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セシル・トランブレイが10年ぶり3度目の来日を果たした。ドメーヌを興してわずか20年で、ブルゴーニュのトップ走者に登り詰めた。栽培と醸造に踏み込んだインタビューと毎年の訪問を掛け合わせて、ブルゴーニュの女王の魅力を掘り下げる。
モレ・サン・ドニのドメーヌを訪れるのはいつもワクワクさせられる特別な機会だが、面と向かって話す彼女はセラーとは違うチャーミングな魅力を放っている。近年は会うたびに畑が増えているが、最新のニュースは0.12haのグリオット・シャンベルタンが加わったことだ。
ドメーヌ・デ・シェゾーが2021年にシャルル・ヴァン・カネットに売却された際に、フランス人が中心となった投資グループがグリオット・シャンベルタンの一部を取得した。グループは醸造家にセシルを指名し、彼女はメタヤージュでワインを生産する。高騰したグランクリュを投資家やインポーターが購入して、ジャン・マリー・フーリエやクリストフ・ルーミエのように有能なヴィニュロン(栽培醸造家)にメタヤージュさせる例は近年、よく見られる。
グリオット・シャンベルタンと2つのエシェゾー
グリオット・シャンベルタンはクロ・ド・ベーズの下部。セシルが入手したのはルネ・ルクレールが耕作していた区画で、クロード・デュガの畑に接している。テロワールをたずねたら、「2024年に半樽だけ造ったばかりだからまだわからない」と正直に答えた。セシルはいつもわからないことはわからないと正直に言う。
2022年にもニュースがあった。ヴォーヌ・ロマネ・ボーモン、クロ・ヴージョ、モレ・サン・ドニに加えて、エシェゾー・ボーモン・バ(Echezeaux Beaux Monts Bas)が戻ってきた。2023年から「エシェゾー・キュヴェ BB グランクリュ」の名で瓶詰めされている。「BB」は「Beaux Monts Bas」の略。ボーモンはプルミエクリュで有名だが、下部はグランクリュに格付けされている。グランクリュにリューディを指定しないという新しい規則が施行されたため「キュヴェ BB」と名乗っている。下層に青い泥灰土が広がるという。
これでドメーヌは「エシェゾー・デュ・ドゥスュ」と「エシェゾー・キュヴェ BB」の2つのリューディからエシェゾーを造ることになった。いずれも量は少なく、性格も異なるため、当面はブレンドする予定はない。
セシルはアンリ・ジャイエの冠詞付きで語られてきたが、ジャイエの弟子ではない。全房発酵も使うし、新樽熟成はしない。高品質の源泉は祖先がメタヤージュしてきたた恵まれた畑にある。畑は元々、セシルの曽祖父でアンリの叔父に当たるエデュアルド・ジャイエの妻エステル・フルニエの家族のものだった。
樽職人だったエドゥアルドは妻が相続した畑からワインを造り、所有地を拡大した。彼が亡くなった1950年、畑は5人の子どもに分割された。末娘でセシルの祖母ルネ・ジャイエが相続した畑を、メタヤージュ(折半耕作)、フェルマージュ(賃借耕作)でミシェル・ノエラらに貸し出した。セシルの母にあたるルネの娘マリー・アニックも契約をそのまま引き継いだ。
セシルの2人の兄はワイン造りに興味がなかったため、獣医志望だったセシルは方向転換しブドウ畑を引き継ごうと決意、2003年にドメーヌを設立した。ドメーヌには少しづつ貸していた畑が返還され、ヴォーヌ・ロマネやシャンボール・ミュジニーなどから購入した区画も加わった。現在は計7.2haを所有・管理している。ジュブレ・シャンベルタン、シャンボール・ミュジニー、モレ・サン・ドニ、ヴォーヌ・ロマネ、ニュイ・サン・ジョルジュ、クロ・ヴージョの5アペラシオンをカバーする。
所有畑は以下の通り
REOGIONALE / VILLAGES
Bourgogne Cote d’Or (0.8ha)
Morey Saint Denis Tres Girard (0.5ha+ 1ha)
Chambolle Musigny Les Cabottes (0.5ha)
Chambolle Musigny Aux Echanges (0.2ha)
Vosne Romanee V.V. (0.5ha)
Nuits Saint Georges (0.09ha)
PREMIERS CRUS
Chambolle Musigny Les Feusselottes (0.45ha)
Vosne Romanee Les Rouges du Dessus (0.23ha)
Vosne Romanee Les Beauxmonts (0.15ha+1.4ha)
