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日本で最もよく知られるワインであるシャブリを多角的に分析した『シャブリ 日本のワイン市場を俯瞰する』を、大橋健一MWが刊行した。
ワイン本はどうしても教科書的なフォーマットに陥りがちだ。ワインの専門家になればなるほどに、完ぺき主義を意識してそこから逃れるのが難しい。だからといって、自分の得意分野に寄りかかった浅い本では、何度も読み返したいものにはならない。
マスター・オブ・ワインはワインの市場、栽培、醸造、世界における位置づけなど、ワインという飲み物に対峙する際に必要な深くて幅広いものの見方を身につけている。当然のごとく、本書はシャブリを体系的に理解するうえで欠かせない情報が、綿密なリサーチに基づいて整理されている。
MWの本だからそれは当たり前のことだ。本書を読めば、土壌からアペラシオン、有機栽培、醸造まで、シャブリを飲む際に理解しておくべきあらゆる情報が頭に入ってくる。それは知的興奮を招き、暮らしを豊かにする栄養ともなる。
本書の読み応えはそれだけではない。マスター・オブ・ワインの世界観から滲み出すうまみや滋味がいたるところに散りばめられている。マロラクティック発酵が何をもたらすのか。ミネラリティはどこからくるのか。シャブリの香味を料理とどう合わせれば相乗効果が出るのか。
こうした問題は大橋MWがこの10年間で、セミナーや対談などで語ってきたことではあるのだが、文章としてまとめられているので、繰り返し読み重ねることができる。その過程でワイン全般の視野が広がり、個別の分野に深い洞察が得られるようになる。
その意味では、ちょっと反則だが、最初から教科書的に読み始めなくてもいい。ペアリングに興味があるのなら、「シャブリのロジカルペアリング」から読めばいい。テイスティングの精度を高めたいと思うなら「シャブリ全体の香味特性」から、表現を盗めばいい。
つまみ食いをすればほかも読みたくなり、いつしか全体像が染み込んでくるだろう。それだけ、複雑でうまみあふれる本である。年末年始のお供に。
4400円。ウォンズパブリシングリミテッド。
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