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21日に発表されたフランスのミシュランガイド 2019年が、大きな衝撃を与えている。これまでと違う評価基準が導入されたとしか思えない。昨年までディレクターを務めていたミカエル・エリスが退任し、グウェンデル・プーレネックが9月から後任になったのがその理由の1つだろう。
驚かされたのは、星を獲得したレストランよりも落とされた方である。発表前日の真夜中に、ジャーナリストによって星を失ったレストランがリークされた。51年間と、ポール・ボキューズの次に長く3ツ星を保持していた、アルザスの「オーベルジュ・ド・リル」が降格されたのはショックだった。サヴォワのマルク・ヴェイラ(ラ・メゾン・デ・ボワ)も1年だけの3ツ星で降格された。
新ディレクターのプーレネックは「ミシュランの3ツ星の評価は1年ごとに更新されるもので、永遠に続くわけではない」と述べており、『星を獲得したからといって、精進を怠るな』という警告のようにも聞こえた。
個人的に最も驚いたのが「アストランス」の2つ星降格である。クリエイティブ心の塊であるパスカル・バルボは、旬の食材を使ったカルト・ブランシュのみで、2007年に3ツ星を獲得した。新しい料理のスタイルが認められ、1つの時代を築いたシェフだった。
カルト・ブランシュはいわゆるおまかせ。店側は最も旬の素材を、最適な火入れで、無駄なく出せる。これによって、サービスの始まる前から肉の長い火入れが可能になった。このスタイルで提供するレストランは日本人ばかり。フランス人シェフは少ない。1ツ星をとった日本人シェフのほとんどが、このカルト・ブランシュ・スタイルで、彼からの大きな影響を受けている。時代は変わろうとしているのだろうか?
また、2ツ星から1ツ星へと降格された、パリの「カレ・デ・フイヤン」と「タイユヴァン」はいずれもワインリストで定評のあるレストランだった。もはや、ワインリストの良さは星の評価には影響しないことが裏付けされる結果となった。
新たに星を獲得した店は、パリ8区の会場での発表となった。2ツ星、3ツ星の発表は前年と同じく、完全に秘匿されていて、星獲得がアナウンスされると、皆感極まったという印象で、涙を流す姿が見られた。10数年前は、発表会すらなくて非常に素っ気なかったものだが、ミシュランもメディアチックになったものである。
新しい3ツ星を、サヴォワの「クロ・デ・サンス」(ローラン・プティ)とプロヴァンスの「ミラズュール」(マウロ・コラグレコ)が獲得。今年のミシュランの評価基準は内装やワインよりも、お皿によりウェイトが置かれている印象である。綺麗なクロスの引かれたテーブルに、細々したサーヴィスに重きを置いている店よりも、美しさ、味わい、火加減、オリジナリティーのあるお皿を出している店が星を獲得したようだ。
ビストロ・スタイルのレストランが星を獲ったことも多くの関係者に衝撃を与えている。「ミシュランが2017年に買収したフーディング・ガイドの基準が影響しているのでは」とも語られた。何はともあれ、タイユヴァンやトゥール・ダルジャンなど元3ツ星店と、街場で評価をあげてオープンしたばかりの小さな店の評価が、料理の純粋な品質という点で同じ評価基準になったのは、賛否両論がでて仕方ないかもしれない。
今年3ツ星に輝いたマウロ・コラグレコはアルゼンチン人であり、史上初の外国人3ツ星シェフである。ほかにも、タイ人、ブラジル人、メキシコ人、アルゼンチン人の1ツ星シェフが誕生した。そして、もはや毎年のことではあるが、今年は9人の新しい日本人シェフが星を獲得した。それだけではない。日本人がオーナーのレストラン1軒と、日本人が実質的にシェフとして腕をふるっていたレストランがあと2軒、それぞれ1ツ星となっている。星を失った日本人シェフはいない。
今年1ツ星を獲得したレストラン「ピルグリム」の齋藤照允シェフに今年のミシュランの抱負を聞いた。
齋藤シェフは岡山県出身。東京の「ブノワ」で働いた後、渡仏して「グラン・ヴフール」「マンダリン・オリエンタル」など高級メゾンで働いた。「ブルー・ヴァレンタイン」でシェフとして腕をふるった後、パリの1ツ星レストラン「ネージュ・デテ」の2号店「ピルグリム」のシェフとして抜擢される。2018年1月にオープンい、若干1年で1ツ星獲得の快挙であった。
ミシュランの一ツ星獲得おめでとうございます。
「やっとスタート地点に立った気分です。しっかりと準備をして、チームをそろえ、当たり前のことを当たり前のようにこなしたので、星をいただくことができました。色々な批判があるとはいえ、ミシュラン・ガイドに評価されるのは、とても重要なことです。レストランの認知度も上がりますし、外国からもたくさんお客様が来てくれるようになる。次のステージに登るための投資もできるようになります。ここまで来たら、2ツ星を目指すのは当然です」
レストランでは、どのような料理作りを心がけておられますか?
