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ワイン界で最難関の資格マスター・オブ・ワイン(MW)の加盟するマスター・オブ・ワイン協会が、23日、東京・青山のJプレゼンスアカデミーで、MWの学習プログラムを紹介するセミナーを初めて開いた。MW協会はMWの受験生が増加中のアジアや米国で、今年からイントロダクション・セミナーを始め、予備軍を開拓している。日本でも開かれたのは、グローバルなエリート集団であるMWが意識する潜在市場になったことを示しており、歴史的な出来事ともいえる。
MWは1953年に初めて試験が行われ、28か国に370人が存在する。コンサルタントが最も多く、教育家、バイヤー、小売り商も多く、ワインメーカーは34人。半分以上が英国にベースを置き、13%が米国、6%がオーストラリアにベースを置く。日本で活動するのは大橋健一MWのみで、日本人としてはロンドンベースの田中麻衣MWがいる。最も若くして合格したのは28歳の香港ベースの女性サラ・ヘラーMW。
今回のセミナーは、MW予備軍を啓発し、間口をさらに広げるのが狙い。ロンドンの本部から教育プログラム開発の責任者オリヴィエ・チャップマンが、シンガポール、上海、香港、東京と2週間にわたり、アジアをツアーした。教育プログラムの研修生は40か国に350人いるが、中国や米国の関心が高まっている。中国と香港の研修生は計40人。日本は英国人1人と日本人3人の4人。チャップマンが全体の仕組みを説明し、大橋MWとMWに挑戦中の研修生、小原陽子さんが、体験を踏まえた心構えや必要な資質を付け加えた。2人の発言にはグローバルなエリートであるMWのものの見方が見え隠れしている。
教育プログラム入りする前提として、WSETのディプロマ資格が推奨されている。80%は有資格者だ。WSETで学んだことはMWのプログラムに役立つ。
プログラムはステージ1、ステージ2、ステージ3の3段階に分かれる。ステージ1は、オーストリア、オーストラリア、北米のいずれかの土地での5日間にわたる滞在型セミナー、メンターのMWの指導、産地旅行、ネットワーク作り、テイスティングとセオリー(理論)の基本の習得が主な内容。最終的に、テイスティング(プラクティカル)とセオリーの試験に合格しないと、ステージ2に進めない。ステージ1の合格率は70%だ。
小原さんは「教えてほしいという態度では通用しない。必要なことは自分で調べて、戦略も考える。そこが日本人にハードルが高いかもしれない。始めるタイミングもよく考えた方がいい」と心構えを説く。
ステージ1は不合格になっても、最長2年までしか伸ばせない。大橋MWは最初の2009年は、不合格になって落ち込んだ。「受動態でいると、時間が流れて終わる。ネイティブが何を言っているのかわからない。疎外感を味わいます。初日から出しゃばって、生徒の輪に入り込み、ニックネームで呼ばれるくらいにならないと。十分な準備をして臨む必要があります」と初動の大切さを強調する。
ステージ2は世界で最も困難なテイスティングとセオリーの試験が待ち受けている。セミナーに出席し、テイスティング、セオリー、短いリサーチ・ペーパーの課題、産地旅行などを積み重ねて受験する。多くの人にテイスティングの壁が立ちはだかる。試験では2時間15分で12ワインをブラインドテイスティングする。産地の特定、品質はもちろん、生産手法、市場での可能性などを答える。1つのワインに対する解答にかけられる時間は10分前後だ。
「MWのテイスティングコメントは、WSETディプロマとも、日本のテイスティングとも全く違う。ワインの各要素が生産手法とどのように結びついているかまで求められる。産地についても、その理由をグラスからすべて拾って論理的に書いて、MWを納得させられる文句のつけようのないコメントが求められる。対象はバッグ・イン・ボックスから高級ワインまで、世界のワインすべてです。伝統産地のフランスだけでは追い付かない」と小原さん。
大橋MWは「きめ細かい泡だから熟成の長いシャンパーニュ、というような答えではだめ。シャンパーニュより熟成の長いスパークリングはほかにもある。だれがたどってもこの結論に達するという内容を理路整然と答える必要がある。それができるから”マスター”なのです。審査するMWは受験生をMWにしていいかという視点で解答をチェックしています」と語る。
