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3つ星フレンチ「ロオジエ」(東京・銀座)のシェフソムリエ/ワインディレクターを務めてきた井黒卓さんが2026年1月、東京都内で飲食店(桃仙閣、一平飯店、明寂、白寧、寛心)、ワイン卸の会社を経営するグループのワインディレクターに就任する。日本を代表するソムリエが今度は、蓄積した知識と味覚で日本料理と中華料理で華麗なペアリングに挑戦する。一箇所に安住せず38歳で転身する"チャレンジャー"の心境と次なる目標をきいた。
「ミシュランガイド 東京2026年版」で3つ星に輝いた日本料理「明寂」で知られるこのグループは、現在の美食シーンで最も勢いがあり注目されている。
井黒さんは2025年暮れに声をかけられて、2016年から9年間にわたり勤めてきた日本の頂点に立つロオジエを去る決意を固めた。ロオジエは「美しい生活文化の創造」を掲げる資生堂グループの中で高いブランド価値を有している。8年連続で3つ星を獲得している。
チャレンジャーであり続けたい
景気の波を受ける料飲業界で、井黒さんのように恵まれた立場のソムリエは少ない。普通のソムリエなら50歳の大台を迎えるまで居座るだろう。ソムリエ歴15年の彼が脂の乗った38歳にして、なぜ移籍するという大胆な決断に踏み切ったのか。
「仕事に慣れてきて、楽している気分になってきました。一つの場所にしがみつくのはかっこよくない。美しくない。そんな気がするのです。自分はチャレンジャーであり続けたい」
その挑戦心はロオジエのワインサービスも変えた。クラシックな料理で評価されてきたロオジエは、王道の高級フランスワインを揃えてきたが、彼は「ダブル・ペアリング」を導入して顧客に驚きを与えた。2020年に全日本最優秀ソムリエコンクールで優勝し、世界の産地を訪れる中で学んだグローバルなセンスを培った。ダイナミックに変動する世界のワインの動きを取り入れている。
シャルドネを供するなら、ブルゴーニュと新世界の両方をグラスでペアリングする。アシルティコと日本酒を同時にサービスしてキャビアに合わせることも。そこに背景にある物語を付け加える。クラシックなワインにこだわってきたお客は、複雑なペアリングに目を見開かされ、知的好奇心をくすぐられる。
入手しにくい高価なワインを供するのは無難だ。ワインをラベルで飲む人も容易に満足させられる。ダブル・ペアリングは飲み手に刺激と発見を与える一方で、ソムリエも深い知識と熟練のサービスを求められる。チャレンジングだが、そこに面白さを見出して新たな境地を切り開くのがこの男なのだ。
それは昔からの顧客を満足させ、新しい客層も引き付ける。ロオジエが大切にするのは「伝統と革新」だという。井黒さんがシェフソムリエになった2022年から、ロオジエの業績は右肩上がりで推移している。
ダブル・ペアリングとソムリエチームの刷新
2023年に始めた年末の「50万円ペアリング」と「100万円ペアリング」は好調を続けている。クリュッグの2種のクロ・シャンパーニュや1樽しかないルドメーヌ・フレーヴのモンラッシェなどをグラスで供するイベントは、訪れた顧客から翌年の予約が入るという。2025年12月の料理とワインの月間売り上げは1億円を超えた。昨年1月に来店したルフレーヴ当主ブリス・ド・ラ・モランディエールもその価値を認め、特別にモンラッシェの供出を認めてくれたという。
彼は安住の地に居座らない。2022年にはロオジエを独立して起業し、業務契約の立場でソムリエチームを率いてきた。アルバイト、社員、委託のプロの三層に分かれたチーム編成で10人から15人のチームを回して、サービスの品質も高めている。
その一方で、本人はロオジエ以外に、コンサルティング、セミナー、教育、産地ツアーの監修など多方面で活躍している。その根底にあるのは「まわりの人を幸せにしたい」という熱い情熱であり、ひいては日本のホスピタリティ産業を向上させたいという思いだ。
多彩な取り組みを続ける中でいま最も重点を置いている事業が「東京ソムリエギルド」だ。ソムリエが学んで、交流し、世界規模で活躍するシステムを作ろうとしている。2026年の本格稼働を目指して、負けん気の強い挑戦者は正念場を迎えようとしている。
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