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知られざるスイスワイン 台頭する若きリーダー(4)

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3つ星からラブコール 新星ヴァレンティーナ・アンドレイ

 世界のトップレストランからラブコールを受ける新星がヴァレー州にいる。38歳のヴァレンティーナ・アンドレイ(Valentina Andrei)だ。彼女は2018年にゴー・エ・ミヨー・ガイドから、創造性や革新性に長けた新人に贈られる「ルーキー・オブ・ザ・イヤー」を受賞した。


 今やワインはスイスのすべての3つ星レストランのみならず、パリの「アルページュ」や「アストランス」、シンガポールの3つ星レストラン「レザミ」でもサーブされている。


 ヴァレンティーナはルーマニア出身。小麦やトウモロコシと一緒にブドウも栽培していた。隣国ハンガリーのトカイへ出向き、収穫のアルバイトもした。12歳の頃からブドウ栽培家になりたいと心を決めていた。ボルドーでのワインを造りを夢見て、フランス語を学ぶためにスイスに移った。ヴァレー州のブドウ畑を見て恋に落ち、進路を変えた。


 スイスを代表するバイオダイナミックス生産者マリー・テレーズ・シャパで、5年間セラー・マスターを務めた後に独立。ワイナリーはサイオン(Saillon)にあり、畑はマルティニー(Martigny)やフリィ(Fully)に点在する。


 最初は2区画を借りて文字通りのガレージ・ワイナリー。5000本生産した2014年がファースト・ヴィンテージ。少しづつ畑を購入し、現在は賃貸畑も含めて5.5ヘクタールでワインを造る。畑は標高700-740mの高い場所にあり、比較的高い樹齢のため収量は低い。生産量は1万7000本。最小限の介入で、土着酵母で発酵する。2-3年物の中古樽やアンフォラで熟成する。


 購入した畑はアクセスする道もない急斜面。見捨てられていたが、テロワールの卓越性は確信していた。除草剤で疲れており、最初の3年間は土壌の活力を蘇らせることに力を注いだ。バイオダイナミックスで栽培し、コンディションを常に整えていく方法は中医学的アプローチと似ているという。


「愛情を持って畑で働くと、ブドウはエネルギーを返してくれます。どの畑も作業が困難な場所ですが、自分の子供のようで、畑で働く事が喜びです」


スイスの魅力は多彩な土着品種


 土着の白ブドウ、プティット・アルヴィン(Petite Arvine)やユマーニュ・ブランシュ(Humagne Blanche)、ガメイ、ローヌ品種など10種以上のブドウを栽培している。スイスには少なくとも252の品種が栽培され、うち168種がAOCに認められている。スイスの土着品種の多様さは世界でもトップクラスで、スイスワインの魅力となっている。


 中でも、ヴァレー州には土着品種も多く、AOCでは53種が認められている。マリー・テレーズ・シャパは「この地域の人達は好奇心が強く常に新しい品種を試している」と話した。


 ヴァレンティーナも新しい品種に取り組み、スイス東部グリソンの白ブドウ、コンプレーター(Completer)を初リリース予定。ブルゴーニュのシャルドネに匹敵する複雑性を有する長期熟成可能な品種だという。


 海外からの評価が高まっているのはシラーだ。ヴァレー州はローヌ河右岸に畑が集中し、傾斜の強い斜面にブドウが連なっている。その景色は北ローヌのようで、コート・デュ・ローヌの上流部と呼ばれることも。


 この州でシラーが栽培され始めたのは1921年と歴史は浅いが、ここ20年で栽培面積が4倍に増えている。ヴァレンティーナ自身もシラーのポテンシャルはとても高いと感じているそうだ。


ルーマニア出身 母国の土着品種にも挑戦


 夏は畑仕事で忙しく、冬は醸造に気を使う繊細なプティット・アルヴィンから目を離せず、なかなかルーマニアには帰れない。ゼロからスタートし、ここまでくるのは相当な苦労があったと想像するが、成功の秘訣を聞くと「好きだから。」と一言。


 今挑戦しているのはルーマニア品種の栽培。バベアスカ・ネアグラ(Babeasc? neagra)とフェティアスカ・ネアグラ(Feteasca Neagra)の黒ブドウ2種に取り組んでいる。テロワールがどのように表現されるのか楽しみにしている。シラーのようにこの土地に根付くかもしれない。エキサイティングなワインがまた生まれそうだ。


