- FREE
シャンパーニュなど瓶内二次発酵方式のスパークリングワインは、スティルワインの醸造に加えて、多くの工程が加わる。そのため、各工程での選択肢ひとつひとつ、様々な技術のハンドリングが、最終的なワインの品質やスタイルにつながる。その1つが最終工程となる澱引き(デコルジュマン)と糖分添加(ドサージュ)だ。現在では多くの場合、均質化のために、機械で同時に行われるこの作業は、シャンパーニュを考える上で大きな意味を持つ。この記事では、ドサージュについて考えてみたい。
「ドサージュ」は高い酸味とバランスを取るために糖分を追加すること。これにより、BrutやExtra Brutなどシャンパーニュのラベル上のカテゴリーが決まる。オリ引きで減るワインを補う役割もある。最終的なワインを微調整(fine-tune)するのだが、優良な生産者が求めるのは最適な調和(ハーモニー)とバランスだ。
生産者によっては、決まった数値ではなく、ワインの個性に合わせてドサージュ量を決める。毎年、量が変わることもある。メルフィ(Merfy)のシャルトーニュ・タイエの当主アレクサンドルと、NVの「Saint-Anne」のベースワインに、ドサージュ量を1グラムずつ変えて比較試飲したことがある。1グラムずつの違いは微妙だったが、6種類を大勢で試飲すると、多数が良いと一致するグラム数を見つけられた。面白いのが、グラム数が増えると、必ずしも、より甘く感じるわけではないこと。グラム数が多いほうが酸が引き立つこともあれば、多いグラム数でも調和されていると甘さを感じないことがある。
ドサージュ量の正解はひとつではない。求めるスタイル、ターゲットの消費者、すぐに飲むか熟成の可能性を求めるのかによって変わる。生産者によっては、ドサージュを決めるブラインドでの試飲に、醸造家やプロフェッショナルだけではなく、友人を誘い、消費者目線での意見を聞くこともある。
エペルネに拠点を置くダミアン・ウーゴ(Damien Hugot)は、シュイィ(Choilly)とクラマン(Cramant)からブラン・ド・ブランを造る際に、1リットルあたり約6グラムの「Brut」と約3.5グラムの「Extra Brut」の2種類のキュヴェを造る。2つをアメリカ人のシャンパーニュ・バイヤーの友人と一緒に試飲をした。彼は「どちらも良いが、一般向けにはBrut、色々な種類のシャンパーニュに飲み慣れた玄人にはExtra Brutが好まれると思う。個人的には、より土地の個性が感じられるExtra Brutが面白い。」という意見だった。
また、澱での熟成期間の長い、いわゆる「late disgorgement」キュヴェの場合は、長い熟成により酸味が丸くなり、酵母の自己溶解から生まれる複雑なアロマを正確に表現するため、ドザージュの量は一般的に少ない。
ドザージュにいま注目する理由は、ドザージュ量の減少や、Extra Brut(1リットルあたり6グラム以下)、ノンドゼの増加という現象が見られるからだ。モエ&シャンドンは2011年、Brut Imperialのドサージュ量を12グラムから9グラムに減らした。現在では、大手メゾンの生産量の大部分を占めるNVブリュットは9グラム前後が主流だ。背景にはまず、食のライト&ヘルシー化に伴う辛口嗜好がある。ブドウの糖度も、気候変動、病害対策や樹冠管理、クローンの改良などによって上がっている。樽での醸造や澱熟成期間の長期化など、シャンパーニュ造りでの変化も影響を与えているだろう。生産者が、より正確なテロワール表現をしたいという流れもある。
ただ、ノンドゼについては意見が分かれるところだ。ジャック・セロスのアンセルム・セロスは極少量でもすべてのキュヴェにドザージュをする。味わいとテクスチャーのハーモニーを求めるためだ。熟成能力については、「糖分に守られないノンドゼは酸化が進んで、きれいに熟成しない」と言う生産者の意見も聞く。全体の生産量でみるとまだ小さい割合であり、またノンドゼの流行は最近の現象であるが、結論を出すにはまだ時間がかかりそうだ。
