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ボルドー1級シャトーの経営者は大変な仕事だ。栽培と醸造を指揮し、世界の市場を観察して、将来のための投資を続ける。毎年春のプリムールで、評論家から得点で評価され、いい価格を出さねばならない。世界を飛び回って、メディアや消費者にプロモーションもする。それを1人で2役こなすピエール・リュルトンはただものではない。多くのシャトーを所有するボルドーのファースト・ファミリー、リュルトン一族の出世頭だ。
サンテミリオンのシュヴァル・ブランとソーテルヌのイケム。1980年にクロ・フルテでキャリアを始めたピエールは、91年にシュヴァル・ブランに雇われた。霜でha当たり7ヘクトリットルしかとれずル・プティ・シュヴァルしか生産できない91年が皮肉にもスタートだった。98年にオーナーがLVMHのベルナール・アルノーとアルベール・フレールに代わってもそのままとどまり、2003年にはイケムも任された。アルノーに認められたのだ。ピエールは”皇帝”アルノーといつでも電話で話せる間柄だが、「彼の関心はラグジュアリー・グッズにあるから、そんなに話すことはないよ。何かする時はチームで決める」という。白紙手形をもらっているのだろう。
シュヴァル・ブランに26年、イケムに14年間。結果を残してきた。シュヴァル・ブランは前のエブラール時代より安定した高品質となり、価格が上がった。イケムは手の届きやすい価格にし、プリムールに参画した。03年にピエールに取材した際、「眠れる姫のようなイケムを覆う霧のヴェールをはがす」と話していた通り、サリュース伯爵時代の近寄りがたさがなくなり、時代遅れになりつつあったイケムを活性化した。
辛口ワインの「Y」(イグレック)がいいお手本だ。59年に始めたキュヴェで、熟したソーヴィニヨン・ブランを摘み、セミヨンは貴腐菌がつくかつかないかのころに収穫する。残糖のないイケムである。
「シャトー・ディケム イグレック 2015」(Chateau d'Yquem Ygrec 2015)は黄桃、オレンジ、マロングラッセ、エキゾチックで、セミヨン由来のオイリーなテクスチャー、かすかに貴腐のタッチ。ミッドパレットは濃密で、ヴォリューム感はあるが、フレッシュな酸がフィニッシュを引き締めている。余韻にほのかなヨード香。香りの一部とオイリーな濃密さはイケムなのに、甘さがない不思議な感覚。ソーヴィニヨン・ブラン75%、セミヨン25%。残糖は7グラム。1万本生産。2万6000円。93点。
「シャトー・ディケム 2005」(Chateau d'Yquem 2005)は砂糖漬けのアプリコット、クレーム・ブリュレ、サフラン、凝縮しているが、メリハリのある酸が存在し、ほのかに樽からくるほろ苦さ。バランスの良さからすぐに飲めてしまうが、さらに20年は熟成する可能性がある。まさに甘露。9万5000円。97点
シュヴァル・ブランは右岸で最も早く排水路を敷設したシャトーの一つだ。戦前と戦争直後はボルドーでも傑出したワインを生んだ。1929年と1947年はその代表だが、その後の凋落期を経て、立て直したのがピエールだ。1988年に初めて出したセカンドワインのル・プティ・シュヴァルの比率を、厳密な選別で高めた。
「シュヴァル・ブラン ル・プティ・シュヴァル 2005」(Cheval Blanc Le Petit Cheval 2005)は軽量級だが、ジューシーで、タンニンは洗練されている。スミレ、クランベリー、柔らかい口当たりで、テクスチャーは丸い。ほのかに青いフィニッシュ。カベルネ・ソーヴィニヨンの力感とは違って、カベルネ・フランには繊細な優美さがある。89点。3万5000円。
「シュヴァル・ブラン 2012」(Cheval Blanc 2012)は開いていて、エキゾチック。アタックの柔らかさとフローラルな香り高さがカベルネ・フランらしい。レッドチェリー、クレーム・ド・カシス、シルキーで、厚みがあって、噛めるようなタンニン、フィニッシュに塩気があり、スパイシー。ヴィンテージの冷涼感が出ている。カベルネ・フラン45%、メルロ55%。9万円。92点。
「シュヴァル・ブラン 2005」(Cheval Blanc 2005)は傑出したヴィンテージの一つ。芳香性が高く、退廃的。半々にブレンドしたカベルネ・フランの硬質感とメルロのしなやかさのバランスがとれている。スミレ、レッドカラント、木炭、純粋さがあり、流れるようなテクスチャー、骨格がしっかりしていて、深みがある。ゴージャスでエレガント。フレッシュな酸が余韻を引き延ばす。18万円。96点。
ピエールは正式な醸造教育は受けていないが、おじのアンドレとエミール・ペイノー教授の下で学んだ。彼の優秀さは、シュヴァル・ブランのピエール・オリヴィエ・クルエとイケムのサンドリーヌ・ガーベイという2人の優れた技術責任者を含むチームを統率する指導力にある。「いいチームと働くのが重要」という。料理人でいえばアラン・デュカスタイプ。アルゼンチンでシュヴァル・デ・アンデスも手掛け、南アフリカでコンサルタントをするなど視野が広い。
シュヴァル・ブランでは砂利土壌のメルロをカベルネ・ソーヴィニヨンに植え替えている。2016年には3.3%ブレンドした。初期の19世紀後半には、シュヴァル・ブランは隣人のフィジャックのラベルで売られていた。土壌に共通性がある。「いきなりカベルネ・ソーヴィニヨンを増やしたりしない。それではフィジャックになってしまうから」。完成された1級シャトーにもかかわらず、ファイン・チューニングを怠らない。そこも彼のすごさだ。
