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オリンピックやアカデミー賞があれば、自国の選手や作品を応援したくなる。だれもが愛国心を持っているから当然である。ワインの世界でも、日本人のオーナーやワインメーカーが頑張るワイナリーを応援したくなる。ワインを通じて、各国の国情を知っていればなおさらである。
ニュージーランドは世界で最も、日本人の造る優れたワインがひしめている産地だ。留学や生活のしやすさも一因だろう。ロバート・マクロッチMWが栽培と醸造を修めたリンカーン大学など、ワイン造りを学べる教育機関がある。自然が豊かで、移民の多い多国籍国家である点も恵まれている。
ニュージーランドの評論家ボブ・キャンベルMWらが運営する「The Real Review」が発表した「トップ・ワイナリーズ・オブ・ニュージーランド 2021」には、4位に楠田浩之さんのクスダ・ワインズ(マーティンボロ)、57位に小山竜宇さんのコヤマ・ワインズ(ワイパラ)、72位に小山さんが社長を務める「マウントフォード・エステート」(ワイパラ)、73位に西酒造の所有する「アーラー」(ワイララパ)が選ばれた。
これ以外にも、佐藤嘉晃・恭子夫妻のサトウ・ワインズ(セントラル・オタゴ)、岡田岳樹さんのフォリウム(マールボロ)、木村滋久さんのキムラ・セラーズ(マーティンボロ)、大沢泰造さんの大沢ワインズ(ホークス・ベイ)、寺口信生さんがアシスタント・ワインメーカーを務めるモアナ・パーク・エステート(ホークス・ベイ)など、どれも評価が高い。
日本のトレードや消費者は、ワイン・アドヴォケイト、ワイン・スペクテイター、ヴィノスなど、米国系メディアに頼る傾向にある。確かに、米国はニュージーランドワイン最大の市場だが、ワインの評価ではむしろ、英国のメディア方が参考になる。
英国系メディアから高い評価
日本人ワインメーカーのNZワイン
英国はなんといっても、世界のワイン・トレードの中心である。ニュージーランドが英連邦王国の一員だから親近感が強い。グローバルな視野を有するマスター・オブ・ワインら専門家も多い。ブティック・ワイナリーも輸入されている。
英国を代表するデキャンター誌が、2020年12月号でワイララパ地方を特集した時、クスダ・ワインズとアーラーを紹介したのはだから、大きな意義があり、生産者も喜んだに違いない。
今や”世界のクスダ”と呼んでもおかしくないワインメーカーの楠田浩之さんは、早い段階から「世界で通用するワイン」という目標を掲げてきた。それでも、最初はロンドンに旅して専門家に会うのが奇妙な感じだったという。
「ジャンシス・ロビンソンMWとランチをする。自分が世界的な評論家にワインを注いでいるのが妙な感じだった」と、5年前に語っていたのを覚えている。
”世界のワイン地図に乗った”という表現を使うなら、日本人ワインメーカーの造る2つのワイナリーがある。クスダ・ワインズとサトウ・ワインズ(セントラル・オタゴ)である。両方とも、ジャンシス・ロビンソンMWの「ワールド・アトラス・オブ・ワイン」7版の、ワイララパとセントラル・オタゴを代表するワインとして、それぞれラベルが掲載された。
各国で経験を積んだ意思の強い一匹狼
楠田浩之さんと佐藤嘉晃・恭子夫妻
2人とも似たキャリアの持ち主だ。楠田さんは富士通とシドニーの日本総領事館を経て、33歳でドイツ・ガイゼンハイム大学のブドウ栽培ワイン醸造学部に入学。栽培と醸造を学んで、2001年にマーティンボロにやってきた。
ピノ・ノワールはニュージーランドだけでなく、世界で独特なワインとして評価されている。ドイツで親しんだリースリングの甘口の品質の高さも認められている。
佐藤嘉晃・恭子夫妻は、日本興業銀行時代に知り合い、2006年にワイン造りの夢をかなえるため、ニュージーランドに渡った。リンカーン大学で栽培と醸造を修めた。
2人がヨーロッパで経験を積んだドメーヌを振り返れば、本物に触れてきたことがわかる。嘉晃さんはドイツ・バーデンのベルンハルト・フーバー、フランス・ルーションのマタッサ、ヴォーヌ・ロマネのビゾ、アルザスのジャン・ピエール・フリック。恭子さんはブルゴーニュのパカレ、マコンのジュリアン・ギヨ、アルザスのビネール……。
ニュージーランドでは、嘉晃さんはマウント・エドワードの醸造責任者を務め、恭子さんはフェルトン・ロードの栽培管理者を12年間務めた。
楠田さんも佐藤さんも、人生の途中で進路を変えて、世界に通用するワインを独力で造り上げた。一匹狼で、意思が強い点が似ている。佐藤夫妻が岩だらけの土地をゼロから開拓した畑を訪ねると、苦労がしのばれた。
サトウ・ワインズは「ピサ・テラス」「ノース・バーン」「ランソリット」の3種のピノ・ノワールを手掛ける。全房発酵も導入して、エネルギーの詰まった自然派ワインは亜硫酸も少なく、透明感に包まれている。ブルゴーニュのカルト・ワインメーカーに登りつめた師匠のジャン・イヴ・ビゾも、その品質にお墨付きを与えている。
リースリングとオレンジワインのピノ・グリも、うまみとほろ苦みを帯びて、緊張感を備えている。裏ラベルの栽培・醸造データも詳しく、トレイサビリティに配慮している。嘉晃さんにワイン造りのことを聞くと、包み隠さずすべてを話してくれる。
日本人は同胞の造るワインを通じて、ニュージーランドワインの魅力を発見している。
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