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シャスラ品種から生まれるワインに、それほど感動したことはなかったが、腰を抜かす味わいのものに出会った。鮮烈なアロマ、強い塩味、長く長く続く余韻。前日に開けた、コシュ・デュリのムルソーが霞むように、そのワインは光彩を放っていた。ヴァイングート・ツィアライゼン(Ziereisen)のヤスピス・グートエーデル、2014年。ドイツでも最南端のバーデンに位置するワインである。
このワイナリーの噂を聞いたのは、その赤ワインについてである。最近ドイツで、ものすごいピノ・ノワールを生む生産者がいるという事は聞き知っていたし、実際に幾つかの素晴らしいワインを飲む機会はあった。そうしたドイツのピノ・ノワールへの探求が、自然とこの生産者へとつながった。バーデン地方でも最南部の、スイス国境に近い、マルクグレーフラーラント地方のエフリンゲン・キルヒェンという小さな村にこのワイナリーはある。フランスのミュルーズから車で1時間の距離である。
この村の入り口には、絶壁の崖が広がっていて、石灰岩の石切り場が目につく。ブルゴーニュのコルゴロワンやコンブランシヤンの石切り場を思い起こさせると思えば、やはりここはバーデンでも珍しいジュラ紀の石灰質土壌なのである。さらにこの地方の年間降雨量は748mm、年間平均気温は11.4度といずれもブルゴーニュに近く、だからこそブルゴーニュ品種の名産地としての期待感は高まる。
オーナーのハンスペーターは弾けた爆竹のような印象の人。とにかくよく喋る、喋る。気真面目なドイツ人的性格が隠れるほど陽気で、自身のワイン愛が溢れ出している。父親の代から農園を始め、アスパラガス、ジャガイモ、ビーツ、リュバーブ、プラム、リンゴ、葡萄などを売っていた。彼自身も違う職業についていたが、ワイン好きが昂じて、1991年にワイナリーを起こした。
ジュラ紀の石灰とはいえ、必ずしもブルゴーニュ品種に似るかというとそうはならない。彼の作るシャルドネの白、ハート2014年は、洋梨のコンポート、微かなヴァイオレットのヒントはあるものの樽香が支配的で、華やかだが、クドく、重い。新樽10%にしては、マッチョすぎる。グラウアー・ブルグンダー(ピノ・グリ)は、焼きリンゴ、コンポートのヒントもあるが、同じ石灰質土壌で育ったアルザスのトロトロまで濃密で噛めそうな味わいのものに比べると大人しく感じる。
シュペート・ブルグンダー、つまりピノ・ノワールは、数種類の区画別ワインからなるが、すべて硬いスタイル。ブドウの濃密度が突出しているがゆえに、還元的。若いうちは飲めない、デキャンタージュしても開かないようなタイプである。フランケンのアスマン・ブットネライ社の225l樽を使用し、樽熟期間は22ヶ月で、「ブルゴーニュとは違うスタイルを模索している」と彼は言う。チュッペンは、閉じてはいてもこじんまりとした赤果実の香り、タルラインは濃い果実とペッパリーな印象、シューレンはヴォルネイのような柔らかいテイスト、ライン河に接するリニは最も強い味わい。
しかし、このワイナリーで最も注目すべきは、グートエーデルについてである。フランスにおけるシャスラの別名で、スイスのヴァレにおいてはフォンダンと呼ばれる品種。古代エジプトの史料にも出て来た世界で最も古い品種の一つとされ、バーデン辺境伯カール・フリードリヒが、1783年にスイスのヴィヴィセー村から取り寄せ、この地に根付くことになった。だからマルクグレーフラーラントではシュペート・ブルグンダーよりも多く植えられ、全体の生産量の1/3を占める。
フランスでは、まるくミネラル感のあるこじんまりとした品種というイメージなのだが、ここではその趣が違う。深遠さ、濃厚さが強調され、噛めるような塩味、塩っぽさがある。ミュスカデやリアス・バイシャスのような海岸のワインのような柔らかい牡蠣などの貝類に合う様な酸味の高さはないものの、ツブ貝やクラム貝のような硬い貝類に合わせられる膨らみの味がある。そして冒頭にも書いたが、コシュ・デュリのワインに近いミネラル感がある。
そのことをハンスペーターに話すと、彼は破顔して、「そうだろう、そうだろう、俺が一番好きな造り手なんだ」と言った。中樽で熟成されたシャルドネ以外の品種が、よりムルソーに近いというのは不思議なことだが、土壌と気候の相性がより良いとしか思えない。実際にブラインドではコート・ド・ボーヌの白とよく間違えられるという。
どんな品種にも、各々の個性が最大限に発揮できる場所が存在する。
あたかもリースリング品種の影に隠れて目立たなかったシルヴァーナー品種が、アルザスのゾッツェンベルグやフランケンのマインドライエック地方で主役に躍り出るように。もしくは酸っぱすぎて南フランスでは過小評価されているユニ・ブラン品種が、コニャックやアルマニャックでは最高級品種と見なされるように。この地におけるシャスラは、ツィアライゼンという生産者によってバーデンは疎か、ドイツを代表する品種と言える可能性を見せてくれた。
