アンダーソンヴァレーから驚異のケイネズ

　カリフォルニアの冷涼ワインを探す場合、産地は重要なポイントになる。代表産地に、アンダーソン・ヴァレー、ソノマ・コースト、ロシアン・リヴァー・ヴァレー、カーネロス、サンタ・リタ・ヒルズがある。

　カリフォルニア・ワインズ・サミットで、ピノ・ノワールを北から南に概観するブラインド試飲で、おおまかにつかめた。アンダーソン・ヴァレーからサンタ・バーバラ郡まで760キロ。太平洋の寒流の影響を受けたピノ・産地が南北に伸びている。多様性とはこのことだ。

　北端のアンダーソン・ヴァレーは、シャンパーニュのルイ・ロデレールが、ロデレール・エステートを設立したほど涼しい産地。5月の遅霜を心配しなければならないとは、シャブリのようだ。2008年と2001年は、収穫量を大きく減らしたと、ワインメーカーで副社長のアルノー・ワイリッチから聞いた。

　そんな土地からスティルワインを造ろうという生産者は根性がある。サミットで発見したのがケイネズ。元トレーダーのピーター・ケイネズが、デムス・ヴィンヤードとセリーズ・ヴィンヤードを購入して始めた。栽培から醸造まで手がけるのは珍しい。セリーズはリトライのテッド・レモンも手がける有名な畑だ。デムスは500メートル前後の標高の樹齢30年の畑。ワインメーカーはソノマ出身の若手アンソニー・フィリベルティ。

　緑がかった淡い黄色。硬い。洋ナシ、濡れた小石、塩キャラメル、ブラウンバターの香り。アタックは控えめだが、中間からのふくらみが大きく、余韻がきれいに伸びる。透明な酸とミネラル。ルーロのムルソーを思い出させる繊細さとスケーを感じた。抑制されているが、熟した果実を秘めている。5年ほど寝かせたい。

　全房でプレスし、自然酵母で35％新樽のフレンチオークで発酵する。オールド・ウェンテ・クローンを灌がいせず栽培している。ドライ・ファーミングは、意欲的な若手生産者が取り組んでいる。灌がいすると、アルコール度と酸度の両方を下げる。全房発酵する場合は、茎に水分が残り、香りを弱める問題もある。

　この美しいワインが3600円とは。ブルゴーニュ愛好家は見逃してはいけない。

（2013年12月　自宅で）
ケイネズ・ワイナリー　シャルドネ　デムス・ヴィンヤード　2011
購入：楽天市場　3600円
輸入元：フィラディス　
週に一度は飲みたい度：92点