まろやかと酸化のバランス、ラヴノーのシャブリは無敵

　ジャン・マリー・ラヴノーには伝説がある。訪問は極めて困難。電話で連絡がとれず、FAXしか通じない。少なくとも通信状況は改善されたようだ。オフィスにはパソコンがあった。ドメーヌを訪問したら、クリストフ・ルーミエがメールを書いているような時代だから、不思議はない。
　2015は収穫直前の9月1日にヒョウ害に見舞われた。ラヴノーも80％が被害を受けた。「9月3日に予定していた収穫を1日に繰り上げた。酸が足りない」と、ラヴノー。ビュトー、フォレ、モンマン、モンテ・ド・トネール、ブランショの害が大きかったという。グランクリュのレ・クロ、ヴァルミュールは無事だった。ラヴノーによると、ヒョウの保険は、プルミエクリュでヘクトリットル当たり5000ユーロ。結構な出費だ。

　樽から2014を試飲した。ヴィラージュのシャブリ。わずか0.95ヘクタールだが、市場では見つけにくい。クリーンで、生き生きしていて、フレッシュ。心地よいシトラスとほろ苦さ。完成度が高い。「瓶より樽の方がふくよかさを感じる」と話したら、ヴィンテージのせいだろうと言う。
　プルミエクリュは5つ。フォレはストーンフルーツ、火打石、まろやかで、グリップがある。黒ずんだ熟成樽の使用年数は不明だという。新樽は5％。カーヴには、10年前から使っているシャサンの樽も見かけた。モンマンはより正確で、カミソリのようにシャープ。ストーニーなミネラル感が強く、余韻は長い。ヴァイヨンは左岸を代表するプルミエクリュ。火打石、レモンと青リンゴが混じり、ほのかにショウガ。ふくよかで、優美で、中心に収束するエネルギーがあふれている。
　ビュトーはモンマンの南西にあるサブクリマだが、ビュトーのクリマ名で詰めるだけの個性がある。ヴァイヨンより力強さがあり、焦点が合って、リニアな味わい。微妙に酸化した味わいの中にあふれるほどのミネラル。1.5ヘクタールのラヴノーにしては広い畑。モンテ・ド・トネールは3.2ヘクタールと、さらに広い。カキの殻、スモーク、レモンドロップ。口蓋にしみわたる酸と、浸透力のあるミネラル感。非常に長い余韻が続く。
　基本的に補糖は0.5％行い、マロラクティック発酵は100％する。全体に微妙な酸化とマロ由来のまろやかさのバランスがいい。ヘクタール当たり収量は50ヘクトリットル前後。「昔からの栽培と醸造を変えていない。2014の収穫は9月17日から始まった。タイミングはPHで決める。2014は酸があり、バランスがいい」という。
　グランクリュは3つ。ブランショはフルーティで、横に広がり、縦にも伸びるが、コアには硬質なミネラル感が居座っている。なめらかな質感と透明感があり、風格がある。バルミュールはタイトで、スリム。砕けた石灰岩とレモンの皮の香り。的を射抜く貫通力がある。レ・クロは斜面中腹。強大な凝縮感と膨大な果実。タイトなミネラル感と優雅な果実味が最良のバランスで保たれ、はてしなく長い余韻にしばらく心を奪われる。長期熟成のポテンシャルを感じた。

　瓶から飲んだのはビュトーの2013と2012。2013はクラシックで、ビュトーのバランスの良さが表れている。2012は正確で、ハーモニーのあるヴィンテージ。
　ラヴノーは口数は少ないが、何も隠さず、素朴な性格。通して試飲すると、これ以上のシャブリはない。というか、これ以上の白ワインもほとんどない。シャブリに合わせるのは、海の幸やコンテ、ボーフォールなどのハード系チーズが好きだと話していた。

2015年11月6日　シャブリのドメーヌ・ラヴノーで

ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ　2014
88～90点
ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ・プルミエクリュ・フォレ　2014
90～92点
ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ・プルミエクリュ・モンマン　2014
90～92点
ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ・プルミエクリュ・ヴァイヨン　2014
91～93点
ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ・プルミエクリュ・ビュトー　2014
92～94点
ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ・プルミエクリュ・モンテ・ド・トネール　2014
92～94点
ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ・グランクリュ・ブランショ　2014
92～94点
ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ・グランクリュ・バルミュール　2014
93～95点
ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ・グランクリュ・レ・クロ　2014
93～96点
ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ・プルミエクリュ・ビュトー　2013
93点
ドメーヌ・ラヴノー　シャブリ・プルミエクリュ・ビュトー　2012
92点

輸入元：ラックコーポレーション