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日欧EPAでEUワイン関税撤廃、消費者心理にはプラスだが……

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 日本とEUの経済連携協定(EPA)交渉で、欧州ワインの関税が即時撤廃の見通しになったことは、消費者心理にプラスに働くだろう。だが、値下げの恩恵を受けるデイリーワインでは新世界ワインの品質が上回り、大手メディアが報じるようにEU産ワインの売れ行きが単純に増えるかどうかは不透明だ。
 ワインにかかる関税は15%またはリットル当たり125円のうち低い税率が適用されている。ボトル1本当たり最大で93.75円となる。EPAが2019年の早い段階で協定発効となれば、即時撤廃される。これによって、輸入商社は低価格帯のEU産ワインの買い付けに力を入れ、スーパーはEUワインを前面に出したセールを始める可能性が高い。
 2016年の日本の輸入ワインの国別ランキングは、チリ、フランス、イタリア、スペイン、オーストラリアとなっている。チリはフランスを抜いて、2015年から2年連続で輸入ワインのトップとなった。これは2007年にEPAが発効して、関税が段階的に引き下げられたため。500-1000円のデイリーレンジが強いので、関税引き下げ効果を享受している。オーストラリと日本のEPAも2015年に発効したが、関税撤廃は2021年となる。EUワインはこれらに先んじて関税撤廃となる可能性が出てきた。
 だが、今回の大手メディア報道では、チリが成功したから、”高級な”フランスが手軽に飲めるようになるという論調が見られたが、この見方は単純すぎる。EUワインについては、チリやオーストラリアのワンコインワインと対抗できるのは、スペイン、ポルトガルなど一握りの国に限られる。フランスやイタリアのワインは全体的に値段の高い中級ー高級ワインが多く、EPAの恩恵は少ない。関税撤廃による値下がりがあっても、低価格帯のワインが新世界ワインに、品質と価格の面で対抗できるかは不透明だ。EUは21世紀に入ってワイン制度を改革し、新たなカテゴリーを設けてラベル表記など様々な要件を緩和しているが、それも、新世界ワインのコスト・パフォーマンスや消費者へのわかりやすさに押されているからだ。関税撤廃によって、低価格帯のEUワインが新世界ワインに比べて、すぐに大きく売り上げを伸ばすとは考えにくい。
 ただ、長期的に見れば、今回のEPAはワインのメディア露出を増やし、身近なイメージを与える点で、消費者心理にプラスに働くのは間違いない。ワイン&スピリッツの国際見本市「ヴィネクスポ」によると、日本人の成人1人当たりのワイン消費量は、2014年に3.5リットル(約4.6本)だったのが、2019年には4リットル(5.3本相当)に達する見通し。スパークリングワインとチリやスペインの安価なワインが消費をけん引していると指摘している。ワイン研究者の堀賢一氏は「日本市場で消費されるワインの9割は1000円以下。関税撤廃による値下げの効果は大きい」と見ている。
 一方、TPP交渉については、ニュージーランドが対象となるが、この国も低価格帯のワインは少ない。焦点となるのは交渉から離脱した米国だろう。今回の日欧EPA交渉の合意を受けて、日米の自由貿易協定(FTA)交渉を推進する方向に向かうのは間違いない。日本はカナダ、英国に次いで、3番目のカリフォルニアワインの輸出市場であり、その動きが注目される。
 関税撤廃の動きはワイン輸入に様々なメリットをもたらす。堀氏は「現在の国産ワインの原料となっている濃縮果汁はアルゼンチン、南アフリカ、マケドニアがメイン。関税が撤廃される流れの中で、これらがバルクワインに置き換わり、健全な形になる。また、生産国がバルクワインを消費国や消費国に近い国で瓶詰めすることが可能になり、ワインのフレッシュなローテーションが実現できる」とコメントした。
輸入ワイントップのチリ。アサヒビール提供

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