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ニュージーランドには、優れた日本人ワインメーカーが多く、それだけでこの国に愛着を持たずにいられない。人柄もワインもそれぞれに個性的で、ひとくくりにはできないが。岡田岳樹さんがマールボロで2010年から造るフォリウムは、UCデイヴィスで学んだ基礎とマールボロのクロ・アンリで栽培責任者を務めた経験に基づいて、独自の工夫を凝らしている。マールボロのソーヴィニヨン・ブランを考える上で発見の多いワインだ。
ソーヴィニヨン・ブランとピノ・ノワールを手がけているが、私の好みは圧倒的にソーヴィニヨン・ブランである。グリーン・ハーヴェストで未熟果を落とし、機械収穫で生じるスキンコンタクトを避けるため、手摘みする。結果的にメトキシピラジン由来の青さが希薄で、弾けるようなフレッシュ感に包まれ、なおかつ熟した果実が存在している。
それに加えて、残存二酸化炭素量も多い。グラスに注いだ瞬間に、細かなと泡がプチプチと表面に広がる。酸の焦点が合い、香りが垂直的に立ち上がり、味わいの輪郭が明確になっている。亜硫酸を減らして、フレッシュ感を保つため、発酵時のガスを意図的に残す造り手は増えている。ブルゴーニュのフーリエやルシアン・ル・モワンヌのように、赤ワインにも白ワイン並みの二酸化炭素を残す造り手も出てきた。
「フォリウム ソーヴィニヨン・ブラン・リザーヴ 2015 マグナム」(Folium Sauvignon Blanc Reserve 2015 Mg)はジャスミン、グレープフルーツ、ほのかなフェノリックスのタッチが複雑性とふくらみを与えている。なめらかなテクスチャーに重厚感が備わり、酸素にふれると、エキゾチックなマンゴのタッチ。フレッシュで、継ぎ目のないフィニッシュ。91点。
マールボロはニュージーランド最大のピノ・ノワールの産地でもある。フォリウムはグリーン・ハーヴェストを行い、除葉にも留意している。青さはないが、以前のヴィンテージより肩の力が抜けた印象を受けた。マグナムのせいもあって若々しい。pHがそもそも高いので、さらに高くなる全房発酵は行わず、除梗している。
「フォリウム ピノ・ノワール・リザーヴ 2014 マグナム」(Folium Pinot Noir Reserve 2014 Mg)はダークチェリー、シナモン、かすかに森の下草、シルキーなテクスチャー、熟したタンニンは温度が上がるとかすかに甘くなるが、酸とのバランスがとれている。心地よい長めのフィニッシュ。90点。
2011ヴィンテージからフォリウムを試飲する機会に恵まれているが、着実に洗練されて、細部の正確さが増していることを改めて確認した。英米の評論家が定期訪問しているのも当然である。
日本屈指のワインコレクターの吉川慎二さん所蔵の希少なマグナムボトルで、貴重な体験をさせていただいた。持ち込んだのは、吉川さんのホームグラウンドの焼き肉店「三宿トラジ」(東京・祐天寺)。ジューシーで、柔らかいのに噛みごたえがあるハラミやタンのオンパレード。
フレッシュで、適度な重厚感があるソーヴィニヨン・ブランと、繊細かつうまみあふれるタンの合わせには悶絶した。世界中に肉を食べさせるレストランがあるが、極上の焼肉店ほど、肉を喰らうという動物的な本能を満たしてくれる場所はないかもしれない。
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