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「IPOBの使命は終了した」…エレン・ジョーダン

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 2016年末で活動を終える団体「IPOB」(イン・パースート・オブ・バランス)について、来日中のフェイラ当主のエレン・ジョーダンが、「我々の使命は完了した」と語った。


 ジョーダンは、創設者のラジャ・パー、ジャスミン・ハーシュのほか、ジャーナリストのジョン・ボネを含む6人からなるIPOBの評議会メンバーの1人。活動を終える方針は2月に内定していたという。
 「バランスのとれたピノ・ノワールとシャルドネ造りについて議論を深めるという初期の目標は達成された。驚いたメンバーもいたが、続けられる期間には限りがある。職人的な生産者の集団として始まったが、コパンが大企業のジャクソン・ファミリー傘下になったように、メンバーの構成も変わってきた」と理由を説明。
 「手作りで始めたが、運営には膨大なエネルギーが必要とされる。私はすべての試飲会やツアーに取り組んできたが、ジャスミンも含めて、小さなワイナリーの経営者には、負担も大きい」と語った。
 IPOBは2011年にサンフランシスコで始まった。メンバーは、最初の23社から36社に増えた。米国内では西海岸で影響力が大きく、若手ソムリエや愛好家から注目された。海外でも、抑制された味わいを好む日本や英国のプロモーションで成功を収めた。
 「2015年4月の東京・大阪、2016年2月のロンドンでも、好意的に受け止められた。ロンドンでは、ジェイミー・グッドやジャンシス・ロビンソンが司会を務める討論会も成功した。東海岸では広がらなかったが、バランスのとれたワイン造りについての対話を世界に広められた意義は大きい」
 一方で、米国ワイン業界で大きな潮流になったわけではない。ワイン研究家の堀賢一氏は当初から「一時的な流行」と見ていた。アントニオ・ガッローニのヴィノスは別として、ワイン・スペクテーターやロバート・パーカーの評価は低かった。
 パーカーは2014年1月のコラムで、IPOBを念頭に置いて、「低アルコール運動」を「アンチ・カルフォリニア、アンチ新世界の動き」と批判。同年2月にナパヴァレーで行われた「ワイン・ライターズ・シンポジウム」では、「低いブリックス(糖度)でブドウを収穫する方程式は間違い。アルコール度を低く保って、エレガントといっても、それはアルコール度が低いだけ」と講演した。
 ジョーダンはパーカーが好んだジンファンデルのターリー・ワイン・セラーズのワインメーカーの経験もあるが、現在はトゥルー・ソノマ・コーストを中心とする引き締まったスタイルのブルゴーニュとシラーを手掛ける。パーカーとの付き合いは25年に及ぶ。
 「パーカーはIPOBを『アンチ・フレーバー・エリート』と批判した。私はパーカー・ポイント88点の男だ(笑)。90点はとれない。ボブの特別なパレットは尊敬しているが、私は彼が100点をつけるワインには関心がない。ポイントは結局、彼個人の意見だ」
 ジョーダンは、超凝縮した高得点のジンファンデルから、エレガントなピノ・ノワールに転換した。そこには違和感も矛盾もないという。
 「シャトー・ヌフ・デュ・パプも飲めば、ボージョレやシャブリも飲む。個人的には、シャブリを飲む方が好きだ。土地が違えば、できるワインも違う。時間がたてば、味覚も変わるし、ワイン造りも変化する。ワインも同じままではない。今はイタリアから輸入したアンフォラでの醸造を実験している。ワイン造りは進化するものだ」
 この言葉は、IPOBの果たした役割を示唆している。IPOBは「パーカリゼーション」という言葉に象徴されるアルコール度と凝縮度が高いワインへのアンチテーゼとして始まり、ブルゴーニュ品種本来のエレガンスやフィネスを表現するワイン造りを追及した。これは世界的な流れでもあり、本家のブルゴーニュでも、抽出や樽の強いスタイルから、一世代前の柔らかいスタイルに回帰している。ロックで言えば、本来の活力を失ったスタジアムロックに対抗して、初期衝動に回帰するオルタナティヴロックが出現したのと似ている。ワイン造りは時代の変化や技術の革新に合わせて進化し、枝分かれし、最後は産地のテロワールという大きな枠組みの中で統合される。IPOBはその過程で発生した一つの現象だった。


 IPOBを広めた中心人物ジョン・ボネはワイン担当シニア寄稿編集者を務めるウェブマガジン「PUNCH」に、「IPOBはマーケティングであり、運動でもあった」と投稿した。私がIPOBのワインに目覚めたのは、ワイン・インスティテュートが2013年に主催した「カリフォルニア・ワインサミット」の講義でボネに会ったのがきっかけ。「自然派ワイン」と同じくマーケティングとしては一定の成功を収めた一方で、「運動」だからこそ終わりが来る運命にあった。

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