Nuits Saint Georges Les Murgers (0.18ha)
GRANDS CRUS
Clos de Vougeot (0.2ha)
Chapelle Chambertin (0.36ha)
Echezeaux du Dessus (0.18ha)
Echezeaux Beaux Monts Bas(0.4ha)
Griotte Chambertin (0.12ha)
栽培で多彩なトライアルを実行
畑は2005年にビオロジック認証を得て、2016年にはビオディナミを始めた。マッサール・セレクションで古樹を増やしてきた。サンセールの剪定の専門家フランソワ・ダルのアドバイスを受けて、樹液が循環して樹を長生きさせて、エスカ対策にもなる剪定に取り組んでいる。栽培も醸造も固定観念にとらわれず、多彩な手法にトライしている。
トレサージュも試した。夏季剪定(ロニャージュ)する従来の手法のブドウ樹と比較した。「夏季に枝の先端を切ると葉が黄色になって活力を失った。トレサージュすると、繁った葉がブドウを守って青々としていた。理由はわからないが、ブドウ樹のストレスを和らげるようだ」と。
また、気候変動対策として、仕立てを高くする実験もした。地面から10センチ高くするとブドウの酸が増したという。実験を怠らない。事務仕事を含めて7人のスタッフで畑の面倒を見ている。収穫は3つのチームを稼働させて2台の選果台を稼働させる。1つの区画の中でも成熟具合を見極めて正確にブドウを摘む。
醸造は低温で長めのマセラシオン。ピジャージュとルモンタージュは穏やかで行わない年もある。澱とともに長期間、熟成する。全房発酵は感覚で比率を決める。「醸造は何も変わっていない」というが、気候変動に対応して2022年にカーヴに冷蔵室を設けた。市場での扱いがわからないため、最小限の亜硫酸は使用する。サルデーニャ産の1.5ユーロのコルクで瓶詰めする。
彼女が蔵から日本に発送した少し熟成した「シャンボール・ミュジニー・プルミエクリュ・フスロット 2018」と「エシェゾー・デュ・ドゥスュ 2017」、輸入元の倉庫にあった「シャンボール・ミュジニー・プルミエクリュ・レ・フスロット 2022」を試飲した。
「ドメーヌ・セシル・トランブレイ シャンボール・ミュジニー・プルミエクリュ レ・フスロット 2022」(Domaine Cecile Tremblay Chambolle-Musigny 1er Cru Les Feusselottes 2022)は柔らかい口当たり、ほのかにフリンティで、ラズベリー、レッドチェリー、オレンジの皮、きめ細かいタンニン、生き生きして、引き締まっている。ラベンダー、濡れた石、なめらかで塩気を帯びたミネラル感、透明感に包まれている。緻密で官能的。9万2000円。94点。
「ドメーヌ・セシル・トランブレイ シャンボール・ミュジニー・プルミエクリュ レ・フスロット 2018」(Domaine Cecile Tremblay Chambolle-Musigny 1er Cru Les Feusselottes 2018)は濃厚でダークラズベリー、ワイルドベリー、ポプリ、上質なタンニン、はつらつとした酸があり、2022より力強く、集中力がある。バランスがとれていて、深みがある。うまみを帯びたミネラル感のある長い余韻。「最初の太陽に恵まれたヴィンテージで、多くを学んだ。2019、2020、2022への対応に役立った」と。94点。
「ドメーヌ・セシル・トランブレイ エシェゾー・デュ・ドゥスュ 2017」(Domaine Cecile Tremblay Echezeaux du Dessus 2017)は淡いルビー、香り高くて軽やか、レッドチェリー、タンジェリン、バラの花弁、ヴェルベッティで表現力が豊か。エキスたっぷりの果実味が口いっぱいに広がる。滑るようにしなやかなタンニン、ジューシーで厚みがある。かすかに白胡椒のスパイス感がある余韻。繊細で優雅。飲み頃にさしかかっている。95点。
熟成させてエレガンスとフィネスが浮かびあがってくる。モレ・サン・ドニはおろか、コート・ドールの最高の生産者の1人だ。
ワインボトルのラベルにスマホを近づけると、ワインの詳細な情報を閲覧できるアプリ「WID」を採用している。ドメーヌの歴史、ラベル画像、収穫風景などの情報が詰まっている。多くのヴィニュロンが採用している。URLhttps://www.wid.fr/
輸入元は豊通食料。
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