ワインの試飲コメントは以下の通り。


「Chasselas Les Comballes (シャスラ レ・コンバル)AOC Valais 2018」シャスラ100% 傾斜50%のマルティニーの花崗岩の畑。フルマロ、バリックとステンレスタンクで熟成。レ・コンバルと呼ばれる単一畑。マルティニー花崗岩土壌はミネラル感をワインに与え、暑いこの土地でも快活さを保てる。イエローゴールド色。快活な酸とミディアムの強さのアロマから柑橘類、アプリコット、カモミールなど表れるミディアムボディ。長いフィニッシュには心地よい苦味が感じられる。アルコール13%。


「Humagne Blanche (ユマーニュ・ブランシュ)AOC Valais 2019」ユーマーニュ・ブランシュ100% 。スイスで最も古いブドウ。粘土石灰土壌シスト。アンフォラで醸造・熟成。レモン色で高い酸と共にレモン、グレープフルーツなどの柑橘類が生き生きと表れる軽やかなドライのミディアムボディ。テロワールをよく映し出す品種だという。アルコール13%。


「Petite Arvine (プティット・アルヴィン) AOC Valais 2018」プティット・アルヴィン100%  マルティニーの花崗岩の畑。バリックとステンレスタンクで熟成。レモン色で快活な酸、フローラル、アプリコット、スモーキーなアロマが表れるミディアムボディのドライな味わい。フィニッシュにはミネラルや心地よい苦味を感じさせる。プティット・アルヴィンはシャスラより酸が2倍高く、繊細で栽培や醸造がとても難しい品種だという。2-3年熟成を経るとリースリングのようなペトロールを感じることがある。アルコール14.5%。


「Petite Arvine Combe de Noutse (プティット・アルヴィン コンブ・ドゥ・ヌス 2019)AOC Va-lais」プティット・アルヴィン100% フリィの花崗岩の畑。コンブ・ドゥ・ヌスという単一畑。バリックとステンレスタンクで熟成。レモン色で高い酸と共に熟した黄色の果実や花のアロマが表れるドライでミディアムボディの味わい。フィニッシュには塩味を感じさせる。長期時熟成が可能なワイン。アルコール14%


「Paien(パイエン)AOC Valais 2019」フルマロ。バリックとステンレスタンクで熟成。パイエンはサヴァニャン・ブランのヴァレー州での名称。ゴールド色でミディアムの酸と共に洋ナシ、アプリコット、パイナップルのアロマが溢れる、ドライでミディアムボディの味わい。フィニッシュは快活で余韻長く続く。プティット・アルヴィンより長く熟成ができる複雑なワイン。アルコール14%。


「Gamay Combe de Noutse(ガメインブ・ドゥ・ヌス) AOC Valais 2019」ガメイ100%。フリィの花崗岩の畑。コンブ・ドゥ・ヌスという単一畑。バリックで熟成。ルビー色でレッドベリーやブラックベリーが生き生きと溢れるライトボディの味わい。繊細なタンニンが軽やかなボディとバランスがとれている。ミディアムのフィニッシュに続く。アルコール13.7%


「Rouge de pays (ルージュ・デュ・ペイ)AOC Valais 2019」ルージュ・デュ・ペイ(コーナランのヴァレでの古い名称)100%。シャモソンの石灰土壌の畑。バリックで熟成。濃厚なルビー、豊かなアロマからブルーベリー、サワーチェリー、枯葉、スパイスが溢れるフルボディの味わい。熟した豊富なタンニンと緊張感のある酸のバランスが良い。ビロードのような質感をもち快活なフィニッシュに続く。アルコール13.7%


「Syrah(シラー)AOC Valais 2019」シラー100% マルティニーの花崗岩の畑。樹齢45-65年。バリックで熟成。ミディアムのルビー色で凝縮したアロマからブラックチェリーなどの黒の果実、スパイス、なめし革が表れ、豊富できめ細やかなタンニンをもつ。フレッシュさが溢れるミディアムボディの味わい。長いスパイシーなフィニッシュに続く。アルコール13.5%


日本未入荷


text&photo by 長縄三世

サイオンの畑。 アクセスも作業も困難な畑。(c) Andrei
ヴァレンティーナ。エチケットはワインの味わいに合わせてブドウの葉や土などを版画にし個性を表現してている
フリィのコンブ・ドゥ・ヌスの畑。一番高い場所に古樹のガメイの畑がある。(c)Valentina Andrei
サイオンの畑(c)Valentina Andrei

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