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ロンドンで2024年2月に行われたマスタークラスで、チリのヴィーニャ・マキスを初めて口にした。明確なフィネスを感じるカベルネ・フランとカルメネールに衝撃を受けた。
それから9か月。初夏を迎える南半球の11月上旬に、ワイン産地コルチャグアを訪れた。清々しく鮮やかな青空の下、結実が始まり、緑が一層濃くなるブドウ畑を目で追いながら車を走らせた。アパルタ地区を中心に多くの高品質ワイナリーを有するこの地で、ヴィーニャ・マキスはほかと一線を画すワインを醸している。
最高責任者の4代目リカルド・リヴァデネイラ・フルタドに特異なテロワール、そして彼が大切とするバイオロジカル・コリドー(生物たちの回廊)を軸に、ヴィーニャ・マキスのワインに宿るフィネスに迫ろうと話をうかがった。
冷涼感を運ぶ2本の川
沖積粘土質土壌が洗練を後押し
70haの自社畑はティンギリリカ川とチンバロンゴ・クリークにはさまれる沖積地に位置する。とりわけチンバロンゴ・クリークに程近く、川の近くを歩くと汗ばんでいた素肌がすっと冷やされるほど、涼しさを感じる。
ヴィーニャ・マキスのブドウ畑は夏場でも周辺より2度ほど気温が低く、最高気温も27度から30度に保たれるという。「春先には川が冷え込みを抑えて気温を保ってくれるため、霜害からブドウ畑を守ってくれる」とリカルドはその恩恵について付け加えた。
最良区画のカベルネ・フランから醸す「フランコ 2021」の落ち着いた黒果実の香りとデリケートなミント香、軽やかでありながら非常に奥行きのある果実味としっとりとしたチョーク質のタンニン、そして余韻を引っ張る垂直的な酸味の由来の一端が垣間みえる。
2本の川にはさまれるブドウ畑は礫質の地下層の上に約2mの粘土層が重なる沖積土壌だ。粘土質土壌は一般的に高品質赤ワインには不向きと言われる。水はけが悪く水分コントロールが難しいためだ。しかし、下部の礫質層が暗渠の役割を果たして水はけを助け、更にスメクタイト質の粘土が特異な条件を生んでいる。イメージはポムロールの上質な粘土土壌区画に近い。
また、粘土質土壌特有の高い土壌保水量のため、灌漑の必須なコルチャグアにおいても良好な区画であればドライファーミングが可能だという。粘土質土壌は豊富にミネラルを含むが、ブドウ樹がそれらを吸収するのも難しい。適度な水分ストレスも合わせて果房、果粒共に小さい。さらに、徒長が少なく1.5mの蔓の間に60から80枚の葉を有するという。
早めに摘むカルメネールのフィネス
このような条件から、芳香成分の成熟が早く、「カルメネールのピラジンもヴェレゾン開始後2週間ほどで薄れる」とリカルドは言う。多くの生産者がカルメネールの収穫を5月下旬に行うところを、ヴィーニャ・マキスの収穫は3月中旬に始まる。
カルメネールのフラッグシップ「ヴィオラ 2021」では芳醇なスミレの香りに程よいフルーツの重み、清涼感に満ちた酸味と細やかで穏やかなタンニン、そして13.5%のアルコール度が洗練さを引き立てる。補酸は行わない。2021年は冷涼なヴィンテージであるが、早期収穫が行えるテロワール条件は、この特徴的なフィネスのゆえんの一端と言えるだろう。
優劣の差ではない。濃厚な果実感と14.5から15%のアルコール度を支えるストラクチャーを補酸でバランスをとる、コルチャグアの一般的なプレステージ・カルメネールとは一線を画すスタイルだ。
“バイオロジカル・コリドー“がもたらす生物多様性
リカルドは世界各地で研修を重ね、2000年からこの家族経営のワイナリーに参画した。醸造学を学ぶ前の専攻が作物農学だった彼は、2007年にバイオロジカル・コリドー(生物学的回廊)の導入を進めた。現在注目されるアグロエコロジー(農業生態学)が話題に上がるずっと昔だ。
「Life comes layers」(生命は層を織りなす様に続く)
とても印象深い彼の言葉だ。丁寧に選定した草花は益虫を呼び、バランスの取れた昆虫群が鳥たちを呼ぶ。
生態系のバランスがとれていればブドウ樹が病害虫に襲われるリスクは格段に下がる。
「オーガニック農法ではたとえ有機農薬であれ多くのスプレーをまかなければならないが、バランスのとれた生態系がもたらす“サステナビリティ”では限りなくそれを減らせる」
バイオロジカル・コリドーを歩くリカルドは最も活き活きとしていた。
「ヴィオラ 2013」に感じる良質なミックスハーブ香は、まさにそこに植えられたローズマリーやセージの香りそのものだった。
ボワスノのコンサル ラ・プラスで取り引き
2019年から最高責任者に就いたリカルドはワイナリーに戻る前はワイン醸造学を学び、ナパ・ヴァレーのチャールズ・クリュッグやボルドーのシャトー・ブラネール・デュクリュにて研修を重ねた。品質にフォーカスするため、140haだったブドウ畑を70haに削減した。
サステナビリティ・ポリシーの一環で除草は2600頭の羊に任せて、その糞は堆肥に活用される。ワイナリーは2002年に建て替えた。彼を支える栽培醸造チームに加えて、ボルドーの気鋭コンサルタント、エリック・ボワスノのサポートもヴィーニャ・マキスを押し上げる要因だろう。2022年からラ・プラス・ド・ボルドーで取り引きされていることかららもその品質はうかげる。
川にはさまれた地理的条件、特異な沖積土壌、そしてバイオロジカル・コリドーが導く生物多様性、そこに情熱を持った人の手が加わる。ヴィーニャ・マキスのフィネスの片鱗がとらえたれた訪問だった。
Text & Photo by Raku Oda
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