輸入元はエノテカ。
サンテミリオンのシュヴァル・ブランとソーテルヌのイケム。1980年にクロ・フルテでキャリアを始めたピエールは、91年にシュヴァル・ブランに雇われた。霜でha当たり7ヘクトリットルしかとれずル・プティ・シュヴァルしか生産できない91年が皮肉にもスタートだった。98年にオーナーがLVMHのベルナール・アルノーとアルベール・フレールに代わってもそのままとどまり、2003年にはイケムも任された。アルノーに認められたのだ。ピエールは”皇帝”アルノーといつでも電話で話せる間柄だが、「彼の関心はラグジュアリー・グッズにあるから、そんなに話すことはないよ。何かする時はチームで決める」という。白紙手形をもらっているのだろう。
シュヴァル・ブランに26年、イケムに14年間。結果を残してきた。シュヴァル・ブランは前のエブラール時代より安定した高品質となり、価格が上がった。イケムは手の届きやすい価格にし、プリムールに参画した。03年にピエールに取材した際、「眠れる姫のようなイケムを覆う霧のヴェールをはがす」と話していた通り、サリュース伯爵時代の近寄りがたさがなくなり、時代遅れになりつつあったイケムを活性化した。
辛口ワインの「Y」(イグレック)がいいお手本だ。59年に始めたキュヴェで、熟したソーヴィニヨン・ブランを摘み、セミヨンは貴腐菌がつくかつかないかのころに収穫する。残糖のないイケムである。
「シャトー・ディケム イグレック 2015」(Chateau d'Yquem Ygrec 2015)は黄桃、オレンジ、マロングラッセ、エキゾチックで、セミヨン由来のオイリーなテクスチャー、かすかに貴腐のタッチ。ミッドパレットは濃密で、ヴォリューム感はあるが、フレッシュな酸がフィニッシュを引き締めている。余韻にほのかなヨード香。香りの一部とオイリーな濃密さはイケムなのに、甘さがない不思議な感覚。ソーヴィニヨン・ブラン75%、セミヨン25%。残糖は7グラム。1万本生産。2万6000円。93点。
「シャトー・ディケム 2005」(Chateau d'Yquem 2005)は砂糖漬けのアプリコット、クレーム・ブリュレ、サフラン、凝縮しているが、メリハリのある酸が存在し、ほのかに樽からくるほろ苦さ。バランスの良さからすぐに飲めてしまうが、さらに20年は熟成する可能性がある。まさに甘露。9万5000円。97点
シュヴァル・ブランは右岸で最も早く排水路を敷設したシャトーの一つだ。戦前と戦争直後はボルドーでも傑出したワインを生んだ。1929年と1947年はその代表だが、その後の凋落期を経て、立て直したのがピエールだ。1988年に初めて出したセカンドワインのル・プティ・シュヴァルの比率を、厳密な選別で高めた。
「シュヴァル・ブラン ル・プティ・シュヴァル 2005」(Cheval Blanc Le Petit Cheval 2005)は軽量級だが、ジューシーで、タンニンは洗練されている。スミレ、クランベリー、柔らかい口当たりで、テクスチャーは丸い。ほのかに青いフィニッシュ。カベルネ・ソーヴィニヨンの力感とは違って、カベルネ・フランには繊細な優美さがある。89点。3万5000円。
「シュヴァル・ブラン 2012」(Cheval Blanc 2012)は開いていて、エキゾチック。アタックの柔らかさとフローラルな香り高さがカベルネ・フランらしい。レッドチェリー、クレーム・ド・カシス、シルキーで、厚みがあって、噛めるようなタンニン、フィニッシュに塩気があり、スパイシー。ヴィンテージの冷涼感が出ている。カベルネ・フラン45%、メルロ55%。9万円。92点。
「シュヴァル・ブラン 2005」(Cheval Blanc 2005)は傑出したヴィンテージの一つ。芳香性が高く、退廃的。半々にブレンドしたカベルネ・フランの硬質感とメルロのしなやかさのバランスがとれている。スミレ、レッドカラント、木炭、純粋さがあり、流れるようなテクスチャー、骨格がしっかりしていて、深みがある。ゴージャスでエレガント。フレッシュな酸が余韻を引き延ばす。18万円。96点。
ピエールは正式な醸造教育は受けていないが、おじのアンドレとエミール・ペイノー教授の下で学んだ。彼の優秀さは、シュヴァル・ブランのピエール・オリヴィエ・クルエとイケムのサンドリーヌ・ガーベイという2人の優れた技術責任者を含むチームを統率する指導力にある。「いいチームと働くのが重要」という。料理人でいえばアラン・デュカスタイプ。アルゼンチンでシュヴァル・デ・アンデスも手掛け、南アフリカでコンサルタントをするなど視野が広い。
シュヴァル・ブランでは砂利土壌のメルロをカベルネ・ソーヴィニヨンに植え替えている。2016年には3.3%ブレンドした。初期の19世紀後半には、シュヴァル・ブランは隣人のフィジャックのラベルで売られていた。土壌に共通性がある。「いきなりカベルネ・ソーヴィニヨンを増やしたりしない。それではフィジャックになってしまうから」。完成された1級シャトーにもかかわらず、ファイン・チューニングを怠らない。そこも彼のすごさだ。
輸入元はエノテカ。
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