- FREE
ボルドーで最も高価なワインはペトリュスと言われるが、価格の高さと希少度ではル・パンが上回る。ペトリュスから5分足らずの松の木の下に、小さいがモダンなワイナリーがある。
ジャック・ティアンポンとフィオナ・モリソンMWの夫妻が所有するル・パンの年産量は500ケース前後。市場でめったに見かけないワインが2月末、ヤフオクで落札されずに終わった。ヴィンテージは2002。価格は19万7999円だった。出品したのは、古物商許可証を有する大手買い取り業者だった。
ラベルを張り替えられたル・パン2002
ボトルには奇妙な点があった。キャップシールにあるべき自家元詰を示す「MIS EN BOUTEILLE AU CHATEAU」がない。さいたま市の「松澤屋」のラベルが裏に貼ってあるが、貼り直したような痕がある。松澤屋に画像を送付して問い合わせた。松澤屋が長年、プリムールで買い付けてボルドーを販売していたのは知っている。以下のような返答だった。
「10年以上前の弊社のバックラベルの様に思えます。簡単なもので、だれでも作成できるのかもしれません。写真のキャップシールは明らかに偽物だと思います。元のボトルは弊社の取り扱いの可能性はありますが……。20年以上にわたり、ティアンポン家のネゴシアンから買い付けているので、ル・パンに関しては間違いないものを取り扱っていると自負しています」
松澤屋から送られてきた在庫のル・パン2002の画像は本物だった。「MIS EN BOUTEILLE AU CHATEAU」がキャップシールに入っている。今回の偽ボトルはポムロールのワインのラベルを剥がして、ル・パンのラベルを貼ったと思われる。
偽造ワインで悪質なケースには、今回のように信頼のおける業者の裏ラベルそのまま張り替えて使ったり、表ラベルを張り替えて使うケースがある。空き瓶をそのまま使うケースもあり、これは消費者が一見しただけではわかりにくい。
偽アンリ・ジャイエのキャップシールの多くは汎用品
オークションハウス「Top Lot」のアドバイザー堀賢一さんは「エマニュエル・ルジェに関しては、空き瓶を再利用した偽物が多い」という。
空き瓶の再利用の場合は、キャップシールを綿密にチェックするのが重要となる。年間4000本を鑑定する堀さんは、アンリ・ジャイエの99%は偽物だという。その理由の1つが疑わしいキャップシールだ。
「ジャイエの偽造ボトルのキャップシールの多くは、醸造用品店で簡単に購入できる汎用品。素材はアルミベースか錫合金が使われているケースも疑わしい。ジャイエの偽造ラベルはフォントが太いケースが多い」
キャップシールを切れば、さらに正確な情報が手に入る。瓶詰めから長い期間を経ているにもかかわらず、偽物のコルクは新しかったり、ワインの染み込み方が浅かったりするという。
堀さんによると、ジャイエの焼印には、「Domaine Henri Jayer」とあり、畑名と原産地が刻まれている。 “Mis au Domaine Henri Jayer”とあるべきが、”Mis an Domaine Henri Jayer”となっているものが見られるという。
堀さんがこれまでに発見した偽造ボトルの多くは、主に3社のインポーターの日本語ラベルが貼られていた。これら3社のインポーターが、偽造品と気がつかないまま輸入した可能性がある。疑わしいものは排除するので、これら3社の日本語ラベルが貼られたボトルが、堀さんの関与するオークションに出品されたことはほとんどない。
ババ抜きのババのように漂流する偽造ワイン
香港やマカオのショップにも偽造ワインは出回っているが、日本でも電子商取引で偽造ワインが大量に見られるようになってきた。世界最大の偽造ワイン市場と見られるヤフオクの存在が一貫して揺りかごとなっている。
ここ10年で買い取り業者が増えているのも状況を悪化させている。鑑定眼に乏しい売り手が販売する偽造ワインは、ババ抜きのババのように、ヤフオクや買取業者の手に渡り、流通し続ける。
世界的なワイン鑑定家のモーリン・ダウニーは、米国のワイン偽造犯ルディ・クルニアワンが偽造した5億5000万ドル(約600億円)以上に相当するワインは、いまだに世界の市場に流通していると見ている。クルニアワンは11月に釈放され、今後の動向が注目されている。
彼女は2018年、運営する「WineFraud.com」(ワインフロード・コム)で、会員が8年前に購入したペトリュス1929マグナムの偽造品を、売り主が買い戻して現在の流通価格で販売した例を挙げている。
日本のワイン市場も、欧米と同じく危険な状況になりつつある。偽造ワインは一握りの高級ワインだけでなく、流通量の多いサッシカイアや大量生産されるペンフォールズ、イエロー・テイルにも広がっている。
ワイン愛好家には切実な問題だ。リスクを防ぐには、信頼できるインポーターやショップから、正規輸入品やプロヴェナンスのしっかりしたワインを購入するしかない。
購読申込のご案内はこちら
会員登録(有料)されると会員様だけの記事が購読ができます。
世界の旬なワイン情報が集まっているので情報収集の時間も短縮できます!