「基本はクラシックに準じています。味と見た目、そしてほんのちょっとの驚き。季節の食材を使うのはもう当たり前ですが、材料の一部として食材を探すのではなく、一つの食材からインスピレーションを得て、一つの料理を完成させるようにしています。食べてわかりやすい料理ですね。手を加えつつ、でもそれを食べた時に、その食材の味がわかるような。客層もほとんど、フランス人だし、せっかくフランスにいるのだから、現地の人に喜んでもらえるような料理作りを心がけています」
最近のフランスにおける変化を感じますか?
「エキゾチックだとされていた食材がそうでなくなってきて、グローバル化が進んでいると感じます。ひと昔前は、醤油やワサビは、フランスでは一般的なものではなかったのですが、今では普通にスーパーでも見かけるし、それらを使うことはもはやモダンであることを意味しなくなってきました」
彼の話をうかがっていると、日本人であるとか、フランス人であるとかではなく、時代の要求に沿った料理を作り続けることが、評価を得ることだとわかる。食材に対するアプローチも、ワイナリーを購入したばかりの生産者が、そこに元から植わっている品種の味わいを追求するようなものだと感じた。
ブルゴーニュで長年研修しても、違う土地でワイン造りをするなら、それまでのやり方でやってはいけない。どんなに、『シャンボール・ミュジニー』が好きでも、礫土壌にカベルネ・ソーヴィニョンが植えられた場所で、『シャンボール・ミュジニー』はできない。現代の機材と、テクニックで、その素材が持つ最大の表現を模索する。そういう風に考えると、造り手の個性よりも、畑の個性を重視するというフランス的ワイン思想に、ミシュランの評価基準は近くなっているのかもしれない。
Restaurant Pilgrim
Adresse: 8, rue Nicolas Charles
Tel: 0140290971https://www.pilgrimparis.com/
驚かされたのは、星を獲得したレストランよりも落とされた方である。発表前日の真夜中に、ジャーナリストによって星を失ったレストランがリークされた。51年間と、ポール・ボキューズの次に長く3ツ星を保持していた、アルザスの「オーベルジュ・ド・リル」が降格されたのはショックだった。サヴォワのマルク・ヴェイラ(ラ・メゾン・デ・ボワ)も1年だけの3ツ星で降格された。
新ディレクターのプーレネックは「ミシュランの3ツ星の評価は1年ごとに更新されるもので、永遠に続くわけではない」と述べており、『星を獲得したからといって、精進を怠るな』という警告のようにも聞こえた。
個人的に最も驚いたのが「アストランス」の2つ星降格である。クリエイティブ心の塊であるパスカル・バルボは、旬の食材を使ったカルト・ブランシュのみで、2007年に3ツ星を獲得した。新しい料理のスタイルが認められ、1つの時代を築いたシェフだった。
カルト・ブランシュはいわゆるおまかせ。店側は最も旬の素材を、最適な火入れで、無駄なく出せる。これによって、サービスの始まる前から肉の長い火入れが可能になった。このスタイルで提供するレストランは日本人ばかり。フランス人シェフは少ない。1ツ星をとった日本人シェフのほとんどが、このカルト・ブランシュ・スタイルで、彼からの大きな影響を受けている。時代は変わろうとしているのだろうか?
