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ミネラルの塊、ルシアン・ル・モワンヌのムルソー・ペリエールとクロ・ド・ラ・ロッシュ

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 ブルゴーニュで3本の指に入る造り手がかつて、ムニエ・サウマの常識外れの醸造法について警告した。
 「危険すぎる。ワインが酢になってしまう」と。
 それから10年後、造り手はワインを飲んで、何も言わなくなった。

 ルシアン・ル・モワンヌのムニエは技術も道具もなかった昔のワイン造りに挑んでいる。醸造中に亜硫酸を添加しない。白も赤も、1樽につき7、8リットルのオリと共に熟成させる。オリ引きはしない。低温で湿度の高いセラーで樽に入れたまま。2年間の熟成期間はブルゴーニュで最も長い。それでも、還元しすぎたり、酸化しすぎたりすることはない。ワインはオリに守られているのだ。
 「戦前は、温度管理もできないし、低温浸漬の技術もなかった。ひどいワインもあったが、傑出しているワインもあった。今は技術が改良され、平均化されたが、素晴らしいものも少ない」。トラピスト修道院で学び、伝統的なワイン造りに回帰するムニエはそう語る。
 グランクリュとプルミエクリュのみを手掛け、「ブルゴーニュの図書館」を目指している。ミクロネゴスの先駆だが、本人はその言葉を嫌う。1つのクリマに対して造るのは1、2樽。全体の生産量は多くても100樽を切る。果汁を買う農家は84軒。1999年にメゾンを立ち上げてから、ほとんど変わらない。

 モンラッシェやミュジニーなど、だれもが欲しがる銘醸畑の果汁をなぜ買えるのか?
 「人間同士の信頼関係だ。お金ではない。最初は苦労した。今も簡単ではない。支払いが確かで、農家の名前を出さず、信頼できる。そんな評判が伝わるからだろう。ある農家が最近、『グランクリュを買ってくれないか』と来てくれた。長年の努力が報われた気分だよ」
 白も赤も圧搾してすぐに果汁を引き取る。シャサンの樽を事前に送り、オリと共に詰めてもらう。通常のネゴスはデブルバージュ(静置)後に引き取るのだが、オリが大切なのだ。醸造の指示はしない。
 「全房発酵するかしないかも栽培農家に任せる。信頼しているから。畑で栽培の指示もしない。握手して、『オリをくれ』というだけだ。料理人はいいマグロを持ってくる漁師に採り方を指示しないだろう(笑)」
 栽培にも醸造にも介入する近年のミクロネゴスとは反対だが、ブドウでなく果汁を買う点が違うだけで、「ネゴシアン・ヴィニフィカトゥール」の新たな形とも言える。ワインは透明感と純粋さにあふれていた。
 「ムルソー・ペリエール 2012」は清澄もろ過もしないから曇っていて、オリが舞うが、極めてフレッシュ。塩をなめるようだ。ミネラルの塊。ムニエは「塩みの王」という。砕いた岩、レモンオイル、カシューナッツ。クリーミィなテクスチャー。空気に触れると、香りがレモンタルトや塩バターに発展する。マロで生じた炭酸ガスを残して瓶詰めするので、ムニエは2時間前のデカンタージュを勧める。

 「クロ・ド・ラ・ロッシュ 2012」は、ダークベリー、中華スパイス、鉄、畑でなめる石の香り。透明感のある酸とピュアな果実。スパイシーなジュブレ・シャンベルタンとアーシーなモレ・サン・ドニの両方の個性を包合している。こちらもミネラルの塊。クロ・ド・ラ・ロッシュの下部、中部、上部斜面の3つの区画のブレンド。
 いずれも2年前に樽から試飲したガスを大量に含む状態のワインと同じく、フレッシュさを保ち、美しく進化している。ムニエによると、ムルソー・ペリエールは栓をしたままで1週間、進化するという。生命力を感じるワインだ。

2016年4月1日 東京・銀座で

ルシアン・ル・モワンヌ ムルソー・ペリエール 2012
95点
希望小売価格:2万8000円
ルシアン・ル・モワンヌ クロ・ド・ラ・ロッシュ 2012
95点
希望小売価格:4万4000円
輸入元:中島董商店

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