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中世に教皇府のあったアヴィニョンでは、夏になると盛大な演劇祭「Festival d’Avignon」が開かれる。毎年、演劇祭公式ワインとして、赤、白、ロゼの三種類のAOCヴァケラスが選ばれる。この由緒あるワイン選定審査員として、ヴァケラス・ワイン協会に招かれ、アヴィニョンへ赴いた。雨がちで寒かった冬がようやく明け、快晴の春を迎えたばかりの町中では、プラタナスの白い胞子が舞い、雪が舞っているかの様だった。
ヴァケラス(Vacqueyras)はアヴィニョン市の北38kmに位置するアペラシオンである。ヴォークリューズ県のヴァケラスとサリアンの2つのコミューンから生まれる。ダンテル・ド・モンミライユ山塊の麓にあり、この山塊を軸に、北はジゴンダス、南はボーム・ド・ヴニーズに挟まれている。面積は1441haで、南ローヌの中ではヴァントゥー、コスティエール・ド・ニーム、リュベロン、シャトーヌフ・デュ・パープに次いで5番目に大きい。南北あわせても第6位。
地中海性気候で、日照時間は年間2800時間。平均降雨量は693mm、ミストラル(年間100日)の影響があり、風が強い。ローマ時代からワイン造りがされてきた形跡はあるものの、中世は麦畑が主に広がっていたという。1596年に、60haあまりのブドウ畑の記録はあるものの、現在に比べると細々としたものであったことがわかる。95%が赤ワインで、白が4%、ロゼが1%と、3種類をアペラシオンで名乗れるのは珍しい。1つのリージョン内に多彩な土壌があるということである。赤ワインは、グルナッシュ品種は最低50%必要だが、シラーとムールヴェードルも合わせて20%は入れなくてはならない。
「法制化が最も早かったシャトーヌフ・デュ・パープと違って、1990年にAOC入りしたので、多くの規制がある。単一品種でワインが造れなかったりね。ひどいのが、カリニャンが良くないとされ、使用品種から外され、この品種があるとAOC入りできないと脅されたから、皆が古樹を引き抜いた。しかし20年経って、カリニャンのポテンシャルに気づくと、今更ブレンドしてもよくなったんだ」とある生産者は呟いていた。
隣のシャトーヌフの成功に触発されてか、グルナッシュ100%のワイン造りに対する関心も高くなっている。
ヴァケラスの畑は大まかに3つの区画に分かれる。ダンテル・ド・モンミライユ山塊の下部からヴァケラス市にかけての石灰質の区画。市北部の比較的若い地層の堆積した土壌。そして、最も重要な区画は、サリアン村に連なるガリーグ台地で、ほとんどの所有者は全体の65%を占めるこの台地からワインを作っている。
ヴァケラスはラテン語のヴァレ・クアドレリア(Vallee Quadreria)「石ころの谷」が語源になっているように、ガリーグ台地はリス氷河期にオーベーズ河に沿って堆積した石ころの多い礫土壌である。一見して、シャトーヌフ・デュ・パープの礫土壌に似ているようで、実は大きく異なっている。
ローヌ地方の地質学の権威である、ジョルジュ・トルック氏にお会いする機会を得て、これらの地質の違いについてご教授いただいた。
「ヴァケラスの石は石灰質の石ころで、時折シレックスも見られる。副アルプス山系のバロニー山からリス氷河期の時代に削られ、丸められた石ころで形成された土壌。純粋な石灰質の礫で、珪岩や花崗岩、ミカシストは含まれない。ワインは甘味のない、ザラついたタンニンの、力強い、ある種のミネラル分に富んだワインとなる」
「シャトーヌフの土壌はもっと古いヴィラフランシアン紀のもので、石ころも珪岩(石英の岩)が多い。アルプス山脈全体から流れ着いた石灰岩、花崗岩、ミカシスト、砂岩、珪岩の礫を、気候変動が粉々に分解し、硬度のある珪岩の礫だけ残り、それ以外の岩石は豊富な粘土質を生んだ。がっしりと強靭で強く、甘い味わいだが、石灰質の欠如によってミネラル分は少ないのが特徴」
シャトーヌフの土壌の方がヴァケラスの土壌よりもミネラル分が少ないということはあるのだろうか、と伺ってみた。
「シャトーヌフとヴァケラスにおけるヒエラルキーの差はない。スタイルがあまりにも違う。特に、最初のアタックの味わいとタンニンに大きな違いを感知できる」
