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日本ワインの人気が高まる中で、ブームを牽引する醸造家の1人、安蔵光弘さんの半世記『5本のワインの物語 Five Wines' Story』が刊行された。
師匠の麻井宇介さんとの絆を描いた映画『シグナチャー』の公開と重なるが、タイミングを狙ったわけではない。2015年に出版された『麻井宇介コレクション』出版を機に、8年間にわたって書きつないできたものをまとめた。420ページにわたる大著である。
「シャトー・メルシャン 桔梗ヶ原メルロー シグナチャー1998」「シャトー・レイソン2003」「万力ルージュ2014」など、人生の節目を刻んだ5本のワインを軸に、師との出会いからシャトー・メルシャンのゼネラル・マネジャーにいたるまで、四半世紀のワイン人生を、細部の会話や写真を盛り込んで描いた。冗談好きな安蔵さんの笑顔が浮かんでくるように生き生きしている。
ポール・ポンタリエ、冨永敬俊さん、斎藤浩さんら、シャトー・メルシャンに関わった人々だけでなく、日本ワイン愛好家ならよく知る人々が大勢登場する。淡々と描かれる膨大なエピソードの1コマ1コマが、日本ワイン史の貴重な記録となっている。
麻井さんは亡くなる3週間前、シグナチャーについてこう語った。
「あなたが造ったあのメルローが、僕には国産ワインで一番だな」
師弟にとって幸福な時間だっただろう。
麻井さんは安蔵さんに文章を書いて、ワインの面白さを伝える大切さを伝えていた。彼の見抜いた弟子の才能はワインだけでなく、本書の出版によって、豊かな果実をつけた。
心動かされる物語であると同時に、ワイン造りの教科書にもなりうる。日本ワインの愛好家が増えて、成熟期に向かいつつある現在、造り手たちには実践の手引き書ともなるだろう。
本書は功成り名遂げた醸造家の回顧録ではない。現在進行形のリアルな物語だ。妻の正子さんのワイナリー「Cave an」もこの夏、本格稼働を始めた。これから何回、彼の仕込んだワインが飲めるだろうか。
イカロス出版。2860円。
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