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霜害で収穫は大幅減少 どうなるボルドー2017

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フランス産地レポート

 2017年ボルドーの収穫が始まった。例年よりも2-3週間早い。天候は良く、畑の衛生状態もおおむね良好。作柄に期待がかかるが、4月に襲った霜害で、収穫量は大幅な減少が予想されている。1991年の再来になるのだろうか。ポムロールとサン・テミリオンを歩いて、霜害の余波を考察した。霜害の大きさは、標高と土壌に大きく影響を受けていた。

 4月21日と4月27日の2晩、ボルドー全域に霜が降りた。冬が戻ってきたかのような寒波に襲われ、11万4000ヘクタールの畑のうち、6万ヘクタールに被害があった。ボルドーワイン連盟(FGVB)は、10億ユーロ以上の損失となるのではないかと発表した。農務省の発表した7月最初の統計によると、2017年の収穫高予想は326万へクトリットル。2016年の半分、ここ5年間の平均値の4割減となる見込みだ。1956年、あるいは1991年におきた霜害を喚起させる厳しさで、それよりも酷いのではないかとも考えられる。
 6月の終わり、リブルヌからサン・テミリオンまで散策し、畑の状況をつぶさに観察し、痛々しい被害を実感した。例年ならば、このころは開花にさしかかっている。麗しいブドウの花が香る時期なのに、ポムロールの畑に入った途端に、目を覆う光景が広がった。遠目にはブドウの樹が揚々と若枝を延ばしているように見える。近寄ってみると、伸びきった枝には房が少ない。花はあっても、結実が上手くいかず、散っていったものも多い。そういった樹から収穫できるのは、2房か3房くらいだろうか。
 だが、高台に行けば行くほど、正常に発育したブドウがたくさん見られるようになった。小さな村落のカトゥソーから、土壌の違いが明瞭になり、それまでのミンデル氷河期の砂質の礫土壌から、より新しいギュンツ氷河期の粘土質礫土壌が広がる。そこでは、霜の被害がなくなった。教会を中心に、クリネ、ラフルール、ペトリュス、ヴュー・シャトー・セルタン、ラ・コンセイヤントなどの畑をめぐったが、見事に開花・結実したブドウの房があり、良い状態であった。ところが、ポムロールからサン・テミリオンの国道をまたいだ瞬間から再び、被害のある畑が見えてきた。
 「霜被害に遭うことはほとんどなく、この前の被害は1991年」。そういうシュヴァル・ブランは、AOCポムロールのすぐ横の、いわゆる「グラーヴ」と呼ばれるサン・テミリオン最西部に位置する。シュヴァル・ブランは39ヘクタールある自社畑の中でも、各ブロックごとに品種、植樹年度、台木の管理が徹底しているので、被害のある畑とない畑の差はすぐさま見て取れる。
「最も本質的なのは土壌の影響。粘土質土壌に被害があり、礫土壌においては全く被害がなかった」と、最高財務責任者のアルノー・ド・ラフォルカードは説明してくれた。これは先に見たポムロールでも、低地に比べ、高台において被害がなかったのと符合する。ブドウの樹齢も影響する。例えば、樹齢65年のカベルネ・フランが、全く実をつけていなかったのに対し、真横の樹齢7年のカベルネ・フランにはあまりダメージが見られなかった。同じようなことがメルロでも観察された。「最終的に20-30%の被害になると考えられる」とド・フォルカード。見た感じではもう少し被害があったようにも感じたが。
 サン・テミリオン市に近づくにつれて、多かれ少なかれ霜害の爪痕は見られた。やはり「風通しの悪い森林近く」や「砂質の土壌」に被害が多いようだ。それがアンジェリスやオーゾンヌのある「コート」地区の丘まで来ると、霜被害の影響は少ない。シャトー・パヴィによると、「カスティヨンの方は多大な被害があったが、パヴィの丘は素晴らしい南斜面のお陰で、自然に守られて、損失はなかった」と述べた。27日の直後に、サン・テミリオンは70-80%の被害を受けたと報じられたが、同じアペラシオンの中でも、場所によってかなり事情は異なっているようだ。
 春先に快晴が続き、例年の10日前後、成長が早かったことが、2017年の悲劇の発端であった。ブドウの発育過程において、発芽・開花・結実の段階は最も繊細な期間にあたる。この間に凄まじい寒波がフランス中を襲ったのである。霜が降りた27日、ボルドー市長は、直接的な対処法として、ヘリコプターを飛ばす事を認可した。ヘリコプターの旋風によって、上空の温暖な気候を畑に下ろそうという効果を狙ってである。サン・テミリオンの畑中で、明け方にヘリコプターが飛び交っていたようだ。
 だが、シュヴァル・ブランはヘリコプターを飛ばさなかった。「あまりに低い温度の下で、旋風を起こすことは、逆に冷気を土中に埋め込んでしまうと考えた。夜はマイナス1度位になると予想されていた。しかし、実際に深刻な被害を受けた場所は、マイナス3度から4度にも達した」と振り返る。すぐ隣のグラン・コルバン・デスパーニュは、ヘリコプターを飛ばしたが効果を得ず、すべての収穫を失ったという。シュヴァル・ブランの判断は正かったのかもしれない。
 霜害を予防するための抜本的な改革は必要だが、長期的に見て合理的かどうかは難しい問題だ。シャブリのように、放水設備と重油ヒーターを置くのが理想的とはいっても、霜被害が毎年、あるわけでもないのに、高価な投資をするのが解決策として正しいのか。環境にも良くない。さらに、その年の収穫にのみ影響のある春霜に比べると、樹自体の植え替えを余儀なくされる可能性のある秋霜や冬霜の方が、被害が重い。
「春霜による被害が、100年のうち2、3回の割合に留まるなら、扇風機器やヒーターなどの整備は効率的ではない。ただ、このような被害が毎年続くようになるならば、それも検討しなければならないが」というシュヴァル・ブランの見解は、歴史的な名声を誇るグラン・シャトーならではの、将来を見据えたコメントとして興味深い。
 霜害に悩まされた1991年は収穫量は大幅に減ったものの、前評判に比べて出来は決して悪くなかった。四半世紀前と比較すると、現在の方が栽培・醸造の面ではるかに進化している。2017年はどんなヴィンテージになるだろうか。
リブルヌからポムロールへ入ってすぐの畑。地層の新しい低地は砂地土壌が増え、霜の被害が多かった
教会の見えるポムロール中心部。標高の高いプラトーの地層の古い土壌は粘土と礫が多く、霜の被害も少なかった
シュヴァル・ブランで被害を受けた樹齢の高い区画。品種の違いではなく、礫土壌の少ない場所が甚大な被害を受けた。植え替えが必要なほど被害を受けた樹が少なかったのは、不幸中の幸い

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