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ティー・ペアリングで世界進出する日本茶

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 アルコール消費量が減少する今、ノンアルコール飲料のペアリングに力を入れるレストランが増えている。日本茶もガストロノミーの世界で注目されている。ティー・ペアリングという言葉も浸透してきた。

 

 いち早くティー・ペアリングを取り入れたのが、パリの5つ星「オテル・ドゥ・クリヨン・ローズウッド・ホテル」のレストラン「レクラン」である。伝統的なラグジュアリーホテルでありながら、トレンドを発信する2つ星で、2022年のフランス最優秀ソムリエに輝いたフランス国家最優秀職⼈(MOF)のグザビエ・チュイザが、日本茶のペアリングを提供している。

 

テロワールを表現し、健康志向にマッチする日本茶

 

 「レクラン」では17%もの客がアルコールを注文しない。当初は、ワインの代わりに水かジュースを供出していたが、ジュースは糖分が邪魔になる。グザビエは代替品を探した。生粋のソムリエ気質から、テロワールを表現する飲み物を求めて、南米のコーヒーや中国のプーアール茶にも出会った。そんな中、関西出身の妻と来日した際に、大阪・心斎橋の「宇治園」を見つけた。宇治の茶葉栽培地を訪れ、農夫に話を聞いた。

 

 「宇治のお茶を1杯飲むと、15分ほど人生が延びると聞いた。お茶にはタンニン=ポリフェノールがあるので心臓病に良いと。玉露を飲んで感じたのは、タンニン、酸味、苦味、複雑なアロマ、ヴェジェタル感、特にニンジンがいつもある。そして海藻、海苔のアロマ」と語るグザビエからは、新発見の喜びが伝わってきた。

 

 「フレンチパラドックス」の逸話を思い出させる話だった。

 

 明治2年創業の老舗茶舗「宇治園」は、2015年に煎茶と玉露の2種類のボトリングティーを生み出した。重村勝会長に誕生の背景を尋ねた。

 

 「日本茶の消費量は減少を続けている。明るい未来を描けなかった。昔の会社には“女性社員のお茶出し”という仕事があり、お茶を入れるのが上手下手という表現があった。日本茶は淹れ方が難しい。この“お茶出し評価”は女性社員に嫌われ、急須でお茶を淹れる行為は、会社から疎外されていった」

 

 重村氏は、世界に日本茶の魅力を伝えていくのにはどうしたらいいか考えた。

 

 日本の軟水で淹れるお茶は、ヨーロッパの硬水で淹れると味わいが変わってしまうため、Ready to drinkのボトリングティーを選択した。日本茶の魅力は渋みだというこだわりを持ち、低温で渋みを抽出していたが、欧米人の味覚にはこの渋みがなかなか受け入れてもらえない。3年間かけて改良を重ねて「レクラン」での採用が決まった。

 

煎茶はブルゴーニュ型、玉露はボルドー型

 

 ブルゴーニュ型ボトルの煎茶は、柑橘系のアロマを持つうじみどりという単一品種から造られる。ボルドー型ボトルの玉露は5品種のブレンド。ごこう、こまかげという宇治独特の品種から土(ミネラル) を表現する。さみどり、おくみどりはフルーツや花の香りを引き出すための品種 。やぶきたはいわゆる日本茶のイメージとなっている、ワインでいうニュートラルなシャルドネのような品種。

 

 65度から70度で淹れる日本茶の「煎じる」という手法は、気候変動を受けて穏やかな抽出を目指すボルドーやロゼ・シャンパーニュの醸造にも影響を与えている。

 

 「2016年、2018年あたりから、お茶と同じく煎じるように穏やかな抽出をした」と、シャトー・ムートン・ロートシルトの前技術責任者のフィリップ・ダルーアンは明かした。クリスタル・ロゼは、マセラシオン(低温浸漬)を施したピノ・ノワールとシャルドネを一緒に発酵させている。このマセラシオンが、醸造責任者のジャン・バティスト・レカイヨンにとって煎じる(アンフュージョン)という感覚なのだ。

 

フレンチのソムリエに聞くペアリングの可能性

 

 日本でもミシュラン2つ星の「アサヒナガストロノーム」が、ティー・ペアリングを取り入れている。モダンで常に新しさのある朝比奈悟シェフの料理を求めて、日本橋のレストランに国内外からのファンが来店している。

 

 煎茶と玉露とフレンチのペアリングについて、グザビエとアサヒナガストロノームの伊藤聖也ソムリエに聞いた。

 

煎茶ペアリング

グザビエ・チュイザ・ソムリエ:

煎茶はエレガントでフィネスがあり、海苔のようなヨード感がある。ワインに例えるとリースリング。春や夏の料理に合わせる。カリッとした食感のグリーンアスパラ、アーティチョーク、ホタテのカルパッチョにヴェルヴェンヌ(ヴァーベナ)を使い、煎茶のヴェルヴェンヌのアロマと同調させる。チーズはシャヴィニョルなどのシェーブルと。