また、2ツ星から1ツ星へと降格された、パリの「カレ・デ・フイヤン」と「タイユヴァン」はいずれもワインリストで定評のあるレストランだった。もはや、ワインリストの良さは星の評価には影響しないことが裏付けされる結果となった。
新たに星を獲得した店は、パリ8区の会場での発表となった。2ツ星、3ツ星の発表は前年と同じく、完全に秘匿されていて、星獲得がアナウンスされると、皆感極まったという印象で、涙を流す姿が見られた。10数年前は、発表会すらなくて非常に素っ気なかったものだが、ミシュランもメディアチックになったものである。
新しい3ツ星を、サヴォワの「クロ・デ・サンス」(ローラン・プティ)とプロヴァンスの「ミラズュール」(マウロ・コラグレコ)が獲得。今年のミシュランの評価基準は内装やワインよりも、お皿によりウェイトが置かれている印象である。綺麗なクロスの引かれたテーブルに、細々したサーヴィスに重きを置いている店よりも、美しさ、味わい、火加減、オリジナリティーのあるお皿を出している店が星を獲得したようだ。
ビストロ・スタイルのレストランが星を獲ったことも多くの関係者に衝撃を与えている。「ミシュランが2017年に買収したフーディング・ガイドの基準が影響しているのでは」とも語られた。何はともあれ、タイユヴァンやトゥール・ダルジャンなど元3ツ星店と、街場で評価をあげてオープンしたばかりの小さな店の評価が、料理の純粋な品質という点で同じ評価基準になったのは、賛否両論がでて仕方ないかもしれない。
今年3ツ星に輝いたマウロ・コラグレコはアルゼンチン人であり、史上初の外国人3ツ星シェフである。ほかにも、タイ人、ブラジル人、メキシコ人、アルゼンチン人の1ツ星シェフが誕生した。そして、もはや毎年のことではあるが、今年は9人の新しい日本人シェフが星を獲得した。それだけではない。日本人がオーナーのレストラン1軒と、日本人が実質的にシェフとして腕をふるっていたレストランがあと2軒、それぞれ1ツ星となっている。星を失った日本人シェフはいない。
今年1ツ星を獲得したレストラン「ピルグリム」の齋藤照允シェフに今年のミシュランの抱負を聞いた。
齋藤シェフは岡山県出身。東京の「ブノワ」で働いた後、渡仏して「グラン・ヴフール」「マンダリン・オリエンタル」など高級メゾンで働いた。「ブルー・ヴァレンタイン」でシェフとして腕をふるった後、パリの1ツ星レストラン「ネージュ・デテ」の2号店「ピルグリム」のシェフとして抜擢される。2018年1月にオープンい、若干1年で1ツ星獲得の快挙であった。
ミシュランの一ツ星獲得おめでとうございます。
「やっとスタート地点に立った気分です。しっかりと準備をして、チームをそろえ、当たり前のことを当たり前のようにこなしたので、星をいただくことができました。色々な批判があるとはいえ、ミシュラン・ガイドに評価されるのは、とても重要なことです。レストランの認知度も上がりますし、外国からもたくさんお客様が来てくれるようになる。次のステージに登るための投資もできるようになります。ここまで来たら、2ツ星を目指すのは当然です」
レストランでは、どのような料理作りを心がけておられますか?
「基本はクラシックに準じています。味と見た目、そしてほんのちょっとの驚き。季節の食材を使うのはもう当たり前ですが、材料の一部として食材を探すのではなく、一つの食材からインスピレーションを得て、一つの料理を完成させるようにしています。食べてわかりやすい料理ですね。手を加えつつ、でもそれを食べた時に、その食材の味がわかるような。客層もほとんど、フランス人だし、せっかくフランスにいるのだから、現地の人に喜んでもらえるような料理作りを心がけています」
最近のフランスにおける変化を感じますか?
「エキゾチックだとされていた食材がそうでなくなってきて、グローバル化が進んでいると感じます。ひと昔前は、醤油やワサビは、フランスでは一般的なものではなかったのですが、今では普通にスーパーでも見かけるし、それらを使うことはもはやモダンであることを意味しなくなってきました」
彼の話をうかがっていると、日本人であるとか、フランス人であるとかではなく、時代の要求に沿った料理を作り続けることが、評価を得ることだとわかる。食材に対するアプローチも、ワイナリーを購入したばかりの生産者が、そこに元から植わっている品種の味わいを追求するようなものだと感じた。
ブルゴーニュで長年研修しても、違う土地でワイン造りをするなら、それまでのやり方でやってはいけない。どんなに、『シャンボール・ミュジニー』が好きでも、礫土壌にカベルネ・ソーヴィニョンが植えられた場所で、『シャンボール・ミュジニー』はできない。現代の機材と、テクニックで、その素材が持つ最大の表現を模索する。そういう風に考えると、造り手の個性よりも、畑の個性を重視するというフランス的ワイン思想に、ミシュランの評価基準は近くなっているのかもしれない。
Restaurant Pilgrim
Adresse: 8, rue Nicolas Charles
Tel: 0140290971https://www.pilgrimparis.com/
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