ドサージュに使われる「門出のリキュール」についても、生産者により考え方は様々である。門出のリキュールの全体に占める割合は約1%程度と小さいが、最終的なワインのスタイルや品質を調整する機会であり、少量でもインパクトを与える。大手メゾンの多くは、門出のリキュールのレシピをあまり明かさないが、オリ引きするものと同じワインにショ糖(cane sugar)やテンサイ糖(beet sugar)を混ぜたものを使う場合が多い。濃縮したブドウ果汁であるMCR(mout concentre et rectifie)も選択肢の一つであり、小規模なグローワーに好まれている。コストや、そのまま使える利便性、また味わいについても「ニュートラル」であると言う生産者もいるが、逆に、シロップ的な性格が強く、テクスチャを変える点や南フランスなど安価なワインを原料にする点に違和感を持つ造り手もいる。
細部にこだわり、コストをかけて特別なリキュールを使う生産者もいる。オーブのドラピエでは、10年以上オーク樽で熟成させたリザーヴ・ワインをドサージュに使用する。少量であっても、ワインに複雑味やまろやかな舌触りを追加すると考えるからだ。当主のミシェル・ドラピエと、「Carte d’Or」のベースワインに、異なる種類のリキュール(MCR、オーガニックのショ糖、シャンパーニュ地方のテンサイ糖、自家製リキュール8年熟成、自家製リキュール35年熟成)を追加したものを、ブラインドで比較試飲したことがある。結果としては、自家製リキュールでドサージュしたものの方が明らかに複雑性と味わいの深みが感じられた。
ルイ・ロデレールは、NVのブリュット・プルミエを含むすべてのキュヴェに、プレスティージュ・キュヴェ「クリスタル」のリザーヴ・ワインを加える。クリスタルのヴァン・クレールの一部は、地下カーヴの大樽(緩やかだが瓶より熟成が早く進む)で熟成させている。これには、将来のクリスタルの熟成過程を予測する意図もあるが、ショ糖を加えて門出のリキュールとしても使用する。これにより、どのキュヴェにも「クリスタル」のエッセンスが入れられるとともに、複雑味や熟成した風味が加えられる。
モンターニュ・ド・ランス地区のヴリニ(Vrigny)のビオディナミ生産者、ルラージュ・プジョー(Lelarge Pugeot)の「ハニー・ハーモニー」は、ドサージュに自家製蜂蜜を使っている。Extra Brutでドサージュ量が3グラムと低いので、与える影響は小さいが、アロマにほのかに蜂蜜の甘やかさが感じられ、余韻にもまろやかなテクスチャーが加わっている。
ドザージュに注目することで、シャンパーニュの楽しみ方は大きく広がる。
「ドサージュ」は高い酸味とバランスを取るために糖分を追加すること。これにより、BrutやExtra Brutなどシャンパーニュのラベル上のカテゴリーが決まる。オリ引きで減るワインを補う役割もある。最終的なワインを微調整(fine-tune)するのだが、優良な生産者が求めるのは最適な調和(ハーモニー)とバランスだ。
生産者によっては、決まった数値ではなく、ワインの個性に合わせてドサージュ量を決める。毎年、量が変わることもある。メルフィ(Merfy)のシャルトーニュ・タイエの当主アレクサンドルと、NVの「Saint-Anne」のベースワインに、ドサージュ量を1グラムずつ変えて比較試飲したことがある。1グラムずつの違いは微妙だったが、6種類を大勢で試飲すると、多数が良いと一致するグラム数を見つけられた。面白いのが、グラム数が増えると、必ずしも、より甘く感じるわけではないこと。グラム数が多いほうが酸が引き立つこともあれば、多いグラム数でも調和されていると甘さを感じないことがある。
ドサージュ量の正解はひとつではない。求めるスタイル、ターゲットの消費者、すぐに飲むか熟成の可能性を求めるのかによって変わる。生産者によっては、ドサージュを決めるブラインドでの試飲に、醸造家やプロフェッショナルだけではなく、友人を誘い、消費者目線での意見を聞くこともある。
エペルネに拠点を置くダミアン・ウーゴ(Damien Hugot)は、シュイィ(Choilly)とクラマン(Cramant)からブラン・ド・ブランを造る際に、1リットルあたり約6グラムの「Brut」と約3.5グラムの「Extra Brut」の2種類のキュヴェを造る。2つをアメリカ人のシャンパーニュ・バイヤーの友人と一緒に試飲をした。彼は「どちらも良いが、一般向けにはBrut、色々な種類のシャンパーニュに飲み慣れた玄人にはExtra Brutが好まれると思う。個人的には、より土地の個性が感じられるExtra Brutが面白い。」という意見だった。