 

伊藤聖也ソムリエ:

鮎のリエットなど、煎茶の渋みを利用して、食材の渋みを和らげるペアリングを提案する。鮑の肝ソースや牡蠣など、ほんのり苦味があるものに赤ワインを合わせるとまろやかになる法則を煎茶のタンニンに代えて応用する。

 

玉露ペアリング

グザビエ・チュイザ・ソムリエ:

ヴェジタルなアロマに加えて、クミンなどのスパイシーさ、ドライハーブや干し草、そして濃密な凝縮感。力強さがあり、ブルゴーニュのシャルドネのようで、秋冬の料理とのペアリングを推奨。玉露には、身質のしっかりしたスズキやマトウダイと適度な歯応えのある野菜を合わせ、玉露の凝縮したテクスチャーとマッチさせる。

 

伊藤聖也ソムリエ:

和牛のロティ。玉露と和牛の脂の相乗効果について、赤ワインにはないものを見出す。タンニンの多いボルドー系赤ワインを合わせると、肉の脂をフィニッシュで断ち切ってしまう感じがある。コクのあるシャルドネだとサシの脂が伸びて、肉のミルキーな部分と合う。後者が玉露と肉のペアリングに通じる。 

 

私もゴッタス煎茶と玉露を試飲してペアリングを実践した。

 

ゴッタスデ日本茶エスペシアル煎茶 5400円(税込)

和梨、グリーンアスパラ、貝殻、磯の香、海苔のアロマ。軽やかなアタック、清涼感のある滑らかなテクスチャー、香ばしい苦味が余韻を長くする。スモークサーモンのサラダ仕立てとペアリングすると、サーモンのヨード感と煎茶の海苔様のニュアンスが一体感を生む。カマンベールチーズは煎茶の苦味がチーズの隠れた甘味を引き出し、ゴーダチーズのマイルドさは煎茶の苦味を和らげる。

 

ゴッタスデ日本茶エスペシアル玉露 6480円(税込)

茹でた野菜、カリフラワー、芝、干し草、海藻、海苔のアロマ。芳醇で厚みのあるテクスチャー。圧倒的な旨味、グリップ感のあるタンニン、フィニッシュにかけて伸びる塩味が料理との相性を良くする。鴨のリエットとのペアリングは鴨の脂を玉露の旨味が包み込む。相乗効果で、肉の旨味を引き立てる。タンニンが肉の脂っぽさを調和し口中をスッキリさせる。熟成チェダーは旨味の相乗効果があり、ミモザはチーズの塩味が玉露のフィニッシュで旨味に変わる喜ばしい味わいだった。

 

世界につながる日本茶の未来

 

 苦味のある飲み物には馴染みのない欧米人に、日本茶の苦味が受け入れられるのか。私の疑問に対して、グザビエは「エデュケーション」をその答えとした。

 

「最初にタンニンがあることを説明するのです。苦味ではなくタンニンと言う。ビターという言葉はあまり印象が良くないけれど、タンニンという言葉で表現すれば美しい。最初に説明があると、脳が“苦い”ではなく、“タニック”だと認識する様になる。ワインと同じで、お茶にもタンニンがあると理解してもらいます。お茶の沈殿物はタンニンがある証し。白ワインでいうなら、フルミントにタンニンがあるというようなイメージ。知らない人、わからない人に翻訳をするように説明をすること。エデュケーションがソムリエの仕事だと思っています」

 

 日本茶の将来性については、根本的な問題を指摘した。

 

「まず、日本茶のアイデンティティを守ることが大事。自然をリスペクトして、テロワールを守っていかなければならない。化学的な薬剤を畑に使っていたら土地が死んでいきます。未来のジェネレーションのことを考えなければならない」。

 

 日本はブドウ栽培においてもコンベンショナルな農法が多くオーガニック、サステナブル、ビオディナミ、リジェネラティヴと、進化するワインの世界では遅れをとっている。業界を上げての意識改革が必要だろう。

 

 日本酒も日本茶も国内消費量が減少を続けているが、海外進出に生き残りの道を見い出している。ボーダーレスな世界市場へと未来が開けている。

 

Text & Photo by Minobu Kondo

フランスの日本酒コンクール「クラマスター」の審査委員長も努めるグザビエ・チュイザ
アサヒナガストロノームの伊藤聖也ソムリエ。砂糖を使わないで甘みを出せるティー・ペアリングの将来性を確信している
ポルトガル語で雫という意味の「ゴッタス」という名称がつけられているボトリングティー
煎茶とスモークサーモン・サラダ仕立て。ヨードの一体感があり、煎茶の軽やかさと生野菜のシャキシャキ感のハーモニーで、爽やかさを楽しめる
様々なチーズとのペアリング実証をしたが、煎茶の苦味がカマンベールの甘味を引き立てたのが最も印象的だった

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