一般に、密度がある濃厚で、リッチなシャトーヌフのイメージと対照的に、ヴァケラスはよりミネラリーであり、柔らかい味わいであると考えられる。同じような2つの礫土壌も、ヴィラフランシアン(360-78万年前)氷河期にローヌ河で堆積した礫とリス氷河期(25-12万年前)にローヌ支流のオーベーズ河で堆積した礫という2つの時代の違いが、味わいの差異を生むのは興味深い。
さて、公式ワイン選定試飲会はすべてブラインドで行われた。前もって委員会によって選抜された、白5種類、ロゼ4種類、赤12種類を試飲したが、いずれも高品質なものばかりであった。
今年選ばれたワインは以下の3つ。
白
「テロワール・ダロントン 2017 ロネア」(Terroir Daronton blanc 2017 Rhonea)
緑混じりの輝きのある黄色。透き通った色調。洋梨と、あまり熟していない果実のアロマ。力強く、丸く、塩味があり、ミネラリー。可愛らしい果実味のフィニッシュ。ロネアはヴァケラス市にある南ローヌ最大の協同組合。資金力の高さから、最新設備の整った環境からワイン造りが行われる。
ロゼ
「ロワイヤル・サンセット2017 ドメーヌ・ド・ラ・ヴェルド」(Royal Sunset Rose 2017 Domaine de la Verde)
サーモンピンク。フランボワーズのジュースと柑橘が香る。フレッシで少し甘い。少しネットリした味わい。3代続く、家族経営の造り手。村北部のやや軽い土壌から、繊細なスタイルのワインを生む。
赤
「ル・ムードル・ド・ラ・カイユ 2016 ドメーヌ・ラ・リジエール」(Le moudre de la Caille rouge 2016 Domaine La Ligiere)
少し濃い目のガーネット色。胡椒とヴィオレットが香る、整った綺麗な香り。フレッシュで活き活きした酸があり、タンニンソフトで、チョコレートのヒント。ガリーグ台地の中にワイナリーがある家族経営の造り手。その果実味に富んだ赤ワインは、審査員の間でもほぼ満場一致の評価を得た。
ヴァケラスは、太陽が恋しくなった時に飲みたくなるワインだ。ペタンクに興じる年配のフランス人たちを眺めながら、テラスで気軽に飲むロゼ。野外のバーベキューに誘われた時に持参したくなる赤。南仏野菜をからめたニンニクたっぷりのアンショワードに合わせて飲む白。炎天下の日の様々な用途に合わせて。まさにヴァケラスは夏のワインである。
ヴァケラス(Vacqueyras)はアヴィニョン市の北38kmに位置するアペラシオンである。ヴォークリューズ県のヴァケラスとサリアンの2つのコミューンから生まれる。ダンテル・ド・モンミライユ山塊の麓にあり、この山塊を軸に、北はジゴンダス、南はボーム・ド・ヴニーズに挟まれている。面積は1441haで、南ローヌの中ではヴァントゥー、コスティエール・ド・ニーム、リュベロン、シャトーヌフ・デュ・パープに次いで5番目に大きい。南北あわせても第6位。
地中海性気候で、日照時間は年間2800時間。平均降雨量は693mm、ミストラル(年間100日)の影響があり、風が強い。ローマ時代からワイン造りがされてきた形跡はあるものの、中世は麦畑が主に広がっていたという。1596年に、60haあまりのブドウ畑の記録はあるものの、現在に比べると細々としたものであったことがわかる。95%が赤ワインで、白が4%、ロゼが1%と、3種類をアペラシオンで名乗れるのは珍しい。1つのリージョン内に多彩な土壌があるということである。赤ワインは、グルナッシュ品種は最低50%必要だが、シラーとムールヴェードルも合わせて20%は入れなくてはならない。
「法制化が最も早かったシャトーヌフ・デュ・パープと違って、1990年にAOC入りしたので、多くの規制がある。単一品種でワインが造れなかったりね。ひどいのが、カリニャンが良くないとされ、使用品種から外され、この品種があるとAOC入りできないと脅されたから、皆が古樹を引き抜いた。しかし20年経って、カリニャンのポテンシャルに気づくと、今更ブレンドしてもよくなったんだ」とある生産者は呟いていた。
隣のシャトーヌフの成功に触発されてか、グルナッシュ100%のワイン造りに対する関心も高くなっている。
