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フランスのワインとガストロノミー(美食)の歴史に足跡を残すレストラン「タイユヴァン」グループの総支配人でソムリエのアントワーヌ・ペトリュスが来日した。35歳で名門レストランを指揮するレストラトゥールに、ペアリングやキャリアについて聞いた。
パリのタイユヴァンは1946年にオープン。73年に2代目のジャン・クロード・ヴリナが3つ星を獲得し、2007年まで保った。2008年にがんで亡くなったヴリナは、パリのグランゼコール「HEC」で学んだエリート経営者だが、独学でワインを習得した。50年代からラヴノーやジャイエらブルゴーニュのドメーヌだけでなく、ロワール、ラングドックなど各地から生産者を発掘した。フランスを代表するテイスターとして名を刻み、1976年のパリテイスティングの審査員も務めた。
そのヴリナの遺産と才能を継承するのがペトリュスだ。2007年にフランス最優秀若手ソムリエ(リュイナール杯)に輝き、08、10、12年とフランス最優秀ソムリエコンクールのファイナリストに残った。11年に27歳の若さでソムリエとしてフランス国家最優秀職人章(MOF)を受賞した。パリのガストロノミー・レストラン「タイユヴァン」、カジュアルな「110・ド・タイユヴァン」のパリとロンドン店、ワインショップ「レ・カーヴ・ド・タイユヴァン」のパリ、ベイルート、東京店を指揮している。ヴリナ家からグループを買収したガルディニエ家から全幅の信頼を置かれている。
ポール・ボキューズでキャリアを始め、ラセール、エル・ブジ、アラン・デュカス、オテル・クリヨンなどの名店で働いてきたペトリュスは、各国を飛び回る優秀な経営者であり、ワインと料理のペアリングに情熱を傾けるソムリエでもある。フランス各地の畑と蔵を毎月のように訪問し、造り手を発掘している。ヴリナが構築したパリ近郊のブジバル・カーヴで熟成される40万本のワインを定期的に試飲し、古酒の飲み頃をチェックしている。年間に試飲するワインは6000種。「働いている時は、ヴリナがそばにいて精神が伝わってくるような気分になる」と言う。
ペトリュスは「食とワインの調和」というタイウヴァンの哲学を忠実に受け継いでいる。「レ・カーヴ・ド・タイユヴァン東京」(日本橋高島屋)では、ペアリングセミナーを行った。使ったグラスはオーストリアのザルト。ワインの風味を最も正確に引き出すからという。
山菜のベーニェには「コレクション・タイユヴァン シャンパーニュ ブリュット」を合わせた。天ぷらのようなサクサクした揚げ物には、シャンパーニュのクリスピーな食感が相乗する一方で、脂を切って口中をニュートラルにしてくれる効果もある。
「コレクション・タイユヴァン シャンパーニュ ブリュット NV」(Collection Taillevent Champagne Brut NV)はレモンの皮、柑橘、ポーチした洋ナシ、生き生きした酸がありフレッシュ。チョーキーなテクスチャー、空気に触れて丸くなり、トースティなタッチに、ほのかなほろ苦みが加わり、複雑さを増す。精妙で正確。3品種を等分にブレンド。ドゥーツに生産委託しているが、ドゥーツのNVよりドザージュを6g/lに減らすよう特別注文している。エクストラ・ブリュットも名乗れるレベルで、焦点が合っている。アペリティフにも料理との合わせにも、使いやすい。8500円。91点。
根セロリのブラマンジェにはタルデュー・ローランのコート・デュ・ローヌ・ギィ・ルイ・ブラン2016を合わせた。料理のなめらかなテクスチャーとクリーミィな味わいが、白ワインのまろやかな風味と調和した。
「タルデュー・ローラン コート・デュ・ローヌ・ギィ・ルイ・ブラン 2016」(Tardieu-Laurent Cotes-du-Rhone Guy Louis Blanc 2016)はフローラルで、柑橘、マンゴ、フェンネル、柔らかい果実味があり、マシュマロのようなテクスチャー、フレッシュな酸に支えられ、石をなめるようなほろ苦さを伴うフィニッシュ。2016は優良なヴィンテージだが、熱すぎない上品なバランス。ルーサンヌ、マルサンヌ、クレレット、ヴィオニエをブレンドし、フードルで熟成。3600円。90点。
牛フィレ肉のポワレ グラタン・ドフィノワ添えは王道のボルドーと。シャトー・フェラン・セギュール2011のほのかに厳格さを帯びた味わいとマッチした。
「シャトー・フェラン・セギュール 2011」(Chateau Phelan Segur 2011)はレッドベリーにブラックカランとが交じり、リコリス、ほのかにゲイミー、熟成によって、タンニンが丸くなり、統合されている。適度な凝縮度とストラクチャーがあり、サンテステフらしいやや重さのあるフィニッシュ。7500円。89点。
ペトリュスは食事するたびに料理を撮影し、毎日ブラインド・テイスティングを欠かさず、感覚を研ぎ澄ませている。タイユヴァンの料理も細かくチェックして、アドバイスを出す。タイユヴァンは、フランス、イタリア、スペイン、ドイツ、オーストリアのハウスワイン40種を常備し、幅広い料理と顧客に対応する。客席の外国人比率は50%以下に抑え、パリの社交場としての優雅な雰囲気を保っている。
「ワインの前では常に生徒でいる。ボスになると何かを見失ってしまう。ラヤスやダギュノーら優れた造り手もテロワールに語らせる姿勢を崩さない。常に謙虚である必要がある」
タイユヴァンは昨年9月にシェフが交代し、2019年のミシュランで星を減らしたが、有能な若手のシェフが入り、巻き返しに対する不安はないという。個人的な好みのシャンパーニュは、グローワーならジャック・セロスとエグリ・ウーリエ、メゾンならシャルル・エドシックだという。
問い合わせはエノテカ。
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