているが、消費者の購入の手引となるガイドは少ない。消費者にとって重要なのは、価格と品質のバランスである。より安い値段で、品質の優れた輸入ワインが買えるなら、そちらに流れてしまうのは止められない。日本ワインだからといって、日本の物差しでワインを評価しても意味がない。全国のワインを系統立てて試飲し、世界的なパースペクティブを持つ複数のテイスターの評価を重ね合わせていく。それによって、国際標準をクリアしたバイヤーズガイドの作成が可能になる。世界に通用するガイドが、生産者にも消費者にも求められている。ココ・ファームは全体に水準が高く、ナス・ワインも発見があった」

大橋健一MW
「日本ワインは依然として輸出量は少ないため、国内市場の愛好家、もしくはお土産需要など、そうしたコミニュティの中で飲まれている。日本が世界に開かれていく過程で、外国人の目にも今後さらされることになるであろう。3000円で、日本ワインと輸入ワインを比較するような場面も当然出てくるし、もちろん国内需要においてもそういう比較論は存在している。日本ワインを世界市場でも応援したいからこそ、日本人のためのガイドがまずは求められてしかるべきであろう。栃木の気候は難しい。夏の雨と雷が避けられないから、ビアガーデンの成功が難しい土地柄である。県内のワイナリーはとても切磋琢磨している。ココ・ファームは早くから土壌の研究をしてタナを植えたが、マーケティングにはまだ課題もあるであろう。ラベルを見ただけでは価格帯が探れない弱さもある。マルチ・リージョナル・ブレンドも多いから、蔵の方向性をきちんと打ち出すアプローチも必要であろう。ナス・ワインは那須高原の火山性土壌で栽培している。全体的にはこれからは特異な気象条件や土壌分析などのデータも必要となる。我々テイスター自身も更に深みを持ってテロワールを勉強しなければならない」

大越基裕
「一つの県をリードするキーとなる生産者が多いと、その県の品質レベルは上がる。栃木のイメージは、ココ・ファーム・ワイナリーが作っている。今回試飲したワインの半分以上は飲んだことがある。必ずしも"ナチュラルワイン"ではなく、野生酵母を使って、亜硫酸も減らして、ナチュラルな造りという意味での"ナチュラルワイン"を造っている。口当たりの優しさにココらしさを感じる。濃厚なワインもあるが、クールなテイストのものも多く、世界市場の傾向に近い。大手生産者のトップワインの品質はいいが、高価で、量が少ない。ココの風のルージュや甲州F.O.S.は量もあるのでサービスしやすい。優しい味を楽しんでもらいたいと思い、私がコンサルタントを務めるJALの機内ワインの書類選考を通過させた。ナス・ワインはきれいに熟成していた。未来の可能性を示していて興味深い」

「傑出」と「優良」のコメントはこちhttps://www.winereport.jp/archive/739/
ココ・ファーム・ワイナリーのデザートワイン「ロバの足音」

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