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シャンパーニュ地方は、他のワイン産地同様、時代によって栽培方法や醸造方法が変遷している。それがワインに表れるので、過去にさかのぼって試飲するとその時代の背景も知ることができる。生産者のスタイルの変化もあるが、消費者の嗜好や時代の求めるものによる影響もある。
2019年4月のルイ・ロデレールの醸造長主催のディナーでは、クリスタルの垂直試飲がおこなわれた。熟成してからポテンシャルを発揮するクリスタルとクリスタル・ロゼを体験し、シャンパーニュの過去のヴィンテージをレビューする良い機会ともなった。
クリスタル 2008
2018年にリリースされた現行ヴィンテージ。主要なメディアから高い評価を得ていて、複数の批評家が100点満点をつけた「パーフェクト」なクリスタル。2008年のシャンパーニュは、全般にシャープで高い酸が特徴だ。そのため、クリスタルも、通常より長い、9年間の澱熟成期間を経てからリリースされ、16%のワインはマロラクティックをおこなった。長期の熟成により、ドサージュは、1リットルあたり7.75グラムと通常のクリスタルとしては、もっとも低いレベルだ。白い花、レモン、オレンジ、白桃、ミラベル、トースト、チョーク。凝縮感がありパワーを秘めているが口当たりは軽やかで、泡は緻密で柔らかい。クリスタルの特徴である、繊細さ、エレガンスとフィネス、ピュアな果実味を表現したヴィンテージだが、まだ若々しく、その酸と骨格から、今後長期にわたった熟成と発展が期待できるシャンパーニュだ。
クリスタル 2012 (プレビュー)
2008年ヴィンテージに続いて、来年リリース予定の新ヴィンテージ。クリスタル用のブドウすべてを、オーガニックまたはビオディナミで栽培することを達成した転機の年で、ジャン・バティストいわく、「次のレベル」のワイン。(クリスタル・ロゼは一足早く、2007年ヴィンテージから100%オーガニック・ビオディナミのブドウとなった。)
2012年は、ブドウがよく熟した、ピノ・ノワールの年で、ワインにはボディやパワーがある。そのため、2008年とは対照的に、澱熟成により追加されるリッチでオイリーなテクスチャを与えすぎないよう、澱熟成期間は6-7年間。ドサージュは、1リットルあたり7.5グラム。マロラクティックはゼロ。みかん、ブラッドオレンジ、アールグレイ紅茶と豊かなアロマに加えて、savoryさもある。
クリスタル&クリスタル・ロゼ 1999 ヴィノテック (プレビュー)
試飲したのは、7年前に澱抜きされた、いわゆる「レイト・ディスゴージメント」(通常より長期の澱熟成期間を経たもの)である、ヴィノテック。ドサージュは1リットルあたり6グラム。
1999年は、暑い年で、ブドウがよく熟し、ボリュームがあるオープンなワインとなった。澱からくる酵母やビスケット、熟成による蜂蜜やキャラメルの風味もある。クリスタル・ロゼは、フルーティかつフレッシュ。花のブーケ、苺、パンデピス、ホワイトチョコレート。
1999年は、収穫前に、ジャン・バティストが醸造長に就任した年。栽培の責任者となったのは翌年の春からで、当時のシャンパーニュ地方においては、いち早く除草剤をやめ、オーガニック・ビオディナミ農法に着手するという強い決断を下し、大きな転換をはかった時期だ。
クリスタル・ロゼ 1995 ヴィノテック (マグナム)(プレビュー)
2017年に、新商品として初リリースした、通常サイズの「1995 ヴィノテック」のマグナム版。通常サイズの1995ヴィノテックは、sur latteでの澱熟成8年、sur pointeでの澱熟成6年、澱抜き後に7年間の、合計21年の期間を経てリリースされた。マグナムのヴィノテックの場合、マグナムボトルの熟成と同じ理論で、澱とワインとの接触割合が低くなるため、通常サイズのヴィノテックより追加の澱熟成期間を経てからリリースされる。ロゼは、55%ピノ・ノワール、45%シャルドネ。繊細さ、緊張感、正確さに加えて、ピュアな果実味(ラズベリー、さくらんぼ)、ジンジャー、ビスケット、ヴァニラ、微かな蜂蜜とモカ。
クリスタル 1993 ヴィノテック (通常サイズとマグナム)
ヴィノテックは、1995ヴィンテージが市場に出た初めての商品だが、実は、影には数々の試作品がある。この1993年は、見た目からは通常のクリスタルと同じラベルだが、中身はヴィノテックの熟成手法を経たもので、ジャン・バティストは「ヴィノテックの父」と呼ぶ。
1993年は、夏までは好天気が続き、良作年との期待が高まったが、9月に入り雨が続き、結果的にブドウは希釈し、難しい年となった。ピノ・ノワールはあまり熟さず平均的な出来で、シャルドネが良い年となった。そのため、クリスタルとしてはめずらしく、シャルドネが58%と過半数を超え、ワインには熟成したシャルドネの特徴がよく出ている。酸が高いため、長い熟成期間を経てもフレッシュさは残るが、チョコレートやコーヒーといった熟成香も強い。
このように難しい年は、ヴィノテックの手法、つまり長期間の澱熟成(特にsur latteでの)による利点が活きると言う。澱熟成により、ワインに、リッチさや厚み、追加的な風味が与えられるからだ。
通常サイズとマグナムを試飲したが、当然ながら、マグナムの方が、よりフレッシュで活き活きとしていて、通常サイズのワインには、ホワイトチョコレートや微かなトリュフといった熟成のニュアンスが感じられた。
クリスタル・ロゼ 1988&1989
1988年と1989年は、ジャン・バティストによると、80年代のベストヴィンテージの2つだが、対照的なワインとなった。
1988年は冷涼で、クラシックなシャンパーニュのヴィンテージで、収穫は10月と遅め。シャルドネの年で、果実より土壌(soil)からの要素がよく表れている年だと言う。ストレートでシャープな酸が骨格を作り、ハングタイムが長かったので凝縮度も高い。クリスタル・ロゼ1988は、リコリス、スパイス、チョコレート、トリュフ、微かなローストコーヒーといった、果実以外の風味が、より感じられた。
1989年は温暖で、収穫は9月。果実味が豊かで、ピノ・ノワールが主役の年で、そのためワインは、丸みがあり、ブルゴーニュ的なワインらしさがある(winey)。特にクリスタル・ロゼは成熟した果実が目立つが、正確さやフレッシュさも失われていない。誘惑的(seductive)で、シルキーで継ぎ目のないテクスチャ。この日試飲したなかで、1989マグナムが、クリスタル・ロゼのベストだった。
クリスタル 1979 (通常サイズとマグナム)
1979年は冷涼で、収穫も遅く、10月におこなわれた。そのため、1988年のように、果実より土壌の表現が感じられるワインとなったが、1976年と並び、70年代で最良のヴィンテージという評価だ。40年を経ても、フレッシュで綺麗な酸が骨格を作り、緊張感を保っている。控えめな果実(杏やレモンピール、ゆず、ドライフルーツ)に加えて、キャラメル、トリュフ、モカ、ホワイトチョコレート、旨みなど、熟成した風味がふんだんに感じられた。個人的には、1979のマグナムが、この日のベスト・クリスタル。
(文・写真:島 悠里)
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