セオリーは、栽培、醸造と瓶詰前の手順、ワインのハンドリング、ワインビジネス、時事問題の5つの分野からなる。時事問題以外は基本は1時間で1問を解く。範囲の広さもさることながら、1つの見方に対する反論も含めた多角的なとらえ方が求められる。これも時間が短いので、腕が疲れるくらいひたすら書き続けないと間に合わない。
「知識をひけらかすだけではだめ。例えば、スキンコンタクトがワインのスタイルや品質に与える影響の問題が出たら、赤ワインだけでなく、オレンジワインにも触れ、スキンコンタクトのないシャンパーニュまでカバーし、どうコントロールするとどのような効果が得られるかをまとめる。問題を見て、何を聞いているのかという裏側が見えるようになったらしめたもの」と大橋MW。
ステージ3はリサーチ・ペーパー。文学、栽培、マーケティングなど幅広い分野からテーマを選べ、独創性と最新の科学的な調査が求められる。テーマ選択の時点から、新しさや切り口がチェックされて敷居が高い。大勢のMWが「リサーチ・ペーパーが最大の試練」と口をそろえる。大橋MWのテーマは「東京の高級寿司レストランのワインリスト:現状と変革への機会」だった。すぐにテーマが認められたが、同時にテーマを出した42人のうち1回で認められたのは6人しかいなかった。オックスフォード大の卒業生でも、論文の修正を迫られて一発合格しないことがあるほど審査が厳しい。
プログラムへの申し込みからリサーチ・ペーパーまでにかかる事務費用は1万345ポンド(約157万円)だが、日本人の場合はセミナーへの渡航費、宿泊代など余分にかかかる部分が大きい。日本に輸入されていない試験に出そうなワインを購入する資金もかかる。ステージ2にいる小原さんは年間150万円を予算として用意している。
「お金がかかるのは間違いないが、MWになればすぐにペイできる。日本はターゲット市場なので恵まれている。MWになってみると、改めて精密に作られている問題だと思う」と大橋MWは振り返る。
彼がMWを志したのは、サム・ハロップMWに出会ってMWのすごみに感動したから。酒屋の事業に役立てたいとか、コンサルタントになりたいという気持ちはなく、ひたすらMWになりたいという思いに突き動かされて勉強を続けた。サムから「まずWSETのディプロマをとることからだ」と忠告されたとき、その存在を知らなかった。自分でゼロから調べた。現在は、WSETの講座も充実していて、MWのセミナーも開かれ、情報は恵まれている。
チャップマンは「アジア市場は生徒も増えており、ポテンシャルが高い。日本は成熟した市場。中国は生徒の人数が多く、関心も高いから、100%中国系のMWも4、5年で現れるかもしれない」と語った。
MWは1953年に初めて試験が行われ、28か国に370人が存在する。コンサルタントが最も多く、教育家、バイヤー、小売り商も多く、ワインメーカーは34人。半分以上が英国にベースを置き、13%が米国、6%がオーストラリアにベースを置く。日本で活動するのは大橋健一MWのみで、日本人としてはロンドンベースの田中麻衣MWがいる。最も若くして合格したのは28歳の香港ベースの女性サラ・ヘラーMW。
今回のセミナーは、MW予備軍を啓発し、間口をさらに広げるのが狙い。ロンドンの本部から教育プログラム開発の責任者オリヴィエ・チャップマンが、シンガポール、上海、香港、東京と2週間にわたり、アジアをツアーした。教育プログラムの研修生は40か国に350人いるが、中国や米国の関心が高まっている。中国と香港の研修生は計40人。日本は英国人1人と日本人3人の4人。チャップマンが全体の仕組みを説明し、大橋MWとMWに挑戦中の研修生、小原陽子さんが、体験を踏まえた心構えや必要な資質を付け加えた。2人の発言にはグローバルなエリートであるMWのものの見方が見え隠れしている。
教育プログラム入りする前提として、WSETのディプロマ資格が推奨されている。80%は有資格者だ。WSETで学んだことはMWのプログラムに役立つ。
プログラムはステージ1、ステージ2、ステージ3の3段階に分かれる。ステージ1は、オーストリア、オーストラリア、北米のいずれかの土地での5日間にわたる滞在型セミナー、メンターのMWの指導、産地旅行、ネットワーク作り、テイスティングとセオリー(理論)の基本の習得が主な内容。最終的に、テイスティング(プラクティカル)とセオリーの試験に合格しないと、ステージ2に進めない。ステージ1の合格率は70%だ。
小原さんは「教えてほしいという態度では通用しない。必要なことは自分で調べて、戦略も考える。そこが日本人にハードルが高いかもしれない。始めるタイミングもよく考えた方がいい」と心構えを説く。
