世界の最新ワインニュースと試飲レポート

MENU

  1. トップ
  2. 記事一覧
  3. カーミット・リンチ「最高のワインを買い付ける」出版

カーミット・リンチ「最高のワインを買い付ける」出版

  • FREE
 米国屈指のワイン商カーミット・リンチがフランスの伝説的醸造家を訪ねる旅を描いた「最高のワインを買い付ける」が、出版された。

 リンチはカリフォルニア州バークリーで、ワインショップを営む輸入小売商。1970年代からフランス各地の優れた生産者を発掘し、米国に紹介してきた。評論家ロバート・パーカーもその功績を称えている。元はヒッピーで、音楽家としてCDも発表している。

 「ロマネ・コンティ」などの著書があるリチャード・オルニーが序文で語るように、本書は従来のワイン本とは全く違う。啓蒙的な解説書とも、表面的なエッセイとも違う。リンチはワイン商である前に、ユニークな人間ウォッチャーであり、軽妙な文章をつづるライターでもある。

 登場する生産者は、ブルゴーニュの神様アンリ・ジャイエ、シャブリの頂点フランソワ・ラヴノー、エルミタージュのジェラール・シャーヴ、ボージョレのジュール・ショーヴェら、まさに伝説と呼ぶにふさわしい顔ぶれ。80年代にリンチが彼らからワインを買い付ける過程から、ワインの産業化という変質が浮かび上がる。それを説教くさくならず、シニカルに、でも熱い魂を秘めたままつづっている。

 ワイン愛好家は、教科書的な解説書を大量に読むよりも、ろ過のもたらすリスク、樽熟成の大切さ、ネゴシアンの潜在的な問題、ヴィンテージの意味合いなどを、本書から吸収できるだろう。ワインを知っていれば、その面白さは何倍にもふくらむ。初心者ならワイン産地を旅したくなるに違いない。原書の出版は1988年だが、その後の近代化から自然なワイン造りへの回帰を経た今、著者のメッセージの先進性と重大性がかえって浮き彫りになっている。

 そんな難しいことがわからなくても、本書は読むだけで楽しい。70、80年代の造り手たちは人間的な魅力にあふれている。物怖じせずに、そのサークルに踏み込んでいくリンチもまた愛すべき個性の持ち主だ。ルポルタージュとエッセイの中間を行く破天荒な魅力の読み物だ。

 翻訳は、ワイン書の訳者としては日本で最高のチーム立花峰夫・洋太兄弟。口語のニュアンスを巧みにちりばめながら、小説のように読みやすい。知識不足や誤訳だらけの多くのワイン書とは格段に違う仕上がりで、ページをめくる手がとまらない。

 白水社。2730円。

購読申込のご案内はこちら

会員登録(有料)されると会員様だけの記事が購読ができます。
世界の旬なワイン情報が集まっているので情報収集の時間も短縮できます!

Enjoy Wine Report!! 詳しくはこちら

TOP