飲むべきブラン・ド・ノワール、考える自然派ダヴィッド・レクラパール

　グローワー（レコルタン・マニピュラン）のシャンパーニュを飲むのは気を使う。瓶内熟成期間が短く、デゴルジュマン後に短期間で出荷されるから、バランスをとるのに時間がかかる。普通は自分で寝かせるが、ダヴィッド・レクラパールは、輸入業者が16か月間寝かせて市場に出した。おかげで、理想的な状態にある。

　ビオディナミを実践し、エコセールとデメテールの認証を得ているが、ジャック・セロス一派とは交流が薄い。自分の頭で考えて、細部を詰め、トレパイユのチョーキーな畑のシャルドネの個性を表現している。基本はノンドゼ。自然酵母で発酵し、清澄、ろ過、デブルバージュ（静置）はしない。ルフレーヴから購入した中古樽か、エナメルでコーティングした鉄製タンクで発酵。ステンレスタンクは負のエネルギーがあるとして使わない。単一年から生産する。熟成期間が短いため、ヴィンテージを名乗らないが、裏ラベルを見ると収穫年がわかる。「L.V」という文字の後にある2ケタの数字がそれだ。

　入門編「ラマトゥール」（収穫年2010）は、南西向きの4、5区画のシャルドネをエナメル・コーティングの鉄製タンクで醸造。亜硫酸の少ない自然な味わい。レモンの皮、アーモンド、突き刺すような酸、透明な果実。張りつめた緊張感が余韻まで切れ目なく続く。ノンドゼ。

　「ラルティスト」（収穫年2009）は樹齢30年から40年の2区画から。青リンゴ、キウイ、セージ、弾けるように快活で、レーザー光線のようにまっすぐで正確。ほのかにムスクのタッチがあり、チョーキーなフィニッシュ。鉄製タンクと中古樽の半々で発酵。エクストラ・ブリュットだが、ドザージュはゼロに近い数グラムだろう。
　フラッグシップ「ラ・ポートル」（収穫年2008）は祖父の植えた1946年の単一畑ピエール・サンマルタンから。熟した果実が幾重にも折り重なって複雑な香り。太い果実が中心を貫いている。寄せては返す波のようなエネルギー。まさにエレクトリック。テクスチャーはクリーミィで、継ぎ目がない。先の見えないタイトロープのように長くて細い余韻。樽発酵でブドウの深みと凝縮力を引き出した。

　「ラルシミスト・ロゼ」（収穫年2009）は、4区画のピノ・ノワールから。除梗したブドウを大型の樽で、ピジャージュも行いながら長時間醸して、熟成した。オレンジ、ベルガモットのセクシーな香り。赤みの強い色調だが、フェノリックな要素は、キレのある酸とミネラル感ときれいに統合されている。色から連想される重さはなく、フィネスあふれる香り高いロゼ。エクストラ・ブリュット。

　初リリースの「ラストル　ブラン・ド・ノワール」（収穫年2010）は、最近では衝撃のブラン・ド・ノワール。2010年は腐敗が多かったため、ロゼに回すピノ・ノワールの一部をラストルに振り向けた。透明瓶からオレンジを帯びた色合いがよくわかる。アプリコット、レッドベリーのコンポーネントの香り。ピノ・ノワールの力強さとトレパイユのチョーキーさが調和し、中間から終盤にかけて、右肩上がりでドラマが広がる。お隣アンボネイ村のエグリ・ウーリエのブラン・ド・ノワールを連想したが、こちらの方が線が細く、とがっている。トレパイユのピノ・ノワール向け区画のポテンシャルを引き出した挑戦的な1本。
　シャンパーニュで真の「自然派」と言うにふさわしいレクラパール。飲みごろや飲み手を選ぶが、ツボにはまった時の快楽は何物にも代えがたい。世界中でカルトなフォロワーを抱える孤高の生産者と言える。

2016年3月16日　自宅で

シャンパーニュ　ダヴィッド・レクラパール　ラマトゥール（2010）　パ・ドゼ
90点
希望小売価格：8500円
シャンパーニュ　ダヴィッド・レクラパール　ラルティスト（2009）　エクストラ・ブリュット
92点
希望小売価格：1万4500円
シャンパーニュ　ダヴィッド・レクラパール　ラ・ポートル（2008）　パ・ドゼ
94点
希望小売価格：1万8500円
シャンパーニュ　ダヴィッド・レクラパール　ラルシミスト・ロゼ（2009）　エクストラ・ブリュット
94点
希望小売価格：1万8500円
シャンパーニュ　ダヴィッド・レクラパール　ラストル　ブラン・ド・ノワール（2010）　パ・ドゼ
94+点
希望小売価格：1万8500円
輸入元：ヴォルテックス