ステージ1は不合格になっても、最長2年までしか伸ばせない。大橋MWは最初の2009年は、不合格になって落ち込んだ。「受動態でいると、時間が流れて終わる。ネイティブが何を言っているのかわからない。疎外感を味わいます。初日から出しゃばって、生徒の輪に入り込み、ニックネームで呼ばれるくらいにならないと。十分な準備をして臨む必要があります」と初動の大切さを強調する。
ステージ2は世界で最も困難なテイスティングとセオリーの試験が待ち受けている。セミナーに出席し、テイスティング、セオリー、短いリサーチ・ペーパーの課題、産地旅行などを積み重ねて受験する。多くの人にテイスティングの壁が立ちはだかる。試験では2時間15分で12ワインをブラインドテイスティングする。産地の特定、品質はもちろん、生産手法、市場での可能性などを答える。1つのワインに対する解答にかけられる時間は10分前後だ。
「MWのテイスティングコメントは、WSETディプロマとも、日本のテイスティングとも全く違う。ワインの各要素が生産手法とどのように結びついているかまで求められる。産地についても、その理由をグラスからすべて拾って論理的に書いて、MWを納得させられる文句のつけようのないコメントが求められる。対象はバッグ・イン・ボックスから高級ワインまで、世界のワインすべてです。伝統産地のフランスだけでは追い付かない」と小原さん。
大橋MWは「きめ細かい泡だから熟成の長いシャンパーニュ、というような答えではだめ。シャンパーニュより熟成の長いスパークリングはほかにもある。だれがたどってもこの結論に達するという内容を理路整然と答える必要がある。それができるから”マスター”なのです。審査するMWは受験生をMWにしていいかという視点で解答をチェックしています」と語る。
セオリーは、栽培、醸造と瓶詰前の手順、ワインのハンドリング、ワインビジネス、時事問題の5つの分野からなる。時事問題以外は基本は1時間で1問を解く。範囲の広さもさることながら、1つの見方に対する反論も含めた多角的なとらえ方が求められる。これも時間が短いので、腕が疲れるくらいひたすら書き続けないと間に合わない。
「知識をひけらかすだけではだめ。例えば、スキンコンタクトがワインのスタイルや品質に与える影響の問題が出たら、赤ワインだけでなく、オレンジワインにも触れ、スキンコンタクトのないシャンパーニュまでカバーし、どうコントロールするとどのような効果が得られるかをまとめる。問題を見て、何を聞いているのかという裏側が見えるようになったらしめたもの」と大橋MW。
ステージ3はリサーチ・ペーパー。文学、栽培、マーケティングなど幅広い分野からテーマを選べ、独創性と最新の科学的な調査が求められる。テーマ選択の時点から、新しさや切り口がチェックされて敷居が高い。大勢のMWが「リサーチ・ペーパーが最大の試練」と口をそろえる。大橋MWのテーマは「東京の高級寿司レストランのワインリスト:現状と変革への機会」だった。すぐにテーマが認められたが、同時にテーマを出した42人のうち1回で認められたのは6人しかいなかった。オックスフォード大の卒業生でも、論文の修正を迫られて一発合格しないことがあるほど審査が厳しい。
プログラムへの申し込みからリサーチ・ペーパーまでにかかる事務費用は1万345ポンド(約157万円)だが、日本人の場合はセミナーへの渡航費、宿泊代など余分にかかかる部分が大きい。日本に輸入されていない試験に出そうなワインを購入する資金もかかる。ステージ2にいる小原さんは年間150万円を予算として用意している。
「お金がかかるのは間違いないが、MWになればすぐにペイできる。日本はターゲット市場なので恵まれている。MWになってみると、改めて精密に作られている問題だと思う」と大橋MWは振り返る。
彼がMWを志したのは、サム・ハロップMWに出会ってMWのすごみに感動したから。酒屋の事業に役立てたいとか、コンサルタントになりたいという気持ちはなく、ひたすらMWになりたいという思いに突き動かされて勉強を続けた。サムから「まずWSETのディプロマをとることからだ」と忠告されたとき、その存在を知らなかった。自分でゼロから調べた。現在は、WSETの講座も充実していて、MWのセミナーも開かれ、情報は恵まれている。
チャップマンは「アジア市場は生徒も増えており、ポテンシャルが高い。日本は成熟した市場。中国は生徒の人数が多く、関心も高いから、100%中国系のMWも4、5年で現れるかもしれない」と語った。
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