また、澱での熟成期間の長い、いわゆる「late disgorgement」キュヴェの場合は、長い熟成により酸味が丸くなり、酵母の自己溶解から生まれる複雑なアロマを正確に表現するため、ドザージュの量は一般的に少ない。
ドザージュにいま注目する理由は、ドザージュ量の減少や、Extra Brut(1リットルあたり6グラム以下)、ノンドゼの増加という現象が見られるからだ。モエ&シャンドンは2011年、Brut Imperialのドサージュ量を12グラムから9グラムに減らした。現在では、大手メゾンの生産量の大部分を占めるNVブリュットは9グラム前後が主流だ。背景にはまず、食のライト&ヘルシー化に伴う辛口嗜好がある。ブドウの糖度も、気候変動、病害対策や樹冠管理、クローンの改良などによって上がっている。樽での醸造や澱熟成期間の長期化など、シャンパーニュ造りでの変化も影響を与えているだろう。生産者が、より正確なテロワール表現をしたいという流れもある。
ただ、ノンドゼについては意見が分かれるところだ。ジャック・セロスのアンセルム・セロスは極少量でもすべてのキュヴェにドザージュをする。味わいとテクスチャーのハーモニーを求めるためだ。熟成能力については、「糖分に守られないノンドゼは酸化が進んで、きれいに熟成しない」と言う生産者の意見も聞く。全体の生産量でみるとまだ小さい割合であり、またノンドゼの流行は最近の現象であるが、結論を出すにはまだ時間がかかりそうだ。
ドサージュに使われる「門出のリキュール」についても、生産者により考え方は様々である。門出のリキュールの全体に占める割合は約1%程度と小さいが、最終的なワインのスタイルや品質を調整する機会であり、少量でもインパクトを与える。大手メゾンの多くは、門出のリキュールのレシピをあまり明かさないが、オリ引きするものと同じワインにショ糖(cane sugar)やテンサイ糖(beet sugar)を混ぜたものを使う場合が多い。濃縮したブドウ果汁であるMCR(mout concentre et rectifie)も選択肢の一つであり、小規模なグローワーに好まれている。コストや、そのまま使える利便性、また味わいについても「ニュートラル」であると言う生産者もいるが、逆に、シロップ的な性格が強く、テクスチャを変える点や南フランスなど安価なワインを原料にする点に違和感を持つ造り手もいる。
細部にこだわり、コストをかけて特別なリキュールを使う生産者もいる。オーブのドラピエでは、10年以上オーク樽で熟成させたリザーヴ・ワインをドサージュに使用する。少量であっても、ワインに複雑味やまろやかな舌触りを追加すると考えるからだ。当主のミシェル・ドラピエと、「Carte d’Or」のベースワインに、異なる種類のリキュール(MCR、オーガニックのショ糖、シャンパーニュ地方のテンサイ糖、自家製リキュール8年熟成、自家製リキュール35年熟成)を追加したものを、ブラインドで比較試飲したことがある。結果としては、自家製リキュールでドサージュしたものの方が明らかに複雑性と味わいの深みが感じられた。
ルイ・ロデレールは、NVのブリュット・プルミエを含むすべてのキュヴェに、プレスティージュ・キュヴェ「クリスタル」のリザーヴ・ワインを加える。クリスタルのヴァン・クレールの一部は、地下カーヴの大樽(緩やかだが瓶より熟成が早く進む)で熟成させている。これには、将来のクリスタルの熟成過程を予測する意図もあるが、ショ糖を加えて門出のリキュールとしても使用する。これにより、どのキュヴェにも「クリスタル」のエッセンスが入れられるとともに、複雑味や熟成した風味が加えられる。
モンターニュ・ド・ランス地区のヴリニ(Vrigny)のビオディナミ生産者、ルラージュ・プジョー(Lelarge Pugeot)の「ハニー・ハーモニー」は、ドサージュに自家製蜂蜜を使っている。Extra Brutでドサージュ量が3グラムと低いので、与える影響は小さいが、アロマにほのかに蜂蜜の甘やかさが感じられ、余韻にもまろやかなテクスチャーが加わっている。
ドザージュに注目することで、シャンパーニュの楽しみ方は大きく広がる。
購読申込のご案内はこちら
会員登録(有料)されると会員様だけの記事が購読ができます。
世界の旬なワイン情報が集まっているので情報収集の時間も短縮できます!