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セントラルオタゴのピサの畑を開拓、サトウ・ワインズの新たな挑戦

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 ゼロから畑を造る苦労は想像を超えている。ニュージーランドのセントラルオタゴで、サトウ・ワインズの佐藤嘉晃・恭子夫妻が購入した畑を歩いて実感した。
 佐藤夫妻はバノックバーンのフェルトン・ロードで修業し、マウント・エドワードのワインメーカーを経て、2009年に自らのワイナリーを興した。クロムウェルの街の近くでワインを醸造している。
 購入したのは、これまで契約畑だったピサ・テラス・ヴィンヤード。クロムウェルの街から北上し、ダンスタン湖西岸の斜面に広がる。ピサ山のふもとにあり、標高295-345m。対岸のベンディゴにあるプロフェッツ・ロックがよく見える。5haの土地のうち3.2haにブドウを植えている。6区画に分けて、ガメイ、カベルネ・フラン、シャルドネ、シュナン・ブラン、ピノ・ノワールを栽培する計画だ。
 斜度は20度。標高差があるから、畑を上り下りするだけで疲れる。シスト主体で石英や岩が混じる。石が表面に浮かんでいる。表土は薄く、水はけがよいが、上部から下部に流れ落ちる。それを戻すのも大変だ。
 「土をショベルで掘り起こすと、巨大な岩が地中にある。800トンも出てきました」と佐藤さん。その岩を積み重ねて、畑の区切りにしている。資金力の豊富な大企業とは違うから、何事も手造りになる。2人でこの畑を開拓するのは容易ではないだろう。これまでの仕事が実っていて、幸いにも土壌はよくできているという。
 テラス状に広がるこのピサの畑は、日照時間の長さが強みだという。夏は朝の4時半から夕方6時まで日照を受けるという。訪れた1月末は8時過ぎまで明るかった。
 「ハングタイムが長いのでゆっくりと熟度が上がります」。複雑な香味を蓄えるのに適している。
 新興産地は伝統産地に比べると、土地や労働コストが安いが、ゼロから切り開く大変さがある。平地ではなく、斜面はなおさらだ。景気のいいニュージーランドは土地の価格も上昇しており、佐藤夫妻もここで思い切って購入を決断したという。ワイナリーが刷新して結果を出すのは、ボルドーのような産地ですら、10年も20年もかかる。根気のいる仕事だが、見守りたい。
 地元のレストランに場所を移して、ワインを試飲した。「サトウ・ワインズ ピノ・ノワール ピサ・テラス セントラル・オタゴ 2016」(Sato Wines Pinot Noir Pisa Terrace Central Otago 2016」は昨年9月に瓶詰した。フローラル、スミレ、レッドチェリー、シルキーなテクスチャー、グリップのあるタンニンはしっとりとしていてスムーズ、熟しているが艶やかな果実は丸い。フレシュな酸に支えられている。全房発酵の比率は16%、新樽は15%。5960本の生産。92点。
 裏ラベルに明記してあるが、畑では殺虫剤、除草剤、化学肥料などは使わない。醸造過程では培養酵母、酵素、バクテリアなど添加物はなし。瓶詰前にリットル当たり20ミリグラムの亜硫酸を加えるのみだ。ビオディナミに取り組む生産者は多いが、ドメーヌ・ビゾやフィリップ・パカレで修業した佐藤さんは醸造にも全く妥協がない。それは産地のほかの生産者も認めているし、師匠のビゾからもお墨付きをもらった。
 「サトウ・ワインズ ピノ・ノワール ランソリット セントラル・オタゴ 2016」(Sato Wines Pinot Noir L'insolite Central Otago 2016」はクロムウェルの北の東岸にあるノース・バーン・ステーション・ヴィンヤードから100%全房発酵で仕込んだ。ザクロ、ブラックラズベリー、アニス、高解像度画像を見るように思えるほど精細度が高い。しなやかな口当たり、厚いミッドパレット、たっぷりした果実があり、エキゾチック。アルコール度は13.2%。緊張感が長く続くセクシーワイン。新樽なしで18か月間の熟成。1763本。94点。
 「サトウ・ワインズ ピノ・ノワール ノースバーン セントラル・オタゴ 2016」(Sato Wines Pinot Noir Northburn  Central Otago 2016」は除梗したバージョン。西岸のピサ・テラスと比較すると、引き締まっている。レッドベリー、ブラッドオレンジ、シナモン、岩をなめるようなミネラル感、滋味が深く広がる。ミッドパレットの広がりがあり、ストラクチャーはしっかりしている。エネルギーあふれるフィニッシュ。新樽は12%。5390本。93点。
 ニュージーランドには、クスダ・ワインズ、コヤマ・ワインズ、キムラ・セラーズ、フォリウムとサトウ・ワインズという、日本人が奮闘しているワイナリーが5つある。このうち、ジャンシス・ロビンソンの「ワールドアトラス・オブ・ワイン」に掲載されているのは、クスダ・ワインズとサトウ・ワインズのみだが、どの生産者も信念とガッツがあり、地元ワイナリーからも敬意を持たれている。日本人として応援したくなる生産国だ。
 サトウ・ワインズの輸入元はヴィレッジ・セラーズ。
銀行マンから転身して自然派ワインを造る佐藤嘉晃・恭子夫妻
対岸のクロムウェルを望む
20度の斜度で水はけがいい
畑から出た巨大な岩で区切りを

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