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カリフォルニアのパカレ、クッチの驚嘆ソノマ・コースト

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 カリフォルニアのピノ・ノワールが面白い。世界的に見ても、これだけ様々な動きがある産地はない。
 IPOBという団体が先導しているのは、表面的な現象にすぎない。個別の生産者が、果実味と凝縮度の呪縛=パーカーポイントから解き放たれて、信じる道を進んでいる。造り手を訪ねると、その実感が伝わってくる。

 ピノ・ノワールで言えば、ジェイミー・クッチが先頭を走っている。十数年前の、フィリップ・パカレやフレデリック・コサールを思い出させる。ジェイミーほど、ブルゴーニュの方程式をカリフォルニアに当てはめようとしている男は少ないだろう。
 わかりやすく言えば、全房発酵、酸化防止剤の抑制、自然酵母の使用など、カリフォルニアでは避けられてきた醸造手法を導入している。アメリカ人は甘みと果実の熟成感を好むから、かなり挑戦的だが。未完成な部分もあるが、実験を繰り返している。
 ソノマのパッツ&ホールに近いカスタム・クラッシュを間借りしている。醸造の細部へのこだわりも人一倍だが、出来上がったワインも面白い。2013はソノマ・コーストで「サン・スフレ」という酸化防止剤無添加のワインを造った。アメリカの法律で「酸化防止剤含有」を表示する必要があるので、当局ともめたというが、非常に自然なワインだ。クッチは「自然派」という呼び方を嫌うが、ブルゴーニュの先端的な生産者の背中を追いかけている。
 「カリフォルニアのパカレだね」と言ったら、まんざらでもなさそうで、今度会うときはサンプル持っていくと話していた。

 いろいろ試飲した中で、ソノマ・コーストのファルスタット・ヴィンヤードの2012が印象に残った。ハーシュの畑にも近く、クッチの中で最も冷涼な畑だという。香りは熟したレッドチェリーやオレンジの皮を感じさせるのだが、パレットでは引き締まっていて、甘さがない。うまみをたっぷりと感じる。その取り合わせが素晴らしい。
 ルロワのドメーヌ物にも、これに似たバランス感覚がある。ヴォリューム感があって、香りの広がりが別格という意味で。樹齢が低いので、同じ土台には乗らないが、クッチの情熱は高く評価すべきだ。アルコール度は12・9%。カリフォルニアではありえない低さだが、バランスはとれている。リトライのテッド・レモンよりもさらに妥協がない、挑戦的なアプローチだ。

 ジェイミーは収穫続きで、「疲れた」と口にしていた。2014は異例に早い生育モードで、どこを訪ねてもブドウの搬入に出会う。確かに収穫期は心が休まらないだろうが、ワインを前にする生き生きとしてくる。元メルリ・リンチのトレーダーとは思えないほど、ワイン造りが似合っている。近く、サンタ・クルーズから白ワインも出す。恐るべきだ。
 今は試行錯誤の時期とは、本人も自覚しているようだが、この方程式が固定化されるとき、恐るべき新たなワインが生まれる。そんな予感がする。

(2014年9月9日 カリフォルニア・ソノマで)
クッチ・ワインズ ファルスタッフ・ヴィンヤード ソノマ・コースト ピノ・ノワール 2012
月に一度は飲みたい度:93点 

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