栽培、醸造、販売で進化、オーパスワンの抑制された2012

　米カリフォルニアのカルトワインの先駆け的な存在「オーパスワン」のデヴィッド・ピアソンCEOが、最新2012ヴィンテージを引っさげて来日した。


　オーパスワンは、ボルドーのシャトー・ムートン・ロートシルトのフィリップ・ド・ロートシルト男爵とナパヴァレーのロバート・モンダヴィが、対等な立場で技術と着想を詰め込んで、ボルドー・スタイルのワインを造るという夢のために、ジョイント・ヴェンチャーを設立した。初ヴィンテージは1979。パリの試飲会からわずか3年後のこと。フランスからワインメーカーが米国に来て初めてワインを造った。
　モンダヴィが提唱した1981年の第１回ナパヴァレー・ワインオークションで、1983年6本と1979年2本を組み合わせたケースが2万4000ドルで落札されて、一気に有名になった。1981年ヴィンテージはムートン・ロートシルトが25ドルだった時代に50ドルで販売され、超プレミアムワインの地位を確立した。2005年、コンステレーション・ブランズが、ロバート・モンダヴィ・コーポレーションを買収したが、オーパスワンは独立した経営権を有する。2004年にCEOに就任したピアソンが品質を向上させ、販売を強化してきた。ディテールを詰めるワイン造りのカギは2001年に就任したワインメーカーのマイケル・シラーチが握る。
　「畑仕事での主な進化は2つある。灌がいの間隔を長くし、根が地下深くに伸びるようにした。28万8000本のブドウ樹を検査して、25年で植え替える。カリフォルニアがフランスにかなわないのは樹齢の高さだ。将来のプロジェクトとして、4年前から酵母の選抜を進めている。トカロンの畑から酵母を採集したところ、オーパスワン固有の酵母が3種見つかった。この酵母で発酵させると面白い結果が得られそうだ」とピアソン。


　醸造では、光学式選果機を2010年にカリフォルニアで初めて導入した。2008年から実験して、人間より優れていることを確認した。2011年のような難しい作柄で効果が高いという。徐梗機も、ブドウを傷つける度合いの少ない重力式のものを採用した。ムートンの技術責任者フィリップ・ダルーアンは年に1、2回、コンサルタントとしてやってくる。収穫や醸造で意見を述べるが、最終決定はシラーチが行う。
　マーケティングも、カリフォルニアで前例のない試みに成功した。輸出は、2004年から各国の代理店でなく、ボルドーの主要な21ネゴシアンを通じて販売する。輸出販売の比率は18％から52％に増えて、82か国に出荷されている。
　「9月の第1月曜の朝に一斉に連絡を流す。ネゴシアンと緊密な関係を築き、各国の望ましい市場に届けられているかを確認している。ネゴシアン同士も競争するので、いい結果が生まれている。世界のワインビジネスの中心である英国でも、有名なショップやレストランで存在感を増している」


　偽造品対策も抜かりない。2008ヴィンテージから裏ラベルに電子チップを入れた。スマホでスキャンすると、出荷後の経路が追跡できる。空き瓶に再充填する手口への対策もとっている。2010ヴィンテージから、印刷会社と提携して開発した特殊インクをキャプセル上部にまぶしている。特殊なフィルターで見ると、本物は紫色に見える。容赦がない。


　2012年ヴィンテージを試飲した。赤みの強いガーネット、レッドベリー、黒鉛に、杉やほのかなハーブ。しっかりした骨組みがあるが、タンニンはシルキーで、きめ細かく、ソフト。2012は青さが出た2011の反動で、過熟気味のワインが多いが、これは抑制が効いている。アルコール度は14.5％。ボルドーでもアルコール度14％超が珍しくない現在、酸と果実が統合されたバランスの良さから、違和感がない。ポイヤックのグランヴァンを連想させるエレガンス。細部まで行き届いた世界クラスのワインだ。


　ピアソンは「2012は理想的な天候に恵まれ、過去最高のヴィンテージの一つ。糖度ではなく、フレーバーを基準に、過熟にならないように、69あるブロックごとに収穫する。9月21日から収穫を始めたら、早すぎて、周辺の生産者が驚いて電話してきた。アルコール度は14％前後が理想で、低い方がいい。マウスフィールを大切にしている」と。

2016年3月15日　東京・六本木で
オーパスワン　2012
95点
市価：4万から4万5000円