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”ペアリングの魔術師”大越基裕が『ロジカルペアリング』刊行

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 ペアリングという言葉はここ数年、フレンチだけでなく、中華や和食のレストランでもよく聞くようになった。ソムリエには効率的なサービスなのだろうが、目を見開かされたことはあまりない。例外的な発見を、大越基裕さんが「アンディ」で、モダン・ヴェトナム料理とオレンジワインや日本酒をペアリングした時に何度か体験した。


 味わい、フレーバー、テクスチャーなどのキーワードに基いて説明されると、なるほどと思わされた。そこから、自宅でワインと料理を合わせる手がかりをもらったことも限りなくある。私がひそかに”ペアリングの魔術師”と呼んでいる所以である。

 

 大越さんの新著『ロジカルペアリング』は、彼が20年を超すキャリアで組み立ててきた手法を、惜しげもなく、多彩な実例を引きながら紹介している。レストランでサービスを受けなくとも、彼の極意が伝わってくるのだ。


 多くのライターや愛好家はよく「このワインの方がこのワインに合う」と口にするが、その背景にロジックはほとんどない。なんとなく口にしているから説得力がない。本書は「料理の重さとドリンクの重さを合わせる」というはじめの一歩から、論理的に様々な組み立てに領域を広げている。


 副題に「レストランのためのドリンクペアリング講座」とあるように、ソムリエや料理人を意識して書かれているが、愛好家がワインや日本酒、あるいはお茶を飲む場合に応用できる。その根底にある考え方は、ワインの楽しみ方、料理の味わい方にもつながっている。読んでいるうちに、飲んで食べる世界が深みとともに広がっていく。


 大越さんと一緒に海外の産地を旅すると、自分はワインの評価と背景に集中しているのに対し、彼はどのようにペアリングするかを考えて分析している。複眼的なワインの見方や、造り手との活発な対話が、幅広いペアリングの土台を形成してきたに違いない。日本にこもって、冷房のきいた部屋でワインを試飲するだけのソムリエでは追いつけないだろう。


 普通のソムリエにペアリング・メニューを提示されても、月並みに感じて、ときめかない理由も、そこにあるのかもしれない。サービスの技術を磨くのは容易ではない。


 柴田書店。2200円(税抜き)

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