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歴史を体感する垂直試飲、塩昆布とも調和するシャトー・ディケムの包容力

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 何度訪れても、シャトー・ディケムの丘に立つと、深い感慨を覚える。そよ風に吹かれながら、360度開かれたソーテルヌ・バルサックの景色を眺める。足元の畑のブドウが霧に包まれて貴腐菌をつける様子を思い浮かべながら、16世紀から続く歴史に思いをはせる。そのたびにテロワールは自然と造り手と大地が造りあげる壮大なドラマであることを思い出す。

 

 CEOのロレンツォ・パスクィーニとランチをとりながら、4つのワインで歴史を振り返った。  3月にリリースされたイケムの2023年をソーテルヌの風景を眺めながら再び試飲する。2021年、2022年に連なる三部作を締めくくるヴィンテージだ。2024年も樽に入っていたから、さらに続くかもしれない。

 

 「シャトー・ディケム 2023」(Chateau d'Yquem 2023)は高い凝縮度と生き生きしたフレッシュ感が調和して、永遠に飲み続けたくなるバランスの良さを形成している。砂糖漬けのマンゴ、ヴェルベッティなテクスチャー、彫刻のような彫りの深さがあり凝縮しているが、重厚感に支配されていない。このフレッシュ感は高い酸からくるのではない。pHは3.85で酸度は5.63g/Lだ。塩気、心地よいフェノール、うまみが合わさって生き生きした感触を形作っている。2023年はフィネスの2021年、パワーの2022に続いて、2つの年の良さを併せ持つことを改めて確認した。セミヨン70%、ソーヴィニヨン・ブラン30%。残糖は153g/L。99点。

 

 続いて、辛口の「Y de Yquem」。ボトリティス菌が付きながら潜在アルコール度がイケムの生産に届かないブドウから造られる。2022年は暑くて乾燥し、これまでで最も早い8月9日に収穫が始まった。

 

 「シャトー・ディケム Y de イケム 2022」(Chateau d'Yquem Y de Yquem 2022)は黄色の花、リンゴ、白桃、グレープフルーツの皮、フェンネル、生き生きとしていて、やや強めの酸味、バランスが優れている。カキ殻、アーモンド、程よい骨格がありほのかな甘み。セミヨンとソーヴィニヨン・ブラン各50%。92点。

 

 「シャトー・ディケム 2006」(Chateau d'Yquem 2006)は収穫期に雨が多かったが、保水力のある粘土土壌のブドウを生かした軽量級のヴィンテージ。。ドライマンダリン、砂糖漬けのオレンジの皮、ローストしたアーモンド、活気にあふれ、ジューシーで、奥深い味わい。さわやかな酸味、エレガントで軽快。繊細な余韻が続く。残糖は122g/L。95点。

 

イケムは造り手や時空を超える存在

地平を切り開くロレンツォ・パスクィーニ

 

 「シャトー・ディケム 1996」(Chateau d'Yquem 1996)は前当主アレクサンドル・ド・リュル・サリュース伯爵の最後のヴィンテージ。希少な存在だ。ドライマーマレード、オレンジコンフィ、サフラン、タバコ、控えめながら、純粋で引き締まっている。ち密なテクスチャー、フレッシュ感とほろ苦み、塩味が一体となったフィニッシュが長く続く。それほど評価されていないヴィンテージだが、イケムのテロワールのポテンシャルを物語っている。94点。

 

 ド・リュル・サリュース伯爵は1999年、買収したLVMHの総帥ベルナール・アルノーと会談した際、レセプションのデザートで伝説的なイケム1899を供した。伯爵は「1世紀前のイケムを出したのは理由があります。イケムは我々が生まれるはるか前から存在し、はるかに長く行き続ける。2人を超える何かだということを伝えたかったのです」と後年に語っていた。

 

 この日、最新のイケムと30年前のイケムを合わせて飲んで、伯爵の話を思い出した。オーナーが変わり、気候が変わろうともイケムはイケムであり続ける。歴史を作ってきた城で、実際にそれを体感できたのがこの日の最大の収穫だった。

 

 パスクィーニはイタリア生まれ。ピサ大学でブドウ栽培と醸造学を学んで、ロバート・モンダヴィ、シャトー・パルメなどで働いた。ピエール・リュルトンが2015年に、26歳の彼をアルゼンチンのシュヴァル・デ・アンデスの醸造責任者に起用した。その後、シャトー・ジスクールで働き、トスカーナのカイアロッサの経営にも携わった。パンデミックの最中の2020年にリュルトンからエステート・マネジャーとしてシャトー・ディケムに招聘された。

 

 昨年7月、36歳の若さでピエール・リュルトンの後任のマネージング・ディレクターに就任した。豊富なバックグラウンドを生かして伝説的なシャトーに新風を吹き込んでいる。亜硫酸は300mg/Lから200mg/Lに減らした。20年前の半分の量。アロマの輝きが変わったという。  日照の強さからブドウの葉と房を守るため、粘土を散布している。2022年に有機認証を取得した。畑の耕起を減らして、電動トラクターで二酸化炭素排出量を削減するなど持続可能性にも注力している。

 

 日本の食や文化のファンでもある。長い歴史に基づく日本人の職人気質とイケムの伝説的なワイン造りに共通点を見い出している。大トロ、神戸牛のステーキなど日本料理のうまみや塩気とイケムのペアリングに可能性があることを強調する。

 

 ランチの席では、ワインレポートのツアー参加者が土産に持参した塩昆布に合わせるという挑戦をした。すっぽん料理の名料亭「花錦戸」がすっぽんの出汁で炊いた昆布を松の葉のように細く刻んだ逸品。塩や山椒をまぶしており、うまみ、塩気、刺激的なスパイスが一体となっている。驚くほどイケムと調和した。ロレンツォも相性の良さに驚いていた。

 

 歴史を刻むイケムの館で塩昆布が登場したのは初めてだろう。イケムには時空を超える包容力がある。

 

 ロレンツォもまた既成概念にとらわれない。伝統的なレシピにとらわれず作らず新しいことに挑むオープンマインドの持ち主だ。イケムに新たな地平を開拓しようとしている。

陽気なイタリアンのロレンツォ・パスクィーニ
左から、イケム2023、イグレック2022、イケム2006、イケム1996
イケム2023と塩昆布

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