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フランスはやはり食いしん坊の国だ。どんな田舎に行っても気の利いたレストランがある。アヴィニヨンから小1時間。ワイナリーとブドウ畑しか目につかない小さな村にも、うならされる1つ星レストランがあった。その名を「ルスタレ」(L'Oustalet)。南部ローヌで勢力を誇るペラン家が経営している。
ジゴンダスの目抜き通りはわずか100m。村で1軒の乾物屋兼郵便局と雑貨屋くらいしかない。そこに、ルスタレもある。客もスタッフも大半が顔見知りだ。2019年版ミシュランで1つ星に輝いた。1つ星は「近くに訪れたら行く価値のある優れた料理」と定義されている。確かにその通り。一度ならず、また訪れたくなるお皿ばかりだった。
プロヴァンスがすぐ南にある土地柄ゆえ、料理はイタリアンタッチ。アミューズは、タップナードをまぶしたグリッシーニとレモンタイムのせんべい。軽くて、薫り高い。いきなり食べすぎて困る。前菜は花ズッキーニとアーモンドミルク。フレッシュな花の香りにバジルのタッチが加わり、ミルキーで優しい味わい。暑い畑でほてった体を、リフレッシュしてくれた。
主菜は地元リュベロン産のホロホロ鳥。甘くてほろ苦いキャラウェイ風味。スパイシーなトマトとニンニクのコンフィ、ひなたくさいスペルト小麦と合わせる。ジューシーで淡白な肉を、旨みのある抑制されたソースでアクセントをつけてふくらませている。柔らかくて、気品がある。ジゴンダスの赤ワインと継ぎ目なくつながった。
デザートはシャーベットとタピオカ入りのフロマージュ・ブラン。ユーカリのメレンゲとキラキラ輝くセージを添えて。セージは精巧に細工された工芸品のようだ。味わいは優しく、体に自然に吸い込まれていく。
どの料理も軽快で、精妙にスパイスをきかせて、土地の個性を表現している。食材や味付けがどこから来たのか、思いを巡らせずにはいられない知的な料理だった。
体の疲れないこのピュアな料理を供するレストランで一緒にランチしたのは、ジゴンダスの「ムーラン・ド・ラ・ガルデット」の当主ジャン・バティスト・ミュニエ。伝統的な造りで力強さと繊細さを兼ね備えるワインを造っている。日本に輸入されていないのは残念だ。
ミュニエは1982年、カルカッソンヌで醸造を修め、カリフォルニアやシャトー・ヌフ・デュ・パプで修行。1990年に家業に参画した。全房発酵比率が高く、コンクリートタンクで発酵させ、50ヘクトリットルのフードルとピエスで熟成する。オーガニックの認証を得ている。
「ムーラン・ド・ラガルデット ジゴンダス・トラディション 2017」(Moulin de la Gardette Gigondas Tradition 2017)はスミレ、ブラックチェリー、エスプレッソ、濃厚な色調だが、ジューシーで、フレッシュな果実が踊る。なめらかなテクスチャー。全房発酵100%からくるスパイシーなうまみがあり、フィニッシュはキレがある。グルナッシュ80%、ムールヴェドルとサンソーが各10%。91点。
「ムーラン・ド・ラガルデット ジゴンダス・ヴェンタブレン 2017」(Moulin de la Gardette Gigondas Ventabren 2017)は樹齢80-100年のグルナッシュ70%、シラー20%、サンソー10%。凝縮度が高く、ブラックチェリー、ブラックタップナード、ローズマリー、クリーミィなテクスチャー、大柄ではなく、ピュアで緊張感をはらんでいる。アルコール度は14.5%。フィニッシュはやや熱さが残るが、ミネラル感に富んで、きれいに伸びる。収量は15hl/ha。93点。
最後に古いヴィンテージ。「ムーラン・ド・ラガルデット ジゴンダス・ヴェンタブレン 2010」(Moulin de la Gardette Gigondas Ventabren 2010)はブラックチェリーのコンポート、砕いた石、なめし革、ややアルコリックだが、生き生きしていて、スパイシー。タバコ、炭、しなやかなテクスチャー、ジューシーで長い。きれいに統合されていて、さらなる熟成が可能。93点。
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