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イタリアワインの本を愛好家の手にとらせるのはなかなかに難しい。産地も品種も多彩で、一般化しにくい。全体像を描こうとすると、味気ない教科書的な本になってしまう。マニアックに掘り下げた本も容易ではない。現在進行系の造り手や産地すべてをわかりやすく語れる書き手はそれほど多くない。
かくして、トスカーナとピエモンテに代表される有名産地を中心になめて終わってしまう。そんな愛好家が日本には多いのではないか。知られざる地方の産地にこそ面白い、コスパの高いワインが眠っているはずなのに……なかなかたどり着けない。
「イタリア式 ワインのABC」はイタリアワインにあるそうした垣根を取り払ってくれるムックの入門書である。ソムリエの教育機関であるイタリアソムリエ財団が編集している。ソムリエ関連の団体がまとめた本は、頭でっかちになりがちだが、これは読みやすい。
最初の栽培と醸造の説明がわかりやすい。ソムリエの教本とは思えないほど、すんなりと頭に入ってくる。テイスティングや料理とのアッビナメント(マッチング)も、堅苦しくなくすらすらと読める。この概論を読んで理解するのは、行き帰りの通勤時間があれば十分だ。
核となる「イタリア各州のブドウ栽培とワイン醸造」は、ツボを抑えている。地図と産地呼称が手際よくまとめられている。最後はオリーブオイル。EUの規定を紹介しながら、適度に肩の力が抜けていて興味深い。
全編にイタリア語の用語がついていて、それを覚えていくのも楽しい。お勉強ではなく、読みながら身につく。トスカーナ州がイタリアワイン輸出の15%を占めるというようなデータも含まれている。決まりを嫌い、情熱が先走るイタリア人の本とは思えない。イタリアワインの世界に足を踏み入れたい入門者にすすめたい。
「イタリア式 ワインのABC」。イタリアソムリエ財団編著。松山恭子訳。イカロス出版。1800円。
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