このワイナリーの噂を聞いたのは、その赤ワインについてである。最近ドイツで、ものすごいピノ・ノワールを生む生産者がいるという事は聞き知っていたし、実際に幾つかの素晴らしいワインを飲む機会はあった。そうしたドイツのピノ・ノワールへの探求が、自然とこの生産者へとつながった。バーデン地方でも最南部の、スイス国境に近い、マルクグレーフラーラント地方のエフリンゲン・キルヒェンという小さな村にこのワイナリーはある。フランスのミュルーズから車で1時間の距離である。
この村の入り口には、絶壁の崖が広がっていて、石灰岩の石切り場が目につく。ブルゴーニュのコルゴロワンやコンブランシヤンの石切り場を思い起こさせると思えば、やはりここはバーデンでも珍しいジュラ紀の石灰質土壌なのである。さらにこの地方の年間降雨量は748mm、年間平均気温は11.4度といずれもブルゴーニュに近く、だからこそブルゴーニュ品種の名産地としての期待感は高まる。
オーナーのハンスペーターは弾けた爆竹のような印象の人。とにかくよく喋る、喋る。気真面目なドイツ人的性格が隠れるほど陽気で、自身のワイン愛が溢れ出している。父親の代から農園を始め、アスパラガス、ジャガイモ、ビーツ、リュバーブ、プラム、リンゴ、葡萄などを売っていた。彼自身も違う職業についていたが、ワイン好きが昂じて、1991年にワイナリーを起こした。
ジュラ紀の石灰とはいえ、必ずしもブルゴーニュ品種に似るかというとそうはならない。彼の作るシャルドネの白、ハート2014年は、洋梨のコンポート、微かなヴァイオレットのヒントはあるものの樽香が支配的で、華やかだが、クドく、重い。新樽10%にしては、マッチョすぎる。グラウアー・ブルグンダー(ピノ・グリ)は、焼きリンゴ、コンポートのヒントもあるが、同じ石灰質土壌で育ったアルザスのトロトロまで濃密で噛めそうな味わいのものに比べると大人しく感じる。
シュペート・ブルグンダー、つまりピノ・ノワールは、数種類の区画別ワインからなるが、すべて硬いスタイル。ブドウの濃密度が突出しているがゆえに、還元的。若いうちは飲めない、デキャンタージュしても開かないようなタイプである。フランケンのアスマン・ブットネライ社の225l樽を使用し、樽熟期間は22ヶ月で、「ブルゴーニュとは違うスタイルを模索している」と彼は言う。チュッペンは、閉じてはいてもこじんまりとした赤果実の香り、タルラインは濃い果実とペッパリーな印象、シューレンはヴォルネイのような柔らかいテイスト、ライン河に接するリニは最も強い味わい。
しかし、このワイナリーで最も注目すべきは、グートエーデルについてである。フランスにおけるシャスラの別名で、スイスのヴァレにおいてはフォンダンと呼ばれる品種。古代エジプトの史料にも出て来た世界で最も古い品種の一つとされ、バーデン辺境伯カール・フリードリヒが、1783年にスイスのヴィヴィセー村から取り寄せ、この地に根付くことになった。だからマルクグレーフラーラントではシュペート・ブルグンダーよりも多く植えられ、全体の生産量の1/3を占める。
フランスでは、まるくミネラル感のあるこじんまりとした品種というイメージなのだが、ここではその趣が違う。深遠さ、濃厚さが強調され、噛めるような塩味、塩っぽさがある。ミュスカデやリアス・バイシャスのような海岸のワインのような柔らかい牡蠣などの貝類に合う様な酸味の高さはないものの、ツブ貝やクラム貝のような硬い貝類に合わせられる膨らみの味がある。そして冒頭にも書いたが、コシュ・デュリのワインに近いミネラル感がある。
そのことをハンスペーターに話すと、彼は破顔して、「そうだろう、そうだろう、俺が一番好きな造り手なんだ」と言った。中樽で熟成されたシャルドネ以外の品種が、よりムルソーに近いというのは不思議なことだが、土壌と気候の相性がより良いとしか思えない。実際にブラインドではコート・ド・ボーヌの白とよく間違えられるという。
どんな品種にも、各々の個性が最大限に発揮できる場所が存在する。
あたかもリースリング品種の影に隠れて目立たなかったシルヴァーナー品種が、アルザスのゾッツェンベルグやフランケンのマインドライエック地方で主役に躍り出るように。もしくは酸っぱすぎて南フランスでは過小評価されているユニ・ブラン品種が、コニャックやアルマニャックでは最高級品種と見なされるように。この地におけるシャスラは、ツィアライゼンという生産者によってバーデンは疎か、ドイツを代表する品種と言える可能性を見せてくれた。
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