ヴァケラスの畑は大まかに3つの区画に分かれる。ダンテル・ド・モンミライユ山塊の下部からヴァケラス市にかけての石灰質の区画。市北部の比較的若い地層の堆積した土壌。そして、最も重要な区画は、サリアン村に連なるガリーグ台地で、ほとんどの所有者は全体の65%を占めるこの台地からワインを作っている。
ヴァケラスはラテン語のヴァレ・クアドレリア(Vallee Quadreria)「石ころの谷」が語源になっているように、ガリーグ台地はリス氷河期にオーベーズ河に沿って堆積した石ころの多い礫土壌である。一見して、シャトーヌフ・デュ・パープの礫土壌に似ているようで、実は大きく異なっている。
ローヌ地方の地質学の権威である、ジョルジュ・トルック氏にお会いする機会を得て、これらの地質の違いについてご教授いただいた。
「ヴァケラスの石は石灰質の石ころで、時折シレックスも見られる。副アルプス山系のバロニー山からリス氷河期の時代に削られ、丸められた石ころで形成された土壌。純粋な石灰質の礫で、珪岩や花崗岩、ミカシストは含まれない。ワインは甘味のない、ザラついたタンニンの、力強い、ある種のミネラル分に富んだワインとなる」
「シャトーヌフの土壌はもっと古いヴィラフランシアン紀のもので、石ころも珪岩(石英の岩)が多い。アルプス山脈全体から流れ着いた石灰岩、花崗岩、ミカシスト、砂岩、珪岩の礫を、気候変動が粉々に分解し、硬度のある珪岩の礫だけ残り、それ以外の岩石は豊富な粘土質を生んだ。がっしりと強靭で強く、甘い味わいだが、石灰質の欠如によってミネラル分は少ないのが特徴」
シャトーヌフの土壌の方がヴァケラスの土壌よりもミネラル分が少ないということはあるのだろうか、と伺ってみた。
「シャトーヌフとヴァケラスにおけるヒエラルキーの差はない。スタイルがあまりにも違う。特に、最初のアタックの味わいとタンニンに大きな違いを感知できる」
一般に、密度がある濃厚で、リッチなシャトーヌフのイメージと対照的に、ヴァケラスはよりミネラリーであり、柔らかい味わいであると考えられる。同じような2つの礫土壌も、ヴィラフランシアン(360-78万年前)氷河期にローヌ河で堆積した礫とリス氷河期(25-12万年前)にローヌ支流のオーベーズ河で堆積した礫という2つの時代の違いが、味わいの差異を生むのは興味深い。
さて、公式ワイン選定試飲会はすべてブラインドで行われた。前もって委員会によって選抜された、白5種類、ロゼ4種類、赤12種類を試飲したが、いずれも高品質なものばかりであった。
今年選ばれたワインは以下の3つ。
白
「テロワール・ダロントン 2017 ロネア」(Terroir Daronton blanc 2017 Rhonea)
緑混じりの輝きのある黄色。透き通った色調。洋梨と、あまり熟していない果実のアロマ。力強く、丸く、塩味があり、ミネラリー。可愛らしい果実味のフィニッシュ。ロネアはヴァケラス市にある南ローヌ最大の協同組合。資金力の高さから、最新設備の整った環境からワイン造りが行われる。
ロゼ
「ロワイヤル・サンセット2017 ドメーヌ・ド・ラ・ヴェルド」(Royal Sunset Rose 2017 Domaine de la Verde)
サーモンピンク。フランボワーズのジュースと柑橘が香る。フレッシで少し甘い。少しネットリした味わい。3代続く、家族経営の造り手。村北部のやや軽い土壌から、繊細なスタイルのワインを生む。
赤
「ル・ムードル・ド・ラ・カイユ 2016 ドメーヌ・ラ・リジエール」(Le moudre de la Caille rouge 2016 Domaine La Ligiere)
少し濃い目のガーネット色。胡椒とヴィオレットが香る、整った綺麗な香り。フレッシュで活き活きした酸があり、タンニンソフトで、チョコレートのヒント。ガリーグ台地の中にワイナリーがある家族経営の造り手。その果実味に富んだ赤ワインは、審査員の間でもほぼ満場一致の評価を得た。
ヴァケラスは、太陽が恋しくなった時に飲みたくなるワインだ。ペタンクに興じる年配のフランス人たちを眺めながら、テラスで気軽に飲むロゼ。野外のバーベキューに誘われた時に持参したくなる赤。南仏野菜をからめたニンニクたっぷりのアンショワードに合わせて飲む白。炎天下の日の様々な用途に合わせて。まさにヴァケラスは夏のワインである。
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