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ヴィノテーク2017年8月号掲載
ロバート・パーカーへのアンチテーゼとなったジョン・ボネの著書「ニュー・カリフォルニア・ワイン」。アメリカのマスター・ソムリエたちに先日、たずねた。本に登場するワインは人気があるのか?
答えは予想通りだった。
「人気は出ているが、市場の中心はいまだにパーカー好みのワインだ。ただ、パーカーポイントではなく、SNSの口コミに頼る若者は増えている。パーカー的ではないワインを探すのが我々の仕事だ」
ジョンの本が示したのは、主流と異なるオルタナティヴなワインが広がっている現象だった。その動きはスパークリングワインにもある。カリフォルニアのスパークリングと言えば、ロデレール・エステート、ドメーヌ・カーネロス、マム・ナパなど、シャンパーニュのメゾンが始めた生産者と、ナパヴァレーのシュラムスバーグなど地元発のワイナリーに分かれていたが、そこにグローワー(レコルタン・マニピュラン)的なワイナリーが登場している。
「グローワー」的というのは、厳密には自社畑だけと限らないからだ。ポイントは、単一畑、単一年、生産者によっては単一品種という点にある。ジャック・セロスとその一派が推進したテロワールの表現にフォーカスしている。ボネが編集担当だった時代のサンフランシスコ・クロニクルやニューヨーク・タイムズのエリック・アシモフが、数年前から注目してきたが、日本でも手に入るようになってきた。サンタ・リタ・ヒルズにベースを置くサンディの「スパークリング ロゼ」や、ソノマのベッドロックの「アンダー・ザ・ワイヤー」などだが、真打ちの「ウルトラマリン」を造るマイケル・クルーズが初来日した。多くの”グローワーズ”的なスパークリングを飲んだ経験から言って、ウルトラマリンの完成度は群を抜く。
ブラン・ド・ブランとブラン・ド・ノワールを少量生産する。果実味によりすぎず、抑制されて、フレッシュで、ミネラル感をきれいに表現している。ブラン・ド・ブランはフォーカスのあった塩っぽい味わい。ブラン・ド・ノワールはアプリコット、カモミーユ、まろやかなテクスチャーを備える。いずれも、ブラインドではシャンパーニュと区別がつかない。クルーズはサンフランシスコ・クロニクルの2016年のワインメーカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。そのため、ベイエリアで注目され、クロニクルが「どこのレストランで飲めるか」という記事をウェブに掲載した。
クルーズのキャリアは、ちょっと変わっている。UCバークレイで生化学を修めた後、サター・ホームのラボで働き、スターモントのワインメーカーも務めた。大手のワイン造りに飽き足りず、2008年から実験的にウルトラマリンを造り始め、2013年、ソノマ・ペタルマにクルーズ・ワインを興した。デビューヴィンテージは2010。ソノマ・コーストのチャールズ・ハインツ・ヴィンヤードのブドウから造る。ハインツはリトライ、ウィリアムズ・セリエム、フラワーズなどにシャルドネを供給する。オクシデンタルに近い。8月でもジャンパーが欠かせないほど寒い産地だ。
クルーズもまた、サンディやベッドロックのワインメーカーと同じく、セロスやプレヴォーのファン。カリフォルニアの原点回帰という思想を持っている。
「近年のカリフォルニアは、フランスを真似し始めて、高得点をとるためのワイン造りに向かった。伝統的な技術で、カリフォルニアの日照や乾燥などのテロワールを表現したいと思った。ほかの人がやっていないスパークリングが面白いと思った」
瓶内二次発酵方式のスパークリング造りの知識も経験もなかったから、最初の2年間は試行錯誤した。動瓶用のパレットを自作した。熟成中に王冠が飛んだりもした。2009年に初めてシャンパーニュを訪れ、アンボネイのマリー・ノエル・レドリュから技術を学んだ。彼女を尊敬している。野生酵母で発酵させ、亜硫酸も抑えている。ヴィルマールのクール・ド・キュヴェを手本に、キュヴェの中心となる一部しか使わない。約3年間の瓶内熟成の後に、手でデゴルジュする。ドザージュはエクストラ・ブリュットに相当するピュアな味わいだ。
クルーズはウルトラマリンで有名になったが、意欲的なスティルワインやペットナットも造っている。とりわけ、1970年代にナパ・ガメイと呼ばれていたヴァルディギエは面白い。ロキオリのヴァルディギエがピノ・ノワールのように熟成しているのに興味を持って、絶滅しかけている品種を探してきた。J・ロアーやブロック・セラーズもこの品種を手掛けている。自然な造りで、土着品種を復活させる点で、ロワールのティエリー・ピュズラら自然派の生産者に通じるところがある。クルーズもピュズラは好きだが「自然派ではなく、アルティザンと呼んでほしい。1980年代のカリフォルニアのような、アルコリックでもなく、オーキーでもないワインを再現したいんだ」と。
クルーズのワインは、パーカー好みのスタイルではないが、温故知新の生産者が評価されているところが、カリフォルニアのワイン産業の成熟と進化を物語っている。パリテイスティングから40年。歴史を重ねれば多様化するのはどの産地も同じだ。
肩書は当時のまま。
ロバート・パーカーへのアンチテーゼとなったジョン・ボネの著書「ニュー・カリフォルニア・ワイン」。アメリカのマスター・ソムリエたちに先日、たずねた。本に登場するワインは人気があるのか?
答えは予想通りだった。
「人気は出ているが、市場の中心はいまだにパーカー好みのワインだ。ただ、パーカーポイントではなく、SNSの口コミに頼る若者は増えている。パーカー的ではないワインを探すのが我々の仕事だ」
ジョンの本が示したのは、主流と異なるオルタナティヴなワインが広がっている現象だった。その動きはスパークリングワインにもある。カリフォルニアのスパークリングと言えば、ロデレール・エステート、ドメーヌ・カーネロス、マム・ナパなど、シャンパーニュのメゾンが始めた生産者と、ナパヴァレーのシュラムスバーグなど地元発のワイナリーに分かれていたが、そこにグローワー(レコルタン・マニピュラン)的なワイナリーが登場している。
「グローワー」的というのは、厳密には自社畑だけと限らないからだ。ポイントは、単一畑、単一年、生産者によっては単一品種という点にある。ジャック・セロスとその一派が推進したテロワールの表現にフォーカスしている。ボネが編集担当だった時代のサンフランシスコ・クロニクルやニューヨーク・タイムズのエリック・アシモフが、数年前から注目してきたが、日本でも手に入るようになってきた。サンタ・リタ・ヒルズにベースを置くサンディの「スパークリング ロゼ」や、ソノマのベッドロックの「アンダー・ザ・ワイヤー」などだが、真打ちの「ウルトラマリン」を造るマイケル・クルーズが初来日した。多くの”グローワーズ”的なスパークリングを飲んだ経験から言って、ウルトラマリンの完成度は群を抜く。
ブラン・ド・ブランとブラン・ド・ノワールを少量生産する。果実味によりすぎず、抑制されて、フレッシュで、ミネラル感をきれいに表現している。ブラン・ド・ブランはフォーカスのあった塩っぽい味わい。ブラン・ド・ノワールはアプリコット、カモミーユ、まろやかなテクスチャーを備える。いずれも、ブラインドではシャンパーニュと区別がつかない。クルーズはサンフランシスコ・クロニクルの2016年のワインメーカー・オブ・ザ・イヤーに選ばれた。そのため、ベイエリアで注目され、クロニクルが「どこのレストランで飲めるか」という記事をウェブに掲載した。
クルーズのキャリアは、ちょっと変わっている。UCバークレイで生化学を修めた後、サター・ホームのラボで働き、スターモントのワインメーカーも務めた。大手のワイン造りに飽き足りず、2008年から実験的にウルトラマリンを造り始め、2013年、ソノマ・ペタルマにクルーズ・ワインを興した。デビューヴィンテージは2010。ソノマ・コーストのチャールズ・ハインツ・ヴィンヤードのブドウから造る。ハインツはリトライ、ウィリアムズ・セリエム、フラワーズなどにシャルドネを供給する。オクシデンタルに近い。8月でもジャンパーが欠かせないほど寒い産地だ。
クルーズもまた、サンディやベッドロックのワインメーカーと同じく、セロスやプレヴォーのファン。カリフォルニアの原点回帰という思想を持っている。
「近年のカリフォルニアは、フランスを真似し始めて、高得点をとるためのワイン造りに向かった。伝統的な技術で、カリフォルニアの日照や乾燥などのテロワールを表現したいと思った。ほかの人がやっていないスパークリングが面白いと思った」
瓶内二次発酵方式のスパークリング造りの知識も経験もなかったから、最初の2年間は試行錯誤した。動瓶用のパレットを自作した。熟成中に王冠が飛んだりもした。2009年に初めてシャンパーニュを訪れ、アンボネイのマリー・ノエル・レドリュから技術を学んだ。彼女を尊敬している。野生酵母で発酵させ、亜硫酸も抑えている。ヴィルマールのクール・ド・キュヴェを手本に、キュヴェの中心となる一部しか使わない。約3年間の瓶内熟成の後に、手でデゴルジュする。ドザージュはエクストラ・ブリュットに相当するピュアな味わいだ。
クルーズはウルトラマリンで有名になったが、意欲的なスティルワインやペットナットも造っている。とりわけ、1970年代にナパ・ガメイと呼ばれていたヴァルディギエは面白い。ロキオリのヴァルディギエがピノ・ノワールのように熟成しているのに興味を持って、絶滅しかけている品種を探してきた。J・ロアーやブロック・セラーズもこの品種を手掛けている。自然な造りで、土着品種を復活させる点で、ロワールのティエリー・ピュズラら自然派の生産者に通じるところがある。クルーズもピュズラは好きだが「自然派ではなく、アルティザンと呼んでほしい。1980年代のカリフォルニアのような、アルコリックでもなく、オーキーでもないワインを再現したいんだ」と。
クルーズのワインは、パーカー好みのスタイルではないが、温故知新の生産者が評価されているところが、カリフォルニアのワイン産業の成熟と進化を物語っている。パリテイスティングから40年。歴史を重ねれば多様化するのはどの産地も同じだ。
肩書は当時のまま。
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