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ボルドー2021ヴィンテージのプリムールが来週、始まり、2年ぶりのリアルな試飲会が開かれる。2018、2019、2020と続いた黄金のトリオと較べて、難しいヴィンテージ。有力な評論家の人事異動によって、トレードや消費者が信頼をおける確固とした羅針盤も失われ、転換点に立っている。
新型コロナウイルスによるパンデミックで、2020年と2021年はボルドーでプリムール試飲会が開かれなかった。日本では、国内の輸入業者やネゴシアンが開いた試飲会や、シャトーから直接送付されたサンプルのZoom試飲に基づいて評価を下すしかなかった。
1級、スーパーセカンドや右岸のシャトーはサンプルを空輸しなかったため、重要なピースは欠けた。これは平時でも、約束をとりつけて訪問する必要があるので、仕方ないが、温度変化によって、状態が完ぺきではないボトルも散見された。
2021プリムールは2年ぶりにUGCB主催の試飲会が、シテ・デュ・ヴァンで開かれている。著名な評論家やメディアは既に現地入りし、シャトーで試飲を始めている。私自身は今回も安全をとって、120シャトーを超すUGCB試飲会やトップシャトーの招待を断った。4月に海外渡航のコロナ対応が緩和され、今となっては後悔している。
ボルドー大学ISVV(ブドウ・ワイン科学研究所)が毎年、発表する2021レポートは、2018-2020の黄金トリオとは比べようもない内容だ。ローレンス・ジェニーとアクセル・マルシャルは「2021が非常に困難なヴィンテージであった」ことを率直に紹介している。
赤は困難 辛口と甘口白は傑出
春の霜、べと病、結実不良、冷夏と収穫期の雨による腐敗、灰カビなど、困難な条件が山積みとなった。熟度が不足し、補糖が行われた。青臭く、酸味が強く、凝縮度も欠如した。収量は少ないが、幸運なことに赤ワインのアルコール度は12.5-13.5%にとどまり、クラシックなスタイル。
メルロがネガティブな影響を受けて、右岸の赤ワインは難しいが、カベルネ・フランは成功した。カベルネ・ソーヴィニヨンは雨の前に早摘みする生産者もいたが、砂利質土壌ではしっかりしたタンニンと深みを備えている。
一方で、冷涼な夏のおかげで辛口ワインは成功した。高いリンゴ酸とアロマの前駆体を保持したソーヴィニヨン・ブランは、熟した輪郭と強いアロマを表現している。ソーテルヌとバルサックは収量は減ったものの、9月中旬の雨の後にボトリティスが広がり、少ない回数で収穫された。最高の品質が期待される。
増加しているオーガニックやビオディナミの生産者が打撃を受けた。既に試飲した複数の評論家のコメントを参照すると、赤ワインは酸のレベルが高く、タンニンが未熟で、ミッドパレットが乏しい傾向がある。
冷夏でメルロが熟さなかったため、左岸ではカベルネ・ソーヴィニヨンの比率が極めて多い。リスクを犯して遅摘みして、慎重にタンニンを抽出した生産者は、比較的良いワインを作った。雨の多かったメドック南部より北部が成功した。
シャトー・ピション・コンテスのニコラ・グルミノーは「2013以来、最も難しいヴィンテージだった」とコメントしている。
ワイン・アドヴォケイトが頼りになるか?
バイヤーや消費者が購入時の参考にする評論家の地図には変動があった。最も重要な指標となってきたワイン・アドヴォケイトは、編集長のリサ・ペロティ・ブラウンMWが独立して、ワイン・インディペンデントを設立した。
後任はブルゴーニュやシャンパーニュ担当のウィリアム・ケリー。ボルドーは長い試飲歴を求められる産地なので、若い彼がどこまで的確な判断を下せるかは未知数となっている。
ジェーン・アンソンもデカンター誌のボルドー担当を離れて、自らの有料サイト「ジェーン・アンソン・コム」を設立した。大著「Inside Bordeaux」を刊行した彼女の膨大な知識量とレビューは信頼できる。
ヴィノスはニール・マーティンとアントニオ・ガッローニの2枚看板が不変。マーティンは20年を超すボルドー取材歴があり、著書「ポムロール」も出版している。ガッローニはイタリアとシャンパーニュの専門家だが、プリムールも毎年、試飲してきた。最も信頼できるメディアの1つだ。
このほか、高得点を連発するジェームス・サックリング、パーカー門下生のジェブ・ダナック、ワイン・スペクテイターなどの米国人レビュワー主体のメディアがある。
フランスにはベタンヌ・ドゥソーブ、英国にはジュリア・ハーディングMWが取材するパープル・ページが存在する。
長いレビュー歴の必要なプリムール評価
ポスト・パーカーの羅針盤を欠く状況はますます複雑化し、だれか1人が市場を左右する状況ではない。正確を期すとすれば、ワイン・アドヴォケイト、ヴィノス、ワイン・インディペンデント、ジェーン・アンソン・コムの4つの有料サイトを比較する必要がある。
ボルドー・プリムール試飲で、ファインチューニングを続けるグランヴァンを評価するには、テロワールの深い理解ととともに、世代交代の進む技術責任者や設備の刷新、最新技術などの情報が欠かせない。少なくとも10-20年のレビュー歴がなければ、正確な評価は下せない。
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