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ワイン本には様々な読者がいる。資格試験の受験者、知識を深めたいプロ、ワインを造りたい人、飲むのが好きな愛好家。著者はターゲットを想定して書くわけだが、自然体でつづられて、ワインに関心のある幅広い読者をつかまえる書籍が刊行された。
『大岡弘武のワインづくり 自然派ワインと風土と農業と』がそれだ。著者は1974年生まれ。大学時代にワインに興味を持ち、ボルドーに渡って栽培と醸造を学んだ。ギガルの栽培長を経て、コルナスのティエリー・アルマンで働いて独立。自らのワイン「ラ・グランド・コリーヌ」が自然派ワインとして世界で評価を得たが、将来を考えて2016年に帰国し、岡山でワインを造っている。
専門家向けの書籍とは違って、彼の人生観やワインに対する価値観をわかりやすい言葉で語っている。エッセイのように楽しく読めるが、風土と結びついた農業であるワイン造りの本質が、読んでいるうちに、自然派ワインのようにスルスルと体に入ってくる。
ブドウ畑を切り開いて、持続させることの大変さ。醸造の細かい手順や技術の詳しい紹介。醸造家にとってのテイスティングの意味……何よりも、自然派ワインという世界に愛好家が広がりつつあるワインに対する彼の考え方や情熱が、文章の節々に込められ、飲んでみたくなるのは間違いない。ただし、本物の自然派は少ないのでご用心。
日本ワインの世界には、様々な分野からワインを造ろうという人が飛び込んできて、ワイナリーが増えているが、手引き書はどこにもない。口コミの世界だ。ローヌと岡山でゼロから苦労した大岡さんの体験談や解説は、大きな手助けとなるだろう。農業の苦労や耕作放棄地など将来への課題は、一緒に考えるべき問題である。
ワイン業界で働くプロにも、ワイナリーを訪問するだけ、ショップや自宅で試飲するだけではわからない新たな発見や気付きが詰まっている。
ワイン愛好家には、自然派ワインの真の魅力を伝えてくれ、その背景には多様な要素があることを気づかせてくれる。おいしく飲むだけではなく、一歩踏み込んだ興味をかきたててくれるだろう。
多くの栽培醸造家に会ったが、真摯にワインを造る人は寛容で懐が深い。大岡さんのそうした人柄もこの本の滋味を深めている。ワインを愛する様々な人々に手にとってほしい。
エクスナレッジ発行。